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経済成長を続けるインド 人口ボーナス効果もあり日本を抜きGDP世界4位に
経済成長を続けるインド 人口ボーナス効果もあり日本を抜きGDP世界4位に

経済成長を続けるインド 人口ボーナス効果もあり日本を抜きGDP世界4位に

2024/11/04に公開
提供元:清水沙矢香

近年、インドの経済成長が著しく、来年にはGDPで日本を抜いて世界4位になる見通しになりました。

インドの成長には多くの日本企業も注目し、実際に現地企業の買収や工場設立などの形で進出を進めています。

インドの経済成長の勢いはどのくらいのものなのか、そしてこの成長はどうやって生まれたのか。どんな日本企業が進出しどんな成果を挙げているのか、といったことを解説していきます。


2025年には日本を抜いて世界4位の経済大国に

国際通貨基金(IMF)が4月に公表した推計によると、インドの名目GDP(=国内総生産)が2025年に日本を上回り、世界4位に浮上するとの見通しです。従来の予測よりも1年早く日本とインドのGDPが逆転することになります。*1*2


0

各国の名目GDPの推移予測

出典)内閣府「世界経済の潮流 2023年Ⅰ」


さらに世界的コンサルティング会社であるPwCは、2050年にはインドはアメリカを抜き、中国に次ぐ世界2位の経済大国になるとも予測しています。*3

また、株価も順調に伸びています。「BRICS(四大新興経済大国)」と呼ばれるブラジル、インド、ロシア、中国の中でも、群を抜いた伸びと言えます。


1

BRICsの株価推移

出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「インド 景気概況(2023年10~12月期)」


インドがここまで他国を突き放して成長を続けているのはなぜなのか、その背景から見ていきましょう。


中国を抜く14億の人口とその年齢構成

ひとつは、今のインドが14億という膨大な人口を抱えていることに加えて「人口ボーナス期」にあるということです。「人口ボーナス」というのは、経済発展は国民の若さで決まるという考え方にもとづいたものです。*4

確かに国民の平均年齢という意味で見ると、インドは他国とは全く異なる構造をしています。


2

各国の人口ピラミッド(2020年時点)

出典)総務省統計局「統計ダッシュボード」


上の図では時計回りに、インド、アメリカ、日本、中国の人口ピラミッドを紹介しています。
日本で少子高齢化が進んでいるのは皆さんご存じのことでしょう。
これに比べてインドは、若い人の割合が圧倒的に多いのです。各国の平均年齢は、


  • インド 31.1歳(2021年)
  • アメリカ 39.8歳(2021年)
  • 中国 38歳(2023年報道ベース)
  • 日本 47.9歳(2021年)

となっています。*5*6

同時に、インドでは生産年齢人口が約3分の2を占めていて(9億5,000万人)、その世代は給料を上げたい、家族を持って家も買いたいという意欲や、労働意欲も消費意欲も活発なのだといいます。

インドから日本に留学したり働いたりしている人を時折見かけますが、元国連職員の筆者の友人によれば、それは国として貧しいからではなく、逆に若い人が多すぎて仕事の数が足りずに海外に出ていくという現象が起きているのだそうです。

言い方を変えれば、労働力が余るほどに充実しているということでもあります。

なお国連の2023年中盤の推計によれば、インドの人口は14億2,860万人を超え、中国(香港、マカオなど除く)の14億2,570万人を若干上回りました。*7
上のグラフを見ると、中国でもすこしずつ少子高齢化が始まっているとも考えられます。人口の数と構成での優位性をもとに、インドは中国経済を猛追していく可能性があります。


ITサービス輸出の成長

またインドの成長を支えているもうひとつの要因として、ITサービス(ITをベースにした各種サービスのアウトソーシング受注)の輸出の急増が考えられます。


3

インドのITサービス輸出額の推移

出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「インド 景気概況(2023年10~12月期)」


IT・ビジネスサービスの輸出先は欧米向けが9割を占めています。*8
経済規模からすれば「太客」とも言えるでしょう。世界的なDXの潮流に乗って、この右肩上がりの傾向は続いていくと考えられます。


