10月4日に実施された自民党総裁選では高市早苗氏が勝利し、女性初の総裁としても注目を集めています。
自民党総裁選は実質的に次の総理大臣を決めることでもあり、株式市場にも少なからず影響を与えます。
ここでは自民党総裁選の仕組みと合わせて、総裁選の結果によって株価がどう動いたか、過去の事例も含めてご紹介していきます。
自民党総裁選はわたしたちが直接投票できるわけではないので、その仕組みはよくわからないという人もいらっしゃるでしょう。
まず新総裁を決める票は、「議員投票」(=党所属の国会議員による投票。2025年は衆・参あわせて295票)と「党員投票(=各都道府県連で集計した党員・党友の票を議員投票の数に揃えて比例配分したもの)」があります。
自民党総裁選の仕組み
出典)自由民主党「総裁公選の仕組み 2025年版」
今回は議員投票、党員投票あわせて投開票が行われたのは10月4日でした。
なお、総裁選の候補となるのには条件があります。*1
それは党に所属する国会議員20名の「推薦人」が必要だということです。
今回、高市陣営の推薦人は下の通りでした(敬称略、都道府県名に続く数字は衆院選選挙区)。*2
【衆院】古屋圭司(推薦人代表、無派閥、岐阜5)、安藤高夫(旧安倍派、比例東京)、今枝宗一郎(麻生派、愛知14)、尾崎正直(旧二階派、高知2)、黄川田仁志(無派閥、埼玉3)、工藤彰三(麻生派、比例東海)、小林茂樹(旧二階派、比例近畿)、高木啓(旧安倍派、東京12)、中村裕之(麻生派、比例北海道)、仁木博文(麻生派、徳島1)、平沼正二郎(旧二階派、比例中国)、松島みどり(旧安倍派、東京14)、松本尚(旧安倍派、千葉13)、山口壮(麻生派、兵庫12)【参院】有村治子(麻生派、比例)、生稲晃子(旧安倍派、東京)、小野田紀美(旧茂木派、岡山)、片山さつき(旧安倍派、比例)、中曽根弘文(旧二階派、群馬)、若林洋平(旧二階派、静岡)
一方、小泉陣営の推薦人は下の通りでした(敬称略)。*3
【衆院】加藤勝信(推薦人代表、旧茂木派、岡山3)、伊東良孝(旧二階派、比例北海道)、遠藤利明(無派閥、山形1)、大串正樹(無派閥、比例近畿)、神田潤一(旧岸田派、青森2)、島尻安伊子(旧茂木派、沖縄3)、田所嘉徳(無派閥、比例北関東)、田中和徳(麻生派、神奈川10)、辻清人(旧岸田派、東京2)、中西健治(麻生派、神奈川3)、西銘恒三郎(旧茂木派、沖縄4)、根本拓(無派閥、比例東北)、野田聖子(無派閥、岐阜1)、牧島かれん(麻生派、神奈川17)、宮路拓馬(旧森山派、比例九州)【参院】阿達雅志(無派閥、比例)、梶原大介(旧二階派、比例)、上月良祐(旧茂木派、茨城)、福山守(無派閥、比例)、三原じゅん子(無派閥、神奈川)
わたしたちが選挙で選んだ議員、あるいはわたしたちの選挙区で当選した自民党議員がどちらの総裁候補を支持しているのかがわかります。
今回の総裁選には5人が立候補していました。
この場合、上の図にあるように「いずれも過半数に達しない場合、上位2名候補による決選投票」が行われます。
今回、第一回目の投票結果は、
となりました。*4
よって過半数を得た候補はおらず、上位の高市氏と小泉氏での決選投票となりました。決選投票では国会議員票295票のほかに、今度は各都道府県連が1票ずつ投票する形です。*5
その結果、高市氏が185票(議員票149、都道府県票36)、小泉氏が156票(議員票145、都道府県票11)を獲得し、第29代総裁に高市氏が選ばれました。
決選投票で都道府県の党員・党友票の多くを高市氏が獲得しているのは興味深いところです。
さて、総裁選後最初の取引となる10月6日の株式市場について見てみましょう。
6日の東京証券取引所で日経平均株価は急伸、終値は総裁選前の週末より2,175円26銭(4.8%)高い4万7,944円76銭と最高値を更新しました。*6
