
半導体は、スマートフォンやパソコンだけでなく、自動車、家電、工場のロボット、データセンターなど、あらゆる分野で欠かせない部品です。
2020年以降の世界的な半導体不足では、「新車の納車が1年以上待ち」「ゲーム機が店頭から消える」といったニュースが話題になりました。
いったんピークは過ぎたものの、2025年時点でも自動車向けや産業機器向けなど、一部の分野では供給のタイトさが続いています。*1
なぜ半導体不足は繰り返し起こるのでしょうか。
また、私たちの生活や企業活動にはどのような影響があり、今後はどうなっていくのでしょうか。
本記事では、半導体不足の背景や原因、具体的な影響、世界的な対策と今後の見通しまでを整理して解説します。
世界的な半導体不足は、最悪期を脱して全体としては改善傾向にあります。しかし、 すべての問題が解決したわけではなく、自動車や産業機器など特定の分野では依然として供給の不安定さが残っています。
この不足の発端は、2020年から2022年にかけての新型コロナウイルス感染拡大と、それに伴うデジタル需要の急増でした。
需要に対し供給が追いつかず、日本の「年次経済財政報告」においても、当時の供給制約が輸出や生産の大きな足かせになったと指摘されています。*1
実際、自動車産業では部品が確保できずに数百万台規模の生産調整が発生するなど、企業活動や消費者の生活に甚大な影響が出ました。*6
現在はスマートフォンやパソコン向けの供給は落ち着きましたが、以下の分野では依然として逼迫や納期の長期化が続いています。*2
地政学リスクや災害などの要因次第では再び不足が強まる可能性もあります。
半導体不足の原因は1つではありません。
ここでは、構造的に重要な3つの要因を見ていきましょう。
1つ目は、 世界的な「デジタル化の加速」です。
新型コロナ禍を機に、スマホやパソコンなどの身近な機器だけでなく、5G通信やクラウドサービスを支えるサーバー、工場のIoT機器に至るまで、あらゆる分野で半導体需要が一気に伸びました。*1
本来なら数年かけて緩やかにふえるはずだった需要が、短期間に前倒しで押し寄せた形になったのです。
一方で、供給側である半導体工場は、巨額の投資と長い準備期間が必要であるため、この急激な変化に対応しきれませんでした。
こうした事情から「作れる量」が「欲しい量」に追いつかず、結果として価格の高騰や納期の長期化につながったのです。
2つ目は、 国際情勢・地政学リスクの高まりです。
半導体のサプライチェーンは、設計、製造装置、材料、ウエハー加工(前工程)、パッケージング(後工程)といった多くの工程が、アメリカ・欧州・日本・台湾・韓国・中国などにまたがって複雑に分業されています。*2
このグローバルな構造は効率的である反面、米中関係や台湾周辺の緊張、輸出規制、物流停滞などの影響を受けやすいという弱点も抱えています。
実際、アメリカでは2022年に「CHIPS・科学法」が成立し、半導体の国内生産をふやすために5年間で約527億ドルの補助金を用意しました。*3
欧州でも「EU Chips Act(半導体法)」を通じて、2030年までに世界の半導体生産の20%を欧州で担うという目標が掲げられています。*4
日本でも、経済安全保障の観点からTSMCの熊本工場などに対する大型補助や、「半導体・デジタル産業戦略」のもとで国内生産拠点の強化を進めています。*2
これらの政策は中長期的には供給力の底上げにつながりますが、短期的には「どこで何を作るか」の再編が進むことで、一時的な供給の混乱や無駄な重複投資を招きやすい面もあります。
3つ目は、 自動車の「電子化・電動化」が急速に進んだことです。
最近の乗用車には、エンジンやブレーキを制御するECU、自動ブレーキなどの安全装置、カーナビ、そしてEVのバッテリー管理システムなど、至るところに半導体が組み込まれています。
調査会社Yole Groupの分析によると、1台の車に搭載される半導体の金額は2022年時点で平均540ドル程度でしたが、2028年には900ドル前後まで増加すると予測されています。*5
電気自動車(EV)や自動運転機能を持つ車では、さらに多くの半導体が必要になります。
一方、供給不足が深刻化した背景には、メーカー側の「読み間違い」もありました。
コロナ禍初期に自動車メーカーが減産を行い、半導体の発注を一度ストップさせたのです。ところがその後、予想外のスピードで需要が回復しました。
しかし、慌てて半導体を再発注しようとしたときには、すでに工場のラインはPCやゲーム機向けの注文で埋まっていました。
その結果、「作ってもらえない」「納期が1年先」という状況が生まれ、米国際貿易委員会(USITC)の報告にあるような世界的な自動車生産の停滞を招いたのです。*6
半導体不足は、企業の生産活動を停滞させるだけでなく、私たちの生活や家計にも直接的な影響を及ぼします。
