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定額減税と賃上げ促進税制で給料は増える? 物価高対策の現状を弁護士が解説
定額減税と賃上げ促進税制で給料は増える? 物価高対策の現状を弁護士が解説

定額減税と賃上げ促進税制で給料は増える? 物価高対策の現状を弁護士が解説

2024/06/30に公開
提供元:阿部由羅

物価高が進行する一方で、各企業は賃上げを進めており、最近では中小企業にもその動向が広がっています。

また、政府は物価高対策として、賃上げ促進税制や定額減税を導入しました。
これらは、賃上げの促進や税負担の軽減によって、物価高に伴う国民の負担増を軽減しようとするものです。

本記事では、 物価高対策の現行の施策として、各企業における賃上げの状況・賃上げ促進税制・定額減税について解説します。


企業における賃上げの状況

経団連は2024年5月20日、大手企業を対象とした春季労使交渉に関する調査の第1回集計結果を公表しました*1。月例賃金のアップ率は5.58%で、1991年以来33年ぶりの5%超となりました。

また、日本商工会議所は2024年6月5日、中小企業における賃上げ状況の調査結果を公表しました*2。正社員における月給ベースの賃上げ率は3.62%となっています。

このように、大手企業・中小企業のいずれにおいても、ある程度の賃上げは進んでいる状況です。

しかしながら現時点において、賃上げの水準は急速な物価高の進展に追いついていません。
厚生労働省が行っている毎月勤労統計調査の結果によると、 2024年4月まで25か月連続で、物価変動を考慮した実質賃金が前年同月比マイナスとなっています*3。

国民の負担を軽減するためには、今後も継続的に賃上げを行うこと、物価高の抑制を図ることに加えて、減税や給付金などによる公的支援が不可欠といえるでしょう。


政府の物価高対策(1)|賃上げ促進税制

政府は、賃上げをした企業を優遇する「賃上げ促進税制*4」を導入しています。

賃上げ促進税制の内容は、賃上げをした企業が税額控除を受けられる(=納めるべき税金が減る)というものです。

令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度については、これまでの制度に比べて控除率が上乗せされました。
さらに、 控除しきれなかった額の繰り越しが5年間に延長され、さらなる賃上げの促進が図られています*5。


政府の物価高対策(2)|定額減税

令和6年度における税制改正の目玉として、政府は「定額減税*6*7」の実施を決定しました。定額減税は、一部の高所得者を除く幅広い国民が対象となります。


定額減税の金額

定額減税の主な内容は、令和6年度の所得に係る所得税から3万円、令和5年度の所得に係る住民税(納付期間:令和6年6月~令和7年5月)から1万円の、計4万円を控除するというものです。

また、配偶者や親族を扶養している方は、自分と被扶養者を合わせた人数分の定額減税を受けられます。
たとえば、 配偶者と子2人の計3人を扶養している人は、自分と合わせて4人分(=所得税12万円・住民税4万円)の定額減税を受けることができます。

なお被扶養者の有無は、所得税については令和6年12月31日の現況、住民税については令和5年12月31日の現況によって判定されます。


定額減税の対象者

定額減税の対象となるのは、納税者である日本の居住者のうち、 合計所得金額が1,805万円以下である方です。
「合計所得金額」とは、収入から各種控除を差し引いた後の金額を意味します。所得税については令和6年度の所得、住民税については令和5年度の所得によって判定されます。

給与収入のみを得ている人であれば、最大195万円の給与所得控除*8を受けられるので、年収2,000万円が定額減税を受けられる上限です。
また、所得金額調整控除*9などその他の控除も受ける場合は、さらに年収の上限が上がります。


定額減税の方法

定額減税の方法は、給与所得者と自営業者で異なります。


●給与所得者の定額減税の方法

給与所得者については、以下の方法によって所得税・住民税の定額減税を行います。

(a)所得税
減税額(1人当たり3万円)に達するまで、2024年6月分以降の給与から控除される源泉所得税が減額されます。

(b)住民税
2024年6月から2025年5月までの間に納めるべき住民税の額から、減税額(1人当たり1万円)を差し引いた額を11分割し、2024年7月から2025年5月までの11回に分けて特別徴収(=給与天引き)により納付します。

●自営業者の定額減税の方法
自営業者については、以下の方法によって所得税・住民税の定額減税を行います。

(a)所得税
減税額(1人当たり3万円)に達するまで、第1期予定納税額が減額されます。控除しきれなかったときは、第2期予定納税額も減額されます。
予定納税の有無にかかわらず、最終的には確定申告によって減税後の税額が確定します。

(b)住民税
減税額(1人当たり1万円)に達するまで、第1期の納付額が減額されます。控除しきれなかったときは、第2期・第3期・第4期の納付額が順次減額されます。


税金を控除しきれない場合は調整給付金を受けられる

所得税から3万円、住民税から1万円を引ききれない場合は、「調整給付金」を受給できることがあります*10。

調整給付金の支給対象者は、所得税または個人住民税所得割の少なくとも一方を納めており*11、定額減税しきれない額が生じることが見込まれる人です。
支給対象者には、定額減税しきれない額を1万円単位に切り上げて算定した調整給付金が支給されます。

(例)
所得税分3万円の定額減税を受けられる人が、令和6年分の所得税から2万2,000円のみ定額減税が行われた場合
→1万円の調整給付金が支給される

調整給付金の支給対象者には、市区町村から確認書が送付されます。確認書の記載内容を確認した上で、必要事項を記入し、本人確認書類を同封して返信しましょう。
確認書に対して返信しないと、調整給付金を受給できないのでご注意ください。

市区町村が確認書を受理した日から数週間程度で、口座振込により調整給付金が支給されます(処理期間は市区町村によって異なります)。


まとめ

減税や給付金の各制度については、そのルールや仕組みをよく知らなければ、恩恵を受ける機会を逃してしまうおそれがあります。

物価高で賃上げも不十分な状況では、公的な支援制度を漏れなく利用することが生活の助けとなりますので、日頃から情報収集を怠らないようにしましょう。

本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。


出典
*1 一般社団法人日本経済団体連合会「2024年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況(第1回集計)」
*2 日本商工会議所「中小企業の賃金改定に関する調査」の集計結果について~中小企業の賃上げ率は正社員で3.62%、パート・アルバイト等で3.43%~」
*3 厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要」
*4 中小企業庁「中小企業向け「賃上げ促進税制」
*5 中小企業庁「賃上げに取り組む経営者の皆様へ~政府は、賃上げに取り組む企業・個人事業主を応援します~」
*6 国税庁「定額減税 特設サイト」
*7 総務省「個人住民税における定額減税について」
*8 国税庁「No.1410 給与所得控除」
*9 国税庁「No.1411 所得金額調整控除」
*10 内閣府「定額減税しきれないと見込まれる方」への給付金(「調整給付金」)のご案内
*11 住民税非課税世帯等に対しては、すでに別途給付金が支給されています。参考)内閣官房「定額減税・各種給付の詳細」


阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。
その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。


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