少し前から資産運用に興味を持ち、自分なりに勉強を始めた。気になるキーワードをネットで調べたり、レビューの評価が高い本を買ったり、資産運用系のメディアをチェックしたり……。
その結果、わたしはお金の情報不信になった。
どれもこれもなんだか信用ならないし、勉強してもお金が増える気がしない。いいように誘導されているだけな気がする。
なぜわたしは、そういう気持ちになってしまったのだろう?
それはきっと、「お金を増やす方法を知りたい」という思いに囚われすぎて、肝心な「どの情報を信じるか」をよく考えなかったからだ。
お金に関する本を読む中で抱いた最初の違和感は、過度な一般論だった。
わたしは31歳既婚の女だが、「30代」といっても30歳と39歳では貯蓄額や収入が違って当然だし、男性と女性、既婚と独身でも経済状況は大きく異なる。
単身世帯の平均預貯金額は370万円で、保険や有価証券、金融商品なども含めると、金融資産は871万円。一方二人以上の世帯になると、平均貯金額は562万円で、トータルの金融資産は1,291万円。*1*2
こういった経済状況の違いはあまり考慮されず、「30代」「女性」「夫婦」などでまとめられ、「30代から始める資産運用」「夫婦でできる投資」といったテーマで語られることが多い。
本来なら、「年収350万円程度で貯蓄200万円の単身者向け投資講座」のように、経済状況を踏まえたターゲット設定すべきじゃないのだろうか。
とはいえそれではピンポイントすぎて、現実的ではないのだろう。だから結局、一般化されて誰にでも当てはまるような情報ばかりで溢れている。
なんだか、どれも似たり寄ったりの情報ばっかりで薄っぺらいなぁ。本当に「万人に共通する資産運用方法」なんてあるんだろうか?
とまぁこんな感じで、わたしはお金の情報に不信感を抱くようになったのだ。
とはいえ、生きていくうえでお金は大事。
病気や事故などで突然大きな出費があるかもしれないし、お金に困る状況になってはじめて工面するのではリスクが高い。
そして何より、お金に関して無知だと、悪い人に利用される可能性が高くなる。
わたしがドイツに移住して初めて確定申告をする際、確定申告を請け負うドイツ在住の日本人がいることを知った。
その人はドイツ関連の日本の公的メディアにも寄稿していたので、すっかり信用して確定申告をお願いし、さらにビザ取得に必要な収入証明書の作成なども依頼。お金に関するいろんなことを相談していた。
日本語の請求書も多かったので、その人がいてくれて助かった~なんて思っていたのだが。
数か月後に送られてきた確定申告には、知らない人のサインと、聞いたこともない税理士事務所のスタンプが押されているではないか。
どういうことかを聞いたら、「パートナー税理士に委託している」とのこと。ん? わたしそんなの同意してないぞ? 誰だそれ?
その他にも不審な点があったのでドイツ人の税理士に相談したところ、すぐさまドイツの税理士資格所持者一覧ページをチェック。
彼の名前はなかった。
「その人はドイツで税理士資格を持っていないから、確定申告を請け負うのは犯罪。そのうえ同意なくあなたの書類や納税番号を第三者に伝えるのもアウト」とのこと。
えぇ~!? 有名メディアで連載しているような人なのに~!?
相談に乗ってくれたドイツ人税理士がその日本人業者に問い合わせたら、今まで依頼した分のお金がすぐに返ってきたので、違法であることを承知の上でやっているのだろう。
よくわからないからといって他人に丸投げしたら痛い目に遭うことを、身をもって知った一件だった。
税金と資産運用はまた違うとはいえ、大事なことは他人に丸投げするものじゃない。特にお金については、ある程度自分で理解・把握しておくほうが身のためだ。
お金についての勉強はするべきだとは思う。でもいまいちモチベが上がらないし、どの情報が信用できるかもわからない。自分にとって必要な情報は何なのだろう?
そこでふと気が付いた。
わたしに必要なのは、マネーリテラシーよりも先に、情報リテラシーなんじゃないか?