日本企業の進出も続々

経済成長、若い人が多いという人口構成に加え、その消費欲が旺盛だとなれば、当然日本企業にとってもインドは魅力的な市場です。

インドに進出している日本企業をご紹介していきましょう。

まずスズキです。
1983年に現地の国営企業との合弁会社を設立しインドでの製造を開始しており、「アルト」をベースにした「マルチ800」を筆頭に爆発的なヒットが始まりました。現在は日本国内の2倍の生産ペースに乗っていますが、今後も拡大していく戦略を掲げています。*9

ほかにも様々な業種でインド進出が相次いでいます*10。

パナソニックホールディングスはインドで需要が拡大する2007年にインドのメーカーを買収しましたが、当初約130億円だった売上高を23年度には約800億円にまで成長させました。
ダイキン工業は、インドでは家庭用エアコンの普及率が他国より低いことに注目して進出、家庭用エアコンで推定20%、業務用で60%のシェアを占めるまでになっています。

住友不動産、サントリー、ユニ・チャーム、医療検査機器大手のシスメックスもインドでのビジネスを軌道に乗せつつあります。

他にもインドには広範囲にわたり、各地に多くの日本企業が進出しています。


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インドに進出している日本企業

出典)経済産業省資料「インド国半導体/電子産業向け工業団地調査事業 事業報告書」


国際協力銀行(JBIC)によれば、海外に進出している日本企業に今後の有望な進出先をたずねたところ、インドは2年連続で首位となっています。*11


インド独自の文化背景をどう乗り越えるか

世界がインド進出に高い関心を持つのには、経済成長以外の理由もあります。

長引く米中の対立です。
アメリカと中国の間で貿易摩擦が続いていますが、インドの立ち位置は絶妙と言えるところにあります。

というのは、インドにとっては、アメリカは貿易、投資、援助、安全保障などの分野を中心に極めて重要なパートナーでありつつ、一方で中国は最大の輸入相手国でもあるからです。
中国に対しては貿易赤字も抱えている、つまり「借り」があるわけですから、良好な関係を続ける必要があります。*12

同時に米中どちらにとっても重要なパートナーであり、両国の間にいる存在、と言えるでしょう。
右肩上がりの経済成長を続けるインドは、米中互いに「見逃せない、手放したくない存在」と考えられていることでしょう。

ただ、日本企業のインドへの進出は一筋縄には行かない部分もあるようです。

インドでビジネスを展開するにあたって、カースト制度がひとつの壁になることがあるのです。
職業と身分が結びつくこの文化では、若者が出自という理由で就きたい職業に就けないという事情があります。*13

ICTビジネスは近年の産業でありカースト制度には規定のない職業という理由で、貧しい世帯の出身であっても若者が上を目指す大きなチャンスになっているということです。

ただ、他の産業となれば事情は異なることでしょう。また、言葉の壁もあり、採用や教育にかかる費用と恩恵とどちらが大きいのかはわかりません。宗教の壁もあることでしょう。
インドでは人口の79.8%をヒンドゥー教が占めています。*14

食事ひとつをとっても、かつての日本企業の中国進出と同じようにはいかないと考えられます。

消費欲旺盛な市場、一方で日本とはかけ離れた文化の違い、この対立を日本企業がどう乗り越えていくのかがインドで成功するかどうかの分かれ目にもなりそうです。


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本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 読売新聞「日本の名目GDP、2025年にインドに抜かれ世界5位へ…円安でドル換算が目減り」
*2 日本経済新聞「インドGDP、2025年に日本抜き4位 円安でIMF推計前倒し」
*3 PwC「PwC、調査レポート「2050年の世界」を発表 先進国から新興国への経済力シフトは長期にわたり継続‐インド、インドネシア、ベトナムが著しく成長」
*4 NHK「1からわかる!インド(1) 世界3位の経済大国に!成長のワケは」
*5 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2023)」
*6 BBCニュース「【解説】 中国の少子高齢化、経済成長にどう影響するのか」
*7 ブルームバーグ「インドが人口世界一、中国抜くと国連-全世界の2割近くに」
*8 内閣府「世界経済の潮流 2023年Ⅰ」
*9 週刊東洋経済2024年9月7日号 p56
*10 週刊東洋経済2024年9月7日号 p59-63
*11 NHK「日本企業に有望な進出先を調査 インド2年連続首位 中国は3位に」
*12 日本総研「世界経済の潮流を左右するインドの対米・対中経済関係」
*13 ダイヤモンド・オンライン「インドでIT産業が栄えた「3つの地理的背景」」
*14 国際協力銀行「概観」


清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。
社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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