2010年から2020年において発生した交通事故件数のうち、自転車乗用中の事故は約20%を占めています。*1
また、2021年中に生じた自転車関連事故は69,694件で、前年と比べると2,021件増えました。*2
交通事故全体に対する自転車事故の割合が増加傾向にあるなか、自転車保険への加入を義務付ける動きが全国で広がっています。
そこで今回は、自転車保険の加入義務化の背景や、加入時のポイントについて解説します。
なぜ自転車保険への加入義務化が促進されているのでしょうか。
車を運転する場合、万が一事故を起こしたときの賠償に備えて「自賠責保険」への加入が義務づけられています。*3
一方で、自転車にはそのような強制保険はありません。
そのため、事故発生時の「被害者救済」という観点から、条例により自転車保険への加入を義務化する動きが広まっているのです。*4
ここでは、自転車事故によるリスクや、義務化の対象となっている地域について解説します。
自転車は、子どもから高齢者まで誰でも利用できる便利な交通手段ですが、道路交通法では「軽車両」と定義されており、車の一種です。*2
交通事故を起こした場合、自転車に乗っている人には「刑事上の責任」や「民事上の損害賠償責任」が発生します。*3
事故によって相手方が亡くなったり、後遺障害が残ったりすると、加害者側に数千万円もの高額な賠償を命じられるケースもあります。*3
これは、自転車に乗っていたのが小学生だったとしても例外ではありません。
引用)自転車活用推進官民連携協議会 重点的な取組「自転車損害賠償責任保険等に関する情報(自転車事故と保険)」
このように、自転車事故によって生じる損害は想像以上に甚大なものが多く、しっかりとリスクに備える必要があります。
自転車損害賠償責任保険等への加入義務化の条例改正は、兵庫県で初めて導入されました。*4
地方公共団体における条例の制定状況は下図のとおりです。
引用)自転車活用推進官民連携協議会 重点的な取組「自転車損害賠償責任保険等に関する情報(条例による自転車損害賠償責任保険等への加入促進の動き)」
2023年4月時点で、自転車保険の加入について「義務」もしくは「努力義務」としている自治体は、全国の約90%となりました。
今後も自転車保険の義務化は進んでいくでしょう。
では、自転車保険にはどのように加入すればよいのでしょうか。
自転車保険の種類や、入っておくべき補償内容についてみていきましょう。
自転車事故を補償する保険は、主に下記のとおりです。*5
個人賠償責任保険とは、「日常生活において誤って他人に怪我をさせたり、他人の所有物を壊してしまった場合の損害を補償する」保険です。*6
自動車保険や火災保険、共済などに特約として付けるケースが多く、クレジットカードに付帯していることもあります。*5
特約ではなく「自転車向け保険」として販売されている商品もあり、各保険会社によって名称は異なります。*7
TSマーク付帯保険とは、自転車安全整備士による点検・整備を受けた自転車が加入できる保険です。*8
TSマークには、緑色・赤色・青色の3色があり、色によって補償内容が変わります。*9
すべてのマークに賠償責任補償と傷害補償が付帯されていますが、緑色TSマークには「示談交渉サービス」が付いています。
自転車保険に入るうえで、どのような補償が必要になるのでしょうか。
個人賠償責任保険やTSマーク付帯保険が補償する範囲は下図のとおりです。
引用)一般社団法人日本損害保険協会 損害保険Q&A「問95 自転車事故を補償する保険は、どのような保険がありますか」を参考に筆者作成
気をつけておきたいのは、対人賠償(相手方の生命・からだに対する補償)の支払限度額です。
自転車側に非がある事故について、高額な賠償金が発生するケースは少なくありません。
賠償額が「1億円」近い事例もあり、支払限度額の設定については、「無制限」や「1億円以上」など十分な補償額であるかチェックしましょう。*10
自転車保険への加入を検討する際、注意していただきたいポイントは3つです。
個人賠償責任保険は、自動車保険や共済の特約としてだけでなく、クレジットカードに付帯されている場合もあります。
加入を決める前に、いま自分が入っている保険契約に自転車事故が補償されるものがあるかどうかチェックしましょう。
また、「示談交渉サービス」や「ロードサービス」の有無も確認しておきたいポイントです。
示談交渉サービスでは、事故発生後の示談に向けての交渉を、加害者(自転車利用者)に代わって保険会社が代行します。*11
賠償問題を解決するには、専門知識だけでなく時間も体力も要します。
示談代行は、よりスムーズに話し合いを進めるために欠かせないサービスです。
ロードサービスは、自転車が事故などによって動けなくなった場合、希望の場所まで搬送してくれます。*12
いざという時に便利であり、自転車に乗って遠方に行く頻度が多い方などには検討していただきたいサービスです。
自転車は便利な交通手段ですが、事故によって甚大な被害をもたらす可能性があります。自転車保険は、被害者を救済するだけでなく、事故発生後の加害者側の生活を守る役割も果たしています。
加入が義務づけられていない地域であっても、自分や周囲の人の生活を守るため、「もしも」に備えておくことは非常に大切です。
<あわせて読んでみよう!>
少額短期保険(ミニ保険)とはどういうもの?所得控除の対象になる? 魅力と注意点を解説
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出所)
*1 一般社団法人日本損害保険協会「自転車事故の発生状況」(グラフ1 自転車関連事故件数等の推移)
*2警察庁 「自転車はくるまのなかま〜自転車はルールを守って安全運転〜」
*3 一般社団法人日本損害保険協会「自転車事故と保険」
*4 国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進について」
*5 自転車活用推進官民連携協議会 重点的な取組「自転車損害賠償責任保険等に関する情報(自転車損害賠償責任保険等への加入にあたっての確認ポイント)」
*6 一般社団法人日本損害保険協会 そんぽのホント「個人賠償責任保険」
*7 au損保 自転車向け保険「Bycle」
*8 公益財団法人日本交通管理技術協会「TSマークの強み」
*9 公益財団法人日本交通管理技術協会「TSマークの概要」
*10自転車活用推進官民連携協議会 重点的な取組「自転車損害賠償責任保険等に関する情報(自転車事故と保険)」
*11 一般社団法人日本損害保険協会 損害保険Q&A「問10 示談交渉サービスは、どのようなことをしてもらえるのですか?」
*12 au損保 自転車向け保険「Bycle」(補償内容・サービス)