ここでは、特に身近な3つの影響について解説します。
1つ目は、 自動車や家電などの生産数量が減ってしまうことです。
自動車は何万点もの部品で構成されていますが、その中枢を担う半導体が1つでも不足すれば、完成車として出荷できません。
その結果、メーカーは以下のような対応を迫られます。
家電やゲーム機でも同様に、発売延期や数量限定販売、あるいは一部機能を削ってのモデル投入などが行われるケースがあります。
これらは企業の利益を圧迫するだけでなく、関連するサプライチェーン全体の収益悪化にもつながります。*6
2つ目は、 私たちの生活の利便性が低下することです。
供給が滞ると、以下のような状況が起こりやすくなります。
また、企業が供給不安から「在庫」を過剰に持とうとすると、市中の在庫バランスが崩れ、将来的な価格乱高下を招く要因にもなります。
結果として、消費者は「高い時期に買わされる」「欲しい時にモノがない」という不利益を被りやすくなるのです。
3つ目は、 製品の品質や仕様への影響です。
半導体が不足すると、メーカーは「本来使いたかった高性能な部品」ではなく、「今手に入る部品」で代用せざるを得ない場合があります。
その結果、以下のような設計変更が行われることがあります。
もちろん、安全性などの基準は守られますが、理想的な設計とは異なる「妥協」が含まれる可能性があります。
消費者は、同じ製品名でも製造時期によって仕様が異なっていないか、スペックや保証内容をより慎重に確認する必要が出てきます。
2020年から2022年のような極端な大混乱は徐々に収束に向かっています。
ただし、 「分野や地域によっては慢性的なひっ迫や突発的な不足が続く」というのが、2025年時点での現実的な見方です。
その理由は、大きく分けて以下の3点です。
アメリカの「CHIPS・科学法」、EUの「Chips Act」、日本の「半導体・デジタル産業戦略」など、各国政府の支援により巨額の投資が進んでいます。*2 *3 *4
これらが本格稼働する2020年代後半にかけて、世界全体の生産能力は大幅に底上げされる見通しです。*2
供給がふえる一方で、需要も変化しながら高止まりが続きます。
2023年に一時的な調整局面がありましたが、現在は以下の分野が市場を牽引しています。
スマートフォンやPCなどの「成熟市場」が伸び悩む一方で、AIやデータセンター、自動車向けが急成長する「需要の入れ替わり」が起きています。*2
供給能力がふえても、根本的なリスクがゼロになるわけではありません。
特定地域に生産が集中している工程(先端ロジックの製造など)でトラブルが起きれば、再び世界的な供給ショックが発生する可能性は否定できません。*2 *4
これらをまとめると、「世界全体の生産能力は確実にふえるが、需要構造の変化と潜在的なリスクによって、局所的な不足は今後も繰り返し起こりうる」というのが、今の私たちが前提とすべき内容です。
半導体不足は、一見すると製造業の問題に見えますが、実際には私たちの生活コストや利便性に直結する重要なテーマです。
以下のような視点を持つことで、世界経済の動きや、次に何が品薄になりそうかが見えてきます。
そのうえで、私たちにできる自衛策はシンプルです。
車や大型家電などの高額商品は、ギリギリになってから探すのではなく、早めに買い替え計画を立てること。そして、在庫が不安定な時期には、代替品の検討や予約注文を活用することです。
「モノが届かない」というリスクを頭の片隅に置きながら、余裕を持って準備をしておくことが、不透明な時代を賢く乗り切るコツといえるでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 内閣府「日本経済2021-2022(年次経済財政報告)」
*2 経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後」
*3 The White House「FACT SHEET: CHIPS and Science Act Will Lower Costs, Create Jobs, Strengthen Supply Chains, and Counter China」
*4 European Commission「A Chips Act for Europe」
*5 Yole Group「Semiconductors at the heart of automotive’s next chapter – Automotive White Paper, Vol.2」
*6 United States International Trade Commission「U.S. EXPOSURE TO THE TAIWANESE SEMICONDUCTOR INDUSTRY」