お金に関する本を読んでいるとき、「なんだかアベノミクスに関する言及が多いなぁ」と思いつつも気にせず読み進めると、最後の著者からの挨拶で5年以上前の日付が書かれていたことがあった。
どうやらわたしは、古い情報をインプットしていたらしい。
もちろん、少し前に書かれたものであっても勉強になることはある。その一方、5年間でルールが変わっていたり、新しいサービスが生まれたり、デフレやインフレの状況が変わっていたりもする。
何かを学ぶとき、それがいつの情報かを理解しておくことは大切だ。
また、ネットでいろいろな記事を読んでいると、「こういう調査があります」と書いてあるのに出典が明記されていないことや、「80%の人がこう答えています」というから出典を見てみたら、回答者がたったの30人だったこともある。
「古い情報かもしれない」「著者が専門家ではないかもしれない」「ソースが信用できないかもしれない」
そういった可能性をあまり深くは考えず、わたしは情報を選別しないまま書かれている情報を鵜呑みにしていた。その結果、自分に合わない、自分には必要のない情報を受け取って混乱していたのかもしれない。
お金を勉強するためには、もっと情報リテラシーが必要だったんだなぁ……。
ライターとしてある程度情報リテラシーを身に着けていたつもりでいたけど、お金に関する情報はどれも「それっぽく」書かれているから、すっかり信じてしまっていた。
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では具体的に、「お金を勉強するために必要な情報リテラシーってなんぞや」という話をしていこう。
情報リテラシーを意識したうえで改めて勉強してみると、この3つが大切なんじゃないかと思う。
第一に、事実と主張を分けて考えること。
例えば、「30代前半の平均給与は400万円ですが、これでは老後が心配です」と書かれていたとする。
「30代前半の平均給与は400万円」なのは事実だとしても、「これでは老後心配」というのは、筆者の個人的な考えだ。しかしこの書き方では、「年収400万円では老後の資金が足りなくなる」という事実があるかのような印象を受けるだろう。*3
事実と主張を混同すると、正しい判断ができなくなってしまう。
数字とともに書かれていることだからといって鵜呑みにせず、事実と主張は分けて考えたほうが懸命だ。特に「お金」という分野はそれっぽい数字が頻出するので、要注意である。
二つ目は、同じテーマの情報を比較すること。
Aをお勧めする人はそのメリットを強調するし、Aを批判する人はそのデメリットとリスクを強調する。
偏った意見だけを受け取らないように、同じテーマで違う角度から解説されているものを見比べる必要がある。それによって、より正しい判断ができるのだ。
最後に、メディアや著者、ソースを確認すること。情報リテラシーの最たるものなので、この大切さは、誰もが知っているだろう。
あなたが読んでいるその本、著者の名前をググってみただろうか? 出版年は確認しただろうか? その記事に出ている調査の元URLにアクセスしただろうか?
いちいち確認するのは面倒くさい。その気持ちはわかる。実際に目にする情報すべてのソースを確認する人なんて、まずいないだろう。
ただ、「本当にそうかな?」と一度疑ってみて、「信用する基準を満たしているか」を慎重に考える手間と時間は、やっぱり必要だと思う。
金融取引の際に重視する情報として、30代以下の男女ともに「ウェブサイト等で自ら収集した情報」と答えている割合が高い。*4
自分自身で調べたことなら信頼できる。ちゃんと自分で確認したから大丈夫。
そう思い込んではいないだろうか?
冒頭に書いたように、「30代から始める投資」情報であっても、31歳独身男性と39歳既婚子持ち女性では、経済事情がまったく違う。
「30代だから自分に当てはまる」と安易に信用するのではなく、「本当に自分にぴったりの情報なのか? 出典は? 他情報と比較しておかしな点はないか?」と疑い、そのうえで「よし信用できそうだ」と慎重に判断しただろうか?
お金の勉強をはじめた頃のわたしのように、「ただ本を読めばいい」なんて思っている人は要注意だ。
少し警戒しながらお金の勉強をしてみると、「あの本に書かれていたことと違うからもう少し調べてみよう」「大きなメディアだけど出典が曖昧だから参考にするのはやめておこう」と、より理解が深まるようになった。そうか、こうやって学ぶべきだったのか。
お金の勉強をしてもいまいちピンとこない、自分の糧になっていない、損をしている気がする。そんな人は、不適切な情報を受け取り、間違った判断をしているのかもしれない。
そうならないためにも、お金の勉強をする前に、情報リテラシーという観点で改めて勉強法を考えてみることがおすすめだ。
とりあえず……税理士資格を持っていない業者には気をつけようね!
出典
*1知るぽると「『家計の金融行動に関する世論調査2022年』(単身世帯調査)」p3
*2知るぽると「『家計の金融行動に関する世論調査2022年』(二人以上世帯調査)」p3
*3国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査 -調査結果報告-」p19
*4 MUFG資産形成研究所「金融リテラシー1万人調査の概要 - 男女・年代による金融リテラシーと投資行動の特徴 【若年層編】-」p17