個人や企業などの所得に占める税金と社会保険料の負担割合を示す「国民負担率」。
財務省によると、2024年度の国民負担率は、定額減税などの効果により、2023年度より1ポイント低い45.1%になる見通しです。*1
国民負担率が高いほど、所得に対する税金等の負担が多いといえますが、日本の国民負担率は、他国と比較してどのような水準なのでしょうか。
また、国民負担率には、税金等のほか、将来世代の潜在的な負担として財政赤字を加えた「財政赤字を含む国民負担率」もあり、負担割合を見る際には注意が必要です。*2
そこで本コラムでは、国民負担率について、海外との比較や日本の過去推移を交えて解説します。
国民負担率とは、国民所得に対する租税負担と社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の比率のことです。*2
日本には現在、個人所得課税、法人所得課税、消費課税、資産課税などの租税負担があります。*2
所得課税とは、所得税や法人税、森林環境税などの国税、住民税や事業税などの地方税です。消費課税は、消費税や酒税、たばこ税などが挙げられます。資産課税とは、相続税・贈与税や不動産取得税などのことです。
出典) 財務省「税の種類に関する資料」
社会保障制度は、子どもから子育て世代、お年寄りまですべての人々の生活を支える制度で、「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」からなります。*3
現在の日本の社会保障給付費は、年金が44.8%(61.7兆円)を占め、次いで医療が31.0%(42.8兆円)となっています。
この社会保障給付費を賄うため、公費が54.7兆円(2024年度予算ベース)使われていますが、80.3兆円は個人や企業からの保険料で賄われています。これらの負担が、国民負担率における社会保障負担です。
出典)厚生労働省「給付と負担について」
国民負担率には、国民所得に対する国民負担率と、GDPに対する国民負担率があります。*4
国民所得とは、先述したように個人や企業などの所得のことです。
財務省の「負担率に関する資料」では、国民所得に対する国民負担率の推移などが掲載されています。冒頭で紹介した2024年度の見通しである45.1%も、対国民所得比の国民負担率です。*2
財務省の「国民負担率(対国民所得比)の推移」には、参考として対GDP比の国民負担率が公表されています。*4
GDPとは、「Gross Domestic Product」の略で、国内総生産のことです。GDPは、一定期間内に国内で産出された付加価値(サービスや商品を販売したときの価値から、原材料費用などを差し引いた価値)の総額で、国の経済活動状況を示します。*5
海外では、国民負担率として対GDP比を用いるのが一般的です。そのため、財務省も対GDP比の数字を対国民所得比とあわせて公表しています。*6
日本では、過去のデータを見ると、GDPの額が国民所得の額を上回っています。そのため、同じ国民負担額を計算する場合、分母が大きいGDPを使うと負担率が低くなります。
実際、2023年度のデータでは、対国民所得比の国民負担率は46.8%でしたが、対GDP比の国民負担率は34.5%でした。*4
国民負担率には、国民所得に対する租税負担や社会保障負担の比率を示す「国民負担率」のほかに、「財政赤字を含む国民負担率」もあります。
「財政赤字を含む国民負担率」とは、租税負担・社会保障負担に加えて、将来世代の潜在的な負担として財政赤字を加えた額の比率で、「潜在的国民負担率」と呼ばれることもあります。
財政赤字とは、国および地方の財政収支の赤字のことで、一時的な特殊要因を除いた数値です。
つまり、2023年度の国民負担率(対国民所得比)は46.8%ですが、国民所得に占める財政赤字の割合は7.1%だったため、これらを合計すると「財政赤字を含む国民負担率」は53.9%となります。*4
日本の国民負担率(対国民所得比)は、過去50年近くで見ると、上昇傾向にあります。
国民負担率(対国民所得比)の推移
出典)財務省「負担率に関する資料」
1975年度は25.7%でしたが、2023年度は46.8%と2倍近く上昇する見込みです。
負担の内訳を見ると、租税負担は18.3%(1975年度)から28.1%(2023年度)まで上昇しました。社会保障負担については7.5%から18.7%となり、増加率としては2倍以上です。*4
また、「財政赤字を含む国民負担率」も同様に、33.3%(1975年度)から53.9%(2023年度)に上昇しました。
ただし、2021年度の48.1%をピークに、近年、国民負担率は減少しています。
2023年度の国民負担率は、企業業績の回復や雇用者報酬が伸びたことによって改善したとされています。また、2024年度についても、6月以降に実施された定額減税などにより、2023年度より1ポイント低い45.1%という見通しです。*1
日本の国民負担率は、諸外国と比べると低い水準といえます。日本を含むOECD加盟36ヵ月での国民負担率(対国民所得比)の高さでは、日本は22番目となっています。
国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)
出典)財務省「負担率に関する資料」
最も高いのがルクセンブルクで86.8%。最も低い国はメキシコで23.0%となっています。
主要国と比較すると、日本の国民負担率はドイツやスウェーデン、フランスよりも低く、英国よりも高くなっています。
ただし、「財政赤字を含む国民負担率」となると、日本に比べて英国のほうが高いことがわかります。
主要国との国民負担率比較
出典)財務省「日本の財政関係資料」
対GDP比の国民負担率を見ると、日本の水準は対国民所得比の国民負担率と比べて大きく下がります。特に、日本は諸外国と比べ、社会保障支出の給付と負担のバランスが不均衡な状態であるため、制度を維持するための改革が必要といえます。*7
OECD諸国における社会保障支出と国民負担率の関係
出典)財務省「日本の財政関係資料」
本コラムでは、国民負担率の定義や過去の日本の推移、各国の水準について解説してきました。
国民負担率は、日本の社会保障のこれからを考えていくうえで重要な指標の一つです。国民負担のうえに社会保障給付が成り立っているため、適切な割合を維持していくことが重要といえます。
今回のコラムをきっかけに、日本の国民負担率について考えてみてはいかがでしょうか。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 NHK「2023年度の『国民負担率』46.1% 前年度を下回る見込み 財務省」
*2 財務省「負担率に関する資料」
*3 厚生労働省「社会保障とは何か」
*4 財務省「国民負担率(対国民所得比)の推移」
*5 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「GDP」
*6 読売新聞オンライン「『若者の稼ぎ、半分取られちゃう』との物騒な声も飛び交う…『国民負担率』ってなに?」
*7 財務省「日本の財政関係資料」