日本円は「¥」と、アルファベットのYに二本線を引いたマークで表されています。ドルは「$」、こちらもアルファベットのSに線が引かれた記号で表されます。
円やドルのこうした記号を目にすることかと思いますが、こうしたお金マークは「通貨記号」と呼ばれ、円マークやドルマークのように、基本的にはアルファベットをもとに作られています。
これらの記号はなぜ生まれたのでしょうか。世界にはどんなお金マークがあるのでしょうか。珍しいものも紹介します。
そもそものお話ですが…
日本のお金のマークはなぜ「円」なのでしょう。そしてなぜ「EN」ではなく「YEN」なのでしょうか?
まず、なぜ日本の貨幣単位が「円」になったのか。
造幣局によると、これは 明治4年の「新貨条例」によって決められたもので、
といった説があります。*1
そして「YEN」の表記についてです。
こちらは日本銀行によると、1872(明治5)年発行の政府紙幣「明治通宝」のほか、 日本銀行が発行したお札についても1885 (明治18)年の発行開始以来、円のローマ字表記が「YEN」となっています。
日本銀行が1885(明治18)年に発行した最初の紙幣
出典)日本銀行金融研究所「いろんなクイズにチャレンジしてみよう!」
表面に大黒天が描かれたお札には、 「YEN」と表記されています。
円の表記が「YEN」になった理由としては、 外国人の発音は「エン」より「イン」に近いから、あるいは「EN」は外国語では他の意味を持つから、あるいは中国語の「圓(ユアン)」からの転化、といった説があるということです。*2
ちなみにこの時、1円、5円、10円、100円と4種類のお札が発行されましたが、 1円券だけは今でも1円として使えるそうです。*3
さて、今、円は「¥」と、アルファベットのYに横線を引いた記号でも表されています。
通貨記号と呼ばれるものですが、なぜこのような表記になったのでしょうか。
由来は明確にはなっていませんが、香港上海銀行(1865年設立)が横浜の日本支店で1866年に発行したお札には、アルファベットのSに縦の二本線が引かれたマークが印刷されています。
香港上海銀行紙幣 洋銀5ドル札
出典)日本銀行金融研究所「貨幣博物館」
中央あたりに「FIVE DOLLARS」と書かれていることから、これは5香港ドル紙幣であり、アルファベットのSに縦線が引かれた記号は「ドル」であることもわかります。
国際的な交易の本格化によって、各国のお金により分かりやすい略称が求められていたと考えることもできます。
今では、世界中の多くの通貨にこうしたