最低賃金は毎年10月に改定されており、2024年もその時期が迫っています。
近年では毎年、最低賃金が大幅に引き上げられている状況です。
特に2024年は、物価高に必ずしも追い付いていないものの、各企業において賃上げの動きが見られます。そのため、最低賃金についてもさらなる引き上げが見込まれますが、どの程度上がることになるでしょうか?
本記事では、最低賃金の基本的な仕組みや、各都道府県の地域別最低賃金の状況などを解説しつつ、2024年の最低賃金引き上げの見通しを予想します。
「最低賃金」とは、使用者が労働者に対して支払うべき賃金の最低額です。
「最低賃金法」という法律により、1時間当たりの最低賃金が定められています。
最低賃金の目的は、すべての労働者に最低限の賃金を保障して労働条件を改善し、労働者の生活の安定・労働力の質的向上・事業の公正な競争の確保を図ることです。
最低賃金は、雇用形態を問わずすべての労働者に適用されます。
たとえば、アルバイトの時給は最低賃金以上に設定しなければなりません。
また、正社員の基本給を勤務時間で割った結果、1時間当たりの給与が最低賃金を下回ることも違法です。
最低賃金には「地域別最低賃金*1」と「特定最低賃金*2」の2種類があります。
(1)地域別最低賃金
該当する都道府県内の事業所で働くすべての労働者を対象とする最低賃金です。
(2)特定最低賃金
該当する都道府県内の事業所で働く労働者のうち、特定の業種に従事する者を対象とする最低賃金です。
原則として地域別最低賃金が適用されますが、特定最低賃金の対象である労働者については、両者のうちいずれか高い方が適用されます。
各都道府県の地域別最低賃金は、中央最低賃金審議会または地方最低賃金審議会の意見を聴いて、厚生労働大臣または都道府県労働局長が決定します。
毎年10月に地域別最低賃金が改定されるのが通例となっており、2024年7月現在の地域別最低賃金は、2023年10月から発効した金額が適用されています。
2023年10月以降の地域別最低賃金の全国加重平均額 は1,004円です。
※全国加重平均額:各都道府県の最低賃金を、労働者数で重み付けして平均した額
地域別最低賃金が1,000円以上となっているのは、以下の8都府県です。
参考)厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」を基に作成
一方、地域別最低賃金の額が下位となっている都道府県は、以下のとおりです。
参考)厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」を基に作成
2023年10月の地域別最低賃金改定では、全国加重平均額が前年度比で4.5%引き上げられました(961円→1,004円)。
昨今の経済状況を踏まえると、2024年10月にも、前年度と同程度以上の最低賃金の引き上げが予想されます。
経団連が2024年5月20日に公表した春季労使交渉に関する調査の第1回集計結果*3によると、 大手企業における月例賃金のアップ率は5.58%でした。
月例賃金のアップ率が5%を超えたのは、1991年以来33年ぶりです。
また、日本商工会議所が2024年6月5日に公表した調査結果*4によると、中小企業でも正社員における月給ベースの賃上げ率が3.62%と高水準を示しています。
このように、各企業において賃上げが進行している状況は、最低賃金の引き上げを後押しする大きな要素です。
各企業における賃上げの動きにもかかわらず、物価変動を考慮した 「実質賃金」は、2024年5月まで26か月連続で前年同月比マイナスとなっています*5。
実質賃金が低調に推移しているのは、近年では稀に見る水準の物価高が原因です。
小売店や飲食店でも値上げが相次いでおり、消費者の生活は圧迫されています。
こうした状況では、最低賃金の引き上げによって消費者の生活を支える必要性が高まっているといえるでしょう。
岸田文雄内閣総理大臣は2023年8月に、地域別最低賃金の全国加重平均額を2030年代半ばまでに1,500円へ引き上げるという新たな目標を表明しました。
2023年10月以降の最低賃金の全国加重平均額は1,004円ですので、10年程度で500円近くの引き上げを目指すことになります。
政府目標がどこまで有言実行されるかは不透明ですが、2024年10月の改定は目標達成に向けた最初のステップなので、 大幅な最低賃金の引き上げが行われる可能性が高いと考えられます。
これまで述べた状況を踏まえると、2024年10月の地域別最低賃金改定では、全都道府県において50円前後の引き上げが十分あり得ると思われます。
50円前後の引き上げが行われると仮定した場合、 以下の道県では2024年10月の地域別最低賃金1,000円超えが視野に入ってきます。
参考)厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」を基に作成
最低賃金の引き上げは、低賃金で働く労働者の待遇改善に繋がるメリットがあります。
その一方で、最低賃金が引き上げられることにより、 以下のようなデメリットやリスクが生じ得る点に留意しなければなりません。
(1)企業が新規の人材採用に対して慎重になり、雇用が減少して失業率が増加するおそれがあります。
(2)人件費の高騰によって、零細企業を中心に経営が苦しくなり、企業倒産が増加するおそれがあります。
(1)については、日本国内では若者を中心に労働力人口が減少しているので、それほど強く懸念する必要はないかもしれません。
(2)については、日本国内の経済全体を上向きに維持し、零細企業を含めた企業全体の業績を継続的に向上させられるかどうかがポイントといえます。
2024年に関しては、最低賃金が大幅に引き上げられる可能性が高い状況です。その一方で、今後も最低賃金が継続的に引き上げられるかどうかは、日本経済の動向にかかっています。
最低賃金の改定は、日本経済の実態や今後の見通しを示す重要な参考情報の一つです。
株式投資などを行う際にも、最低賃金を含めた経済の動向を知っておくことが大切になります。
SNS・ニュース・政府公表資料などを随時チェックして、社会経済に関する最新の情報収集を怠らないようにしましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
*1参考)厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
*2参考)厚生労働省「特定最低賃金について」
*3出典)一般社団法人日本経済団体連合会「2024年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況(第1回集計)」
*4出典)日本商工会議所「「中小企業の賃金改定に関する調査」の集計結果について~中小企業の賃上げ率は正社員で3.62%、パート・アルバイト等で3.43%~」
*5参考)厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要」