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長期金利上昇とは?上昇する原因を解説
長期金利上昇とは?上昇する原因を解説

長期金利上昇とは?上昇する原因を解説

2025/11/25に公開
提供元:Money Canvas

長期金利は、家計の住宅ローンや企業の設備投資コスト、資産価格の評価に広く影響する“経済の体温”のような指標です。
特に日本では、市場で取引される「10年物国債の利回り」が長期金利の代表として注目されています。

2024年に日本銀行(以下、日銀)がマイナス金利政策を終了し、2025年にかけて国債買入れの運営を見直したことで、市場が自律的に金利を決める余地が広がりました。*1 *2

2025年10月時点でも長期金利は上昇方向を意識しやすい環境にあります。*3

ここでは、長期金利の基礎知識から、足元の上昇背景、私たちの生活への影響、そして今後の見通しまでを詳しく整理していきましょう。


長期金利とは?

長期金利とは、 国や企業が比較的長い期間(日本では主に10年)お金を借りるときの金利水準を指します。
日本では、最も取引量が多く、市場参加者の期待を反映しやすい「新発10年物国債の利回り」が、長期金利の代表的な指標として使われます。

国債の「利回り」がなぜ金利の指標になるか、その理由は、国債が市場で毎日売買されており、その価格が変動するためです。

国債の価格が下がると、投資家にとっての利回り(リターン)は相対的に高くなります。この利回りが、長期のお金の貸し借りにおける実質的な金利と見なされるのです。
この金利は、日銀の金融政策の方針や将来の景気・物価の見通しなどを織り込みながら、市場での国債売買を通じて日々決まります。

短期金利が日銀の政策金利に直接的に連動しやすい一方、長期金利は「将来の経済は良くなるか(悪くなるか)」「物価は上がるか(下がるか)」といった市場参加者の予測をより強く反映するのが特徴です。
そのため、「経済の体温計」に例えられることも多く、その動向が経済ニュースで注目されています。


【2025年10月】長期金利が上昇している

2025年10月現在、 日本の長期金利(10年国債利回り)は上昇基調にあります。
報道でも、一時年1.6%台半ばまで上昇し、数年前のゼロ金利に近い状態からは大きく環境が変化したことが確認できる状況です。*3

この背景には、以下の4つが複合的に影響しています。*1 *2 *4 *6


  • 日銀がマイナス金利を解除し、金融政策の正常化を進めていること
  • 日銀が国債の買入れ額を減らす方針を示したこと
  • 国内の物価上昇が続いていること
  • 海外金利が高止まりしていること

特に2025年6月には、日銀が長期国債の買入れを段階的に減らす姿勢を明確にしたことで、市場では「金利が上昇しやすい」との見方が強まりました。*8

もっとも、金利が一本調子で上がるわけではなく、国内外の経済指標などに反応して上下する点は押さえておきたいところです。


なぜ長期金利が上昇しているのか?

長期金利の水準は、 主に「政策」「物価」「海外」「需給」という4つの要因で決まります。

2025年の日本では、この4つの要因がそろって金利を押し上げやすい環境を作っています。


1.日銀が金融緩和を縮小していること

2024年3月、日銀はマイナス金利政策と長短金利操作(YCC)を終了しました。*1
YCCとは、長期金利が一定の範囲に収まるように、日銀が大量の国債を買い入れることで金利を人為的に抑え込む政策でした。この「重し」が外れたことで、金利が市場の力で自然な水準に落ち着こうとする力が働いています。
さらに国債買入れ額の縮小方針が示されたことで、金利の上昇圧力が強まっているのです。*2 *8


2.物価上昇が続いていること

食料品やエネルギー価格の上昇などを背景に、消費者物価指数(CPI)は日銀が目標とする2%を意識させる水準で推移しています。*4
物価が上がると、お金の価値が実質的に目減りするため、投資家はより高い金利(利回り)を求めるようになります。
また、賃金の上昇も物価を押し上げる要因となるため、今後の「賃金・物価の好循環」が実現するかどうかが、金利動向にも大きく影響します。


3.アメリカなど海外金利が高止まりしていること

グローバル化した現在の金融市場では、日本の金利も海外の動向と無関係ではありません。特に米国の長期金利が高止まりすると、より有利な利回りを求める投資家の資金が海外へ向かいやすくなります。
その結果、日本の国債が売られ(価格が下がり)、利回り(金利)が上昇する圧力となります。この「内外金利差」は、為替レートにも大きな影響を与える重要な要素です。*3


4.国債の需給バランスの変化

国債の価格は、需要と供給のバランスで決まります。
これまで日銀は国債の最大の買い手(需要)として市場を支えてきました。しかし日銀が買入れを減らすと、市場に流通する国債の量(供給)が増えることになります。
これまで日銀が買っていた分を、民間銀行などの他の投資家が吸収する必要が出てくるため、より良い条件(=高い利回り)でなければ国債が売れにくくなるのです。*9


長期金利が上昇するとどうなる?

