日本銀行は、2024年3月18日、19日の金融政策決定会合において「マイナス金利政策の解除」と「政策金利の引き上げ」を決定しました。
また、短期金利と長期金利を低く抑えるための「長短金利操作(イールドカーブコントロール:以下YCC)」も撤廃されました。*1
今回の金融政策の変更により、「住宅ローンの金利が上がるのではないか」と不安を感じている人もいるでしょう。本記事では、住宅ローンの金利タイプやマイナス金利政策解除による影響について解説します。
住宅ローンの金利タイプは、大きく次の3種類に分けられます。
金利タイプ | 特徴 | メリット | デメリット |
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変動金利型 | 金融情勢の変化に応じて、 返済の途中でも定期的に 借入金利が見直される | 一般的に固定金利型より 金利が低い | 返済期間中に 市場金利が上がると 返済額が増える |
固定金利期間 選択型 | 借入期間のうち、 当初の一定期間のみ 固定金利が適用される | 固定金利適用期間は 返済額が一定で 家計管理がしやすい | 借入時に 固定金利期間終了後の 適用金利がわからず、 返済計画を立てにくい |
全期間 固定金利型 | 借入時の金利が 全借入期間を通じて 適用される | 返済期間中に 市場金利が上がっても 返済額は変わらない | 返済期間中に 市場金利が下がっても 返済額は減らない |
出所)三菱UFJ銀行「住宅ローン金利の推移とは?金利変動の要因や住宅ローンを借りるメリット・デメリットをライフステージ別に解説!」をもとに作成
一般的に、借入金利は変動金利型が最も低く、全期間固定金利型が最も高く設定されています。
ただし、変動金利型は定期的に適用金利が見直されるため、返済の途中で市場金利が上がると返済額が増える可能性があります。
全期間固定金利型は、市場金利が上昇しても返済額が増えないことが最大のメリットです。
固定金利期間選択型は、「当初10年間」など一定期間に固定金利が適用されます。
変動金利で元利均等返済方式の場合、多くの金融機関で5年ルールと125%ルールがあります。
5年ルール | 返済額は5年ごとに見直され、 次回の見直しまで返済額は変わらない (元金と利息の内訳は変わる) |
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125%ルール | 返済額は5年ごとに見直されるが、 金利が上昇しても新返済額は 前回までの返済額の 125%を限度とする。 |
5年ルールと125%ルールは、急な金利上昇でローン返済に影響が出ないように、返済額を徐々に上げていくための仕組みです。金利が上昇しても次回の見直しまで返済額は変わらず、見直し後も返済額が現在の125%以上になることはありません。
ただし、これらはあくまでも緩和措置です。金利の上昇幅によっては未払利息が発生し、後日支払う必要があります。5年ルールと125%ルールが導入されていても、金利が上昇すれば総返済額が増えることに変わりはないので注意しましょう。
2023年10月の住宅金融支援機構の調査によると、住宅ローンの金利タイプの選択状況は以下の通りです。*4
住宅ローン利用者の7割超が変動金利型を選んでいます。この結果から、借入時点の金利の低さを重視して住宅ローンを選んでいる人が多いと考えられます。
住宅ローン金利がどのように決まるかを知っておくと、マイナス金利政策解除による影響を見極めやすくなるでしょう。ここでは、マイナス金利解除により想定される住宅ローン金利への影響を説明します。
住宅ローン金利は、変動金利と固定金利で基準となる指標が異なります。*3
変動金利は、多くの金融機関が短期プライムレートを基準に適用金利を決定しています。短期プライムレートとは、優良企業への1年未満の短期貸し出しで適用される最優遇金利です。日銀の金融政策の影響を受けやすい特徴があります。
固定金利は、「新発10年国債利回り」などの長期金利を基準に適用金利が決まります。
長期金利の水準は、主に国内外の投資家が参加する市場取引で決定されます。長期金利が上昇すると、住宅ローンの固定金利も上昇する傾向にあります。
日銀のマイナス金利政策解除が住宅ローン金利に与える影響は、変動金利と固定金利で異なります。*3
日銀は、金融市場調整方針等について「無担保コールレート(オーバーナイト物)を0~0.1%程度で推移するよう促す」としています。約17年ぶりに政策金利は引き上げられたものの、利上げ幅は0.1%程度です。*1
そのため、すぐに変動金利型の住宅ローン金利が大幅に上昇する状況は考えにくいでしょう。ただし、今後の政策変更によって政策金利が上昇することがあれば、連動して住宅ローンの変動金利は上がることが想定されます。
固定金利については、日銀はこれまで長期金利の上限について1%を目途としてきました。しかし、YCCが撤廃されたことで、今後は長期金利に上昇圧力がかかると予測されます。長期金利が上昇することがあれば、連動して住宅ローンの固定金利も上がると考えられます。
なお、金利上昇局面では長期金利が先に上昇し、遅れて政策金利が上昇する傾向にあります。住宅ローンの変動金利が上昇し始めるころには、すでに固定金利は上昇している可能性がある点に注意が必要です。
変動金利と固定金利のどちらが向いているかは、家計状況や金利上昇リスクへの考え方などによって異なります。
変動金利が向いている人の特徴は以下の通りです。
家計に余裕があり、まとまった余裕資金があれば、金利が上昇して返済額が増えても自己資金で対応できるでしょう。また、変動金利型は適用金利が低く、元本の減少ペースが早いため、借入額が少ない人や借入期間が短い人もメリットが大きいといえます。
次のような人は固定金利が向いているでしょう。
家計に余裕がない場合、金利が上昇すると返済額が増えて支払いが困難になる恐れがあります。また、30年、35年といった長期の住宅ローンを組む場合も金利上昇リスクは高くなります。
確実に返済を進めるには、借入期間を通じて返済額が変わらない全期間固定金利型を選択するのが有効です。
マイナス金利政策は解除されましたが、現状住宅ローンの金利がすぐに大きく上昇するとは考えにくい状況です。ただし、今後の政策変更によっては政策金利や長期金利がさらに上昇し、それに連動して住宅ローン金利が上がる可能性もあります。
住宅ローンを利用する予定があるなら、日銀の金融政策や短期プライムレート、10年国債利回りなどの動向を注視し、ご自身の家計設計に最適な金利タイプを選択しましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1日本銀行「金融政策の枠組みの見直しについて(2024年3月19日)P1」
*2三菱UFJ銀行「住宅ローン金利の推移とは?金利変動の要因や住宅ローンを借りるメリット・デメリットをライフステージ別に解説!」
*3三菱UFJ銀行「住宅ローンの金利は今後どうなる?今後の金利上昇リスクを踏まえた住宅ローンの選び方」
*4住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査(2023年10月調査)P3」
*5全国銀行協会「Q. 住宅ローン、変動金利と固定金利のどちらを選ぶべきか悩んでいます」