米の価格が高騰し、品薄が続いています。米が棚から消えてしまったスーパーもあります。
政府は備蓄米の放出に踏み切りました。
その理由として悪天候、インバウンド需要の増加など様々な話題が出ていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
また、米の高値はいつまで続くのでしょうか。
「令和の米騒動」で何が起きているのか、農林水産省などのデータをもとに紐解いていきましょう。
農林水産省は4月21日、4月7~13日に全国1,000店のスーパーで販売された米の価格を発表しました。
5キロあたりの平均価格は4,217円で、前の年の2,078円に比べると2倍の水準になっています。*1
政府は備蓄米21万トンを放出し、さらに4月中に10万トンの入札を実施するほか7月ごろまでは備蓄米を毎月放出する方針ですが、流通には時間がかかっているようです。*2
またパックごはんに需要が集中し、大手のサトウ食品は一部のパックごはんの販売を停止すると発表しました。商品の品薄が続き、出荷調整が必要になったためとしています。*3
混乱の理由は何でしょうか。
今回の混乱は「令和の米騒動」とも呼ばれていますが、過去には「平成の米騒動」もありました。
1993年(平成5年)のことです。冷夏が米の不作をもたらし、米の生産量は前の年に比べ74.1%にまで落ち込みました。*4
タイ米などが緊急輸入されたことを覚えている人も少なくないことと思います。今でこそタイ料理店などで当たり前のように見かけるタイ米ですが、当時は「美味しくないのでは?」という不安も広がりました。
なお、この出来事が現在の備蓄米制度ができるきっかけになっています。*5
しかし今回の米価格高騰は平成の米騒動とは異なり、さまざまな要因が絡んでいます。それだけに、さまざまな見解があります。
ものの価格の混乱の原因を探るには生産と消費の両面から考える必要がありますので、まず生産側の事情からみていきましょう。
農林水産省によると令和6年産の主食用の米の収穫量は679万2,000トンで、前の年より18万2,000トン増加したと見込まれています。
水稲(主食用)の作付け面積と収穫量
出典)農林水産省「令和6年産水陸稲の収穫量」
前の年より収穫量が多くなっているのになぜ店頭の米が減っているのでしょうか。
コメの流通業界は、2023年(令和5年)産の米の作況指数は平年以上だったものの猛暑の影響で品質が低下し、割れた米や悪天候の被害に遭った米などを流通段階で取り除いたために供給量が少なくなった、と説明しているということです。*6
そして、消費側の事情はこのようになっています。
まず農林水産省が公表している近年の米の需給動向は下のようになっています。
米の需給バランスの推移
出典)農林水産省「米の需給状況の現状について」
食の欧米化による「米離れ」や人口の減少で米の需要は低下している…米についてはこんなイメージがありますが、上のグラフをみると令和4(2022)年以降、需要量が生産量を上回りはじめています。実は数年前から米が足りていない状況があった、ということです。
米の需要が増加したことについては、いくつかの理由が指摘されています。
ひとつにはインバウンド需要が原因とする説です。
農林水産省の試算によると、令和5年(2023年)7月から令和6年(2024年)にかけてのインバウンドでの米の需要は3.1万トン増えたと推定されています。
また、2025年にはインバウンド需要がさらに34%増えるとの見通しを公表していますが、米の需給全体に与える影響は小さいとしています。*7*8
もうひとつ指摘されているのが「買いだめ」です。*9
2024年の春先から酷暑による米の供給不足が懸念され始め、メディアで報道されることが増えてくると、米の価格がじりじりと上がり始めます。
そして決定打は8月8日、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことです。
同時にお盆前後の台風被害の頻発もあり、これらの報道をきっかけに買いだめが起きて店頭での品切れが相次ぎ、価格が高騰したという見方です。
米の価格上昇の状況(2021年を100とした指数)
出典)三菱総合研究所「『令和のコメ騒動』(1)コメ高騰の歴史に学ぶ、今後の見通し」
上のグラフをみると、実際に2024年の春先から価格が爆発的に上昇していることがわかります。
筆者も南海トラフ地震臨時情報の発表時には何かしら「パニック買い」が起きるだろうと予想していましたが、急にスーパーから米だけではなく飲料水も姿を消していたことを覚えています。
さて、今後の見通しはどのようになっているのでしょうか。これはなかなか難しい問題です。
短期的には、卸業者やスーパーは高値で買い取った米をすでに持っているものの、備蓄米が入ってくるとそれをさばかなければならない時期が来るため、一度は米の価格は下がるだろうという考え方があります。
ただ、販売する側としてはかなりの高値で仕入れているわけですから、消費者が実感するほどの値下がりになるかどうかはわかりません。*10
一方で、米の価格は年々じわじわと上昇しているというベースがあります。
JA全農と卸売業者との取引価格は、令和3年(2021年)産の玄米60キロあたり1万2,804円から、翌令和4年産は1万3,844円、令和5年産は1万5,315円と上がり続けているのです。*11
背景には政策があり、これがいま批判されています。
農林水産省は、米の需要は年に約10万トン減少していくとして、生産調整(減反)を続けています。農家が作りたくてもそれ以上好きなようには作れないという制度になってしまっているのです。*12
このような事情をみると、長期的には米の値下がりは期待できない可能性があります。悪天候による不作が発生すると、また値上がりすることでしょう。
また、輸送にかかる燃料価格などの高騰を考えると、米価格の上昇トレンドを抑えることは難しそうです。
消費者としては価格の推移をこまめに見守り、また、農協を経由せずに直接消費者に米を販売する農家を探るなどの努力が必要になっていきそうです。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 農林水産省「米の流通状況等について」
*2 読売新聞オンライン「コメの店頭価格、15週連続で値上がり…前年の2倍の水準続く」
*3 サトウ食品「パックごはん 一部商品の休売および終売のお知らせ」
*4 TBS NEWS DIG 「戦後最悪の凶作「平成の米騒動」で日本人はどうした?(1993-94年)【TBSアーカイブ秘録】」
*5 NHKニュース「政府備蓄米21万トン放出“来月半ばにも開始”価格動向が焦点」
*6 キヤノングローバル戦略研究所「このままでは「令和の米騒動」が繰り返される…コメ不足を放置して利権を守る「農水省とJA農協」の大問題」
*7 農林水産省「米の基本指針(案)に関する主なデータ等」
*8 NHKニュース「訪日外国人が消費するコメの量 去年比30%余増の見通し 農水省」
*9 三菱総合研究所「『令和のコメ騒動』(1)コメ高騰の歴史に学ぶ、今後の見通し」
*10 東京新聞「「コメが安くなるのは5月連休か」農水省OBが明かす そもそも備蓄米っておいしい?放出ためらったワケは?」
*11 農林水産省「相対取引価格の推移(平成24年産~令和6年産)」
*12 毎日新聞「「コメを作るな」価格高止まりでも減反を求める 農水省の「罪」」