長期金利の上昇は、私たちの預金やローン、そして企業活動まで、幅広い範囲に影響を及ぼします。


預金の利息が上がる

金利が上昇すると、 銀行の預金金利も時間差を伴いながら引き上げられる傾向があります。
特に、1年以上の定期預金など、期間の長い金融商品ほど金利上昇の恩恵を受けやすくなるでしょう。

また、個人向け利付国債(変動金利型・10年)は、半年ごとに金利が見直されるため、市場金利の上昇が直接的に利率に反映されます。
さらに、銀行が販売する貯蓄性の高い保険商品(終身保険や学資保険など)の予定利率も改善され、保険料が割安になる可能性があります。


物価が下がる

金利が上がると、 企業の借入コストや個人のローン負担が増すため、経済活動が少し落ち着きを取り戻します。

企業は大規模な設備投資に慎重になり、個人も高額な耐久消費財(自動車など)の購入を控えるようになるかもしれません。
このように社会全体の需要が緩やかになることで、過度な物価上昇(インフレ)の勢いにブレーキがかかりやすくなるのです。

日銀も、物価の安定(2%目標)と持続的な賃上げが両立するよう、金融政策を調整していく方針を示しています。*6


変動金利のローン返済額が増える

住宅ローンなどの変動金利型は、主に短期金利に連動しますが、 市場全体の金利が上昇する局面では、金融機関が貸出金利を見直す可能性があります。

一方、固定金利型のローンは、長期金利の動向が直接的に反映されます。
そのため、これから住宅ローンを組む場合、固定金利の選択肢は以前より金利が高くなっているでしょう。

これは自動車ローンや教育ローンなどでも同様です。企業の設備投資ローン金利も上昇するため、新規事業への投資が鈍化し、経済全体の成長にとっては重しとなる側面もあります。


今後は長期金利はどうなる?

今後、長期金利がどう動くかを見通すには、 金利を押し上げる要因と、逆に上昇を抑える要因の両面から考えることが重要です。

金利の上昇を後押しする主な要因としては、以下が挙げられます。

【金利の上昇を後押しする要因】

根強い物価上昇と賃上げの動き

物価上昇が続けば、日銀はさらなる金融政策の正常化(追加利上げなど)を検討する可能性があります。特に春闘などでの賃上げ率が市場の予想を上回るかが注目点です。


日銀の国債買入れ縮小

日銀が市場から買い入れる国債の量を減らせば、需給バランスの変化から金利は上昇しやすくなります。具体的な縮小ペースがどうなるかが焦点となります。


海外金利の高止まり

米国をはじめとする海外の金利が高い水準で推移すれば、日本の金利にも上昇圧力がかかり続けます。米国の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の結果は常に注視する必要があるでしょう。
一方で、金利の上昇を抑える主な要因もあります。

【金利の上昇を抑える要因】

国内景気の減速懸念

金利が上昇しすぎると、企業収益や個人消費を冷やし、景気を悪化させてしまう恐れがあります。景気の先行きに不透明感が強まれば、安全資産とされる国債が買われ、金利の上昇は抑制されるでしょう。


日銀の急変動を嫌う姿勢

日銀は、金融市場の安定を重視しています。もし金利が投機的な動きなどで急激に上昇するような場面では、臨時で国債を買い入れるなどの対応を取る可能性も残しています。*7


これらの要因が綱引きする形で、基本的には「緩やかな上昇基調」をたどる可能性が高いと考えられますが、国内外の経済情勢によっては変動が大きくなる場面も想定しておく必要があります。


金利上昇局面に備える実務ポイント

長期金利の上昇は、 リスクであると同時に、家計や投資を見直す良い機会にもなります。
最後に、私たちにできる具体的な行動指針を3点紹介します。


1.住宅ローンの見直し

これからローンを組む方は、固定金利と変動金利のメリット・デメリットを慎重に比較検討しましょう。すでに変動金利で借りている方は、金利上昇時の返済額を金融機関のサイトなどでシミュレーションし、家計が耐えられるかを確認しておくことが大切です。必要であれば、手元資金に余裕を持たせつつ、一部繰り上げ返済などの対策を考えておきましょう。


2.「預金」と「投資」のバランスを再考する

預金金利が上がることで、安全にお金を置いておくことの価値が高まります。一方で、物価上昇(インフレ)を考慮すると、預金だけでは資産が実質的に目減りする可能性も否定できません。金利上昇の恩恵を受けられる個人向け国債などを活用しつつ、NISAなどを通じた長期的な資産形成も続けるなど、攻めと守りのバランスを意識しましょう。


3.経済ニュースへの感度を高める

日銀の金融政策決定会合の結果や、毎月発表される消費者物価指数(CPI)など、金利に影響を与えるニュースに関心を持つことが重要です。大まかな流れを掴んでおくだけでも、不確実性の高い局面で冷静な判断を下す助けになります。

仕組みと要因を正しく理解し、変化に対応できる柔軟な戦略で向き合っていきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 日本銀行「金融政策の枠組みの見直しについて」
*2 日本銀行「オペレーション・担保等の制度変更 2025年」
*3 ロイター「〔マーケットアイ〕金利:国債先物は反発、米国発のリスクオフが買い材料 長期金利1.625%」
*4 総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」
*5 日本銀行「Q日本銀行の「物価の安定」についての考え方および「物価安定の目標」について教えてください。」
*6 日本銀行「最近の金融経済情勢と金融政策運営 大阪経済4団体共催懇談会における挨拶」
*7 日本銀行「金融政策決定会合における主な意見(2025年7月30・31日開催分)」
*8 日本銀行「長期国債買入れ(利回り・価格入札方式)の四半期予定(2025年7~9月)」
*9 財務省「令和7年度国債発行計画を変更しました」

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