2023年、日本の名目GDPが、ドル換算でドイツに抜かれて世界4位になる見通しが強くなることが発表されるなど、ニュース等で話題となることが多いGDP。*1
GDPは、国の経済状況の良し悪しを端的に知ることのできる重要な経済指標です。*2
しかしながら、ニュースでは、「名目GDP」や「実質GDP」、「一人当たりGDP」など様々な用語で出てくるため、違いが分からないという方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、GDPの考え方から国内外のGDP動向、今後の見通しなど基礎知識を解説します。
GDP(Gross Domestic Product)とは、日本語では「国内総生産」と言い、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額のことです 。*2
付加価値とは、モノやサービスを販売した際の価値から原料費等を差し引いた価値のことで、国内で生み出された儲けと言えます。
GDPを活用して、その国の経済成長の度合いを図ることも可能です。例えば、ある年のGDPが500兆円、翌年のGDPが550兆円だった場合、GDP成長率は10%となります。
冒頭でも紹介したように、ニュース等では「名目GDP」、「実質GDP」と、使い分けされることがあります。
この2つの指標は、モノやサービスの価格を総体的に捉えた「物価」の変動を考慮するかによって分けられます。*2, *3
名目GDPとは、物価変動の影響を考慮せず、市場で取引きされている価格に基づき算出したGDPのことです 。*4
先に説明した名目GDPだと、物価が上昇している状態では、生産量が増えなくても、単純に価格が上昇した分だけでGDPの値が増えてしまいます。*5
そこで、より正確な経済状況を把握するための指標として、実質GDPが使われることがあります。
実質GDPとは、名目GDPから物価変動の影響を取り除いて算出されたGDPのことで、その年に生産されたモノやサービスの本当の価値を示したものと言えます 。*6
2022年の世界全体の名目GDPは、約100兆ドル。その内、アメリカが約25兆ドルと最も高く、次いで中国が約18兆ドル、日本は約4兆ドルでした。*8
主要国間の実質GDP及び一人当たり実質GDPの伸び率を比較すると、日本のそれらは主要国と比較して緩やかなものとなっています(図1)。*9
図1 主要国における実質GDP及び一人当たり実質GDPの推移
引用)「令和4年度 年次経済財政報告」内閣府 p.101
2023年の各国の名目GDPについて、IMF(国際通貨基金)によると、引き続き世界1位はアメリカ、2位は中国ですが、冒頭でも紹介したように、3位はドイツとなる見通しです。*1
これは、日本では円安ドル高が進んでGDPが目減りする一方で、ドイツではウクライナ情勢等の影響で物価が高騰したことによってGDPが押し上げられたためです。一方で、2023年のドイツの実質GDPの伸び率はマイナス0.3%と、経済の先行きは不透明と言えます。
そのため、経済規模を比較する際には、名目GDPだけでなく、実質GDPなど様々な指標を確認することが必要と言えるでしょう。
ここからは、主要国のGDP動向を見ていきましょう。まず、2023年のアメリカの実質GDP成長率は2.5%でした。*10
コロナ禍で蓄積された余剰貯蓄や株高などに伴う資産価値の上昇、賃金上昇率が高く保たれたことなどで、消費が2.2%増加しました。また、バイデン政権の政策効果が顕在化し始めたことなどによって、設備投資は4.4%増となりました。
一方で、2024年は2023年の強い成長を支えた要因の勢いが落ちることで、景気後退にまでは陥らない程度に、緩やかに経済が減速すると予測されています 。
中国国家統計局によると、2023年の中国の実質GDP成長率は5.2%。2023年3月の全国人民代表大会では、同年のGDP成長率目標を5.0%前後に設定していたため、この目標を達成した形となります。*11
民間投資は0.4%減、不動産開発投資は9.6%減の一方で、インフラ投資は5.9%増、製造業投資は6.5%増となり、固定資産投資額が前年比で3.0%増加しました。
また、商品の消費は5.8%増、飲食収入は20.4%増となり、消費(社会消費品小売総額)が前年比7.2%増と上向きです。商品別に見ると、金・銀・宝石類(13.3%増)、スポーツ・娯楽用品(11.2%増)、通信機器(7.0%増)など生活必需品以外の消費が比較的大きく伸びました。
中国国家統計局は、様々なリスク要因はあるとしつつも、足元の中国経済が上向いている点等を鑑み、2024年の中国経済も引き続き回復していくとの見方を示しています。
内閣府によると、2023年度の日本の名目GDPは日本円で約597兆円、実質GDPは約560兆円となる見込みです。成長率を見ると、名目GDP成長率は5.5%程度、実質GDP成長率は1.6%程度増加する見込みとなっています(図2)。*12
図2 政府経済見通し
引用)「令和6年度(2024年度)政府経済見通しの概要」内閣府p.1
GDP成長率上昇の要因としては、半導体の供給制約の緩和等に伴う輸出の増加や、インバウンド需要の回復などが挙げられます。
内閣府によると、個人消費や設備投資等がけん引する形で、2024年度の日本国内の実質GDP成長率は1.3%程度、名目GDP成長率は3.0%程度となるとしています。*12
なお、2023年度と比べると成長が弱まるとされていますが、賃金上昇や定額減税等によって所得増加率が3.8%となり、物価上昇率2.5%を上回る見通しです。
世界銀行によると、2024年の世界経済の実質GDP成長率は2.4%と、3年連続の減速が予想されています。これは、各国の金融政策の引き締め、貿易と投資の世界的な低迷が成長を下押しするとされているためです。*13
本記事では、GDPの定義から名目GDPと実質GDPの違い、GDPに基づく国内外の経済状況を解説してきました。
改めてですが、名目GDPは物価が上昇している点を考慮しないので、インフレ傾向にあるご時世では、実質GDPがより生活に近い値となります。
また、GDPは、各国の経済動向を比較するときの、基準が統一されたものさしとなります。
つまり、GDPから、その国の経済がどのように変化しているのかを理解することができるようにもなる指標といえます。
今後、国内外の経済動向を調べる際には、ぜひGDPに注目してみてください。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意下さい。
出典
*1、NHK「日本の去年のGDP ドイツに抜かれ世界4位になる見通しに」
*2、三菱UFJモルガン・スタンレー証券「GDP」
*3、日本銀行「物価」
*4、三菱UFJモルガン・スタンレー証券「名目GDP」
*5、国民生活センター「経済規模ってどういうもの?」p.22
*6、三菱UFJモルガン・スタンレー証券「実質GDP」
*7、内閣府「GDPとGNI(GNP)の違いについて」
*8、経済局国際経済課「主要経済指標」p.2
*9、内閣府「令和4年度 年次経済財政報告」p.100, p.101
*10、日本貿易振興機構「米GDP成長率、第4四半期は前期比年率3.3%、個人消費が牽引」
*11、日本貿易振興機構「2023年の実質GDP成長率は5.2%、全人代で設定した目標を達成」
*12、内閣府「令和6年度(2024年度)政府経済見通しの概要」p.1, p.2
*13、世界銀行「世界経済見通し」