4日投開票の自民党総裁選で高市氏が新総裁に選ばれたことで財政拡張・金融緩和路線を進めるとの思惑から円安・株高が加速し、1日の上げ幅としては日経平均の算出開始以来4番目に大きくなっています。
防衛や核融合、宇宙など高市氏が掲げる政策に関連した銘柄が買われました。
じつは総裁選が行われる前、市場関係者の間では小泉氏の当選が有力視されていました。*7
両者が掲げていた金融政策には違いがあります。
小泉氏:財政規律を重視し、日本銀行の政策正常化を後押しするとみられ、投資家の間では利上げを意識したポジションが拡大していました。
一方で
高市氏:安倍晋三元首相の「アベノミクス」路線を継承し、財政支出や減税などを通じた景気刺激を重視、利上げには慎重な立場を取る
という違いがある中で、高市氏の当選は市場にとっては大きなサプライズとなったのです。
そこで持ち上がったのが「高市トレード」という言葉です。「高市トレード」とは、高市氏の政策スタンスを手がかりに、各種市場が連動して動く反応を指します。 典型的な形は、円安・株高・債券安(長期金利上昇)の3点セットです。
今回の市場の反応を改めて整理してみましょう。
▼株価はここまでご紹介してきたように大幅な値上がりで始まりました。積極財政によって市場にお金が流入してくるとの考え方です。
▼為替相場では円が売られ約150円台に下落しました。これは、高市氏がかねてから利上げに否定的なためです。*8*9
金利が上がれば円は買われますが、金利の低い通貨になりそうな円には魅力がなくなるというわけです。
▼債券相場では、総裁選後の10月6日、長期金利の指標となる新発10年物国債の流通利回りが1.680%に上昇、償還までの期間が10年を超える超長期国債の利回りも急上昇しました。*10
高市氏は赤字国債の発行も辞さないとする積極財政派ですが、行き過ぎた国債の発行で「国債格下げへの警戒感もあり、長期債の売りが優勢となった」と考えられています
最後に、過去の総裁選と株価の関係をみていきましょう。
出典)各報道と「日経平均プロフィル ヒストリカルデータ」をもとに筆者作成。2015年は無投票。
「変化に期待する」という文脈から全般的に総裁選後は株価が上がる傾向にあると言えそうです。
今回は市場の予測を裏切って高市氏が勝利したこと、また女性初の総裁であることにも注目が集まったことでしょう。また積極財政を表明している高市氏ですから、関連する産業の株が大幅に買われたという状況です。
株価としては大躍進で始まった高市自民党の船出ですが、これからは掲げる政策がどんな内容でどうスタートしていくか見極めていかなければなりません。
今後、新政権がどのようなスピード感を持って政策を進めていくかが注目されます。(2025年10月9日執筆)
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出典
*1 自由民主党「総裁公選の仕組み 2025年版」
*2 日本経済新聞「高市早苗氏の推薦人一覧 自民党総裁選2025」
*3 日本経済新聞「小泉進次郎氏の推薦人一覧 自民党総裁選2025」
*4 TBS NEWS DIG「【速報】高市早苗氏と小泉進次郎氏による決選投票へ 自民党総裁選」
*5 朝日新聞オンライン「自民党総裁選、開票結果の詳細 党員・都道府県ごとの投票先は?」
*6 日本経済新聞「日経平均終値4万7944円で最高値更新 「高市銘柄」防衛・核融合・宇宙に買い」
*7 ブルームバーグ「「高市トレード」って何、円安・株高・債券安の一辺倒に実はあらず」
*8 読売新聞オンライン「高市新総裁誕生で「円売り・ドル買い」加速…一時2か月ぶりの1ドル=150円台に」
*9 日本経済新聞「高市早苗氏に「アベノミクスの呪縛」 積極財政は物価高助長のリスク」
*10 時々ドットコム「「高市トレード」円安・株高進む 東証、一時4万8000円台―為替150円台、金利上昇」