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中国の製造業 その強みと弱みはどこにある?最新の状況は?
中国の製造業 その強みと弱みはどこにある?最新の状況は?

中国の製造業 その強みと弱みはどこにある?最新の状況は?

2025/05/20に公開
提供元:清水沙矢香

中国の製造業はぐんぐん成長し、いまや世界のトップに君臨する存在となりました。

かつては人件費の安さなどを背景に「世界の工場」と呼ばれていましたが、技術力を身につけ、工業製品の一大輸出国となっています。ハイテク産業も大きく伸びてきました。

しかしここ最近、中国の製造業は成長に鈍化がみられると指摘されるようになりました。実際はどうなのでしょうか。

また、アメリカとの間の貿易摩擦も顕著になっています。

中国の製造業にはどんな強みと弱みがあるのかについて、現在の状況も含めて解説していきます。


15年連続で世界一の規模を維持

中国工業情報化部によると中国の工業全体の2024年の増加値(付加価値額)は40兆5000億元(1元=約21円)で、製造業の規模は15年連続で世界1位でした。*1

また、工業・情報化分野の経済成長への寄与率は4割を超えました。中国経済を牽引する産業に発展しています。

中国ではかつては個人や企業の私有財産は認められず、国が経済活動を直接コントロールしていました。しかし1980年の改革解放以降は工業化・近代化が急速に進み、2012年に2.62兆米ドルに達し、アメリカを抜いて世界トップの製造大国になってからも中国の製造業はなお成長を続けています。


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主要国の製造業付加価値額の推移

出典)日立評論「進化し続ける「世界の工場」 「中国製造2025」に見る製造強国戦略」


また、かつては人件費の安さなどを背景に海外企業から多くの部品製造などを請け負う存在でしたが、現在はハイテク分野でも技術力を高め、大きな存在感を見せています。


米国務長官「製造4分野で世界のリーダー」

ハイテク覇権争いの相手国であるアメリカも、中国の技術に警戒しています。

「ほとんどの分野で目標とした技術の最先端に達したか達しつつある」。

ルビオ国務長官は2024年に発表した報告書の中で中国のハイテク産業についてこう述べています。*2
ルビオ氏の報告書では、なかでもEV、エネルギー・発電、造船、高速鉄道の4分野では中国が「世界のリーダー」に達していると分析しており、中国の技術力を警戒するほどです。

中国はどうやって、ここまでの製造大国に上り詰めることができたのでしょうか。


中国の製造業を大きく成長させた要因

中国の製造業には、いくつかの「強み」があります。


価格競争「50万円EV」も

まずは製品の価格競争における優位性です。

例えば世界でEV合戦が続く中、中国は低価格の「宏光MINI EV」を市場に投入しています。「50万円EV」という破格で人気を集め、2025年2月の世界のEV・PHV販売台数では車種別のトップ10で2位に浮上しています。*3

ただ、こうした低価格路線も人件費の増加によって難しくなっていく可能性があります。


政府主導の大きなテコ入れ「中国製造2025」

そこで中国共産党・政府が主導して製造業に大幅なテコ入れをしています。その代表例とも言えるのが、2015年に公表された「中国製造2025」です。
「中国版インダストリー4.0」とも呼ばれ、ハイテク産業10分野に重点を置き政府主導の投資や振興策、援助策が実施されており、その規模は10年間で約85兆円に達する見通しです。*4


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「中国製造2025」の重点分野

出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「製造業の高度化を目指す中国」


この「中国製造2025」は、目標の9割近くを達成したとの分析もあります。*2


内需主導経済への転換

また中国は2008年のリーマンショックで輸出産業が大ダメージを受けたという経験をしています。その経験から、収入を輸出に依存する体質から脱却し、国内での消費=内需の拡大によって経済を安定させる方向に舵を切ったのです。*5

莫大な人口は、中国の成長の起爆剤とも言えます。日本で1億人が必死に国産品を買ったとしてもおよそ追いつかない額のお金が中国国内を循環するのです。


「トランプ関税」は中国の製造業を脅かすか?

さて、足下の中国製造業の様子を見てみましょう。


中国製造業の状況を示す指数「PMI」とは

中国の製造業の状況を示す指数として「製造業購買担当者景気指数(PMI)」があります。
中国国家統計局が製造業3千社へのアンケート調査から算出するもので、受注や生産などについて50を上回れば拡大を、下回れば縮小を示します。

なおPMIには2種類あり、もうひとつは中国メディア財新が公表しているものです。こちらは政府が公表しているPMIに比べ調査対象に占める中小企業の比率が多く、景気動向を敏感に示すとされています。*6

中国の製造業の鈍化というのは筆者もよく目にするところですが、財新/S&Pグローバルが発表した3月のPMIは51.2と前月の50.8から上昇しました。
市場予想の51.1も上回り、好調ぶりが見え始めています。
*7


「トランプ関税」は中国にとって弱みになるのか?

そんなさなかに、米トランプ大統領は中国に対する関税の大幅な引き上げを実施しました。追加関税の税率は合計で145%(2025年4月10日発表時点) という理解を超えた数字ですが、ここで中国のおもな貿易相手を見てみましょう。*8


2

中国の主要貿易相手国

出典)JETRO「中国、第1四半期の貿易総額が過去最高を更新」添付資料


輸出を見てみると、圧倒的なアメリカ依存というわけではない様子が窺えます。よってアメリカへの輸出が厳しさを増した時、内需拡大政策でどこまで消費の落ち込みをカバーできるかがカギになることでしょう。


技術・ノウハウ面でどこまで渡り合えるか

最後に、今後の中国の製造業の課題は、質や技術の面をどこまで充実させられるかにあるでしょう。
しかし先ほどご紹介したように、米国務長官が警戒するくらいには技術の最先端に辿りつきつつあるようです。

今後の展望として、三菱UFJリサーチ&コンサルティングではこのように分析しています。


3

中国製造業の展望

出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「製造業の高度化を目指す中国」


今後「強い企業」も誕生するとの見通しです。

日本から見れば、中国とはかつての「発注元」「下請け」という関係ではなく、ライバルへと変化を遂げつつあります。
協業するという道も含めて、中国の製造企業とどう向き合うかは、すでに世界の課題になっていることでしょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 新華社通信「中国製造業の規模、15年連続で世界1位」
*2 日本経済新聞「中国製造2025、ハイテク目標の大半達成 米制裁もバネに」
*3 日経モビリティ「五菱宏光MINI、復活の2位浮上 2月の世界EV・PHV販売」
*4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「製造業の高度化を目指す中国」
*5 キヤノングローバル戦略研究所「改革・開放後に驚異の急成長 中国経済の長期展望と日中経済の未来」
*6 日本経済新聞「中国のPMIとは」
*7 ロイター通信「財新・中国製造業PMI、3月は4カ月ぶり高水準 輸出好調」
*8 日本経済新聞「対中追加関税は計145% 混乱のホワイトハウスが訂正」


清水 沙矢香
しみず さやか

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアや経済誌に寄稿中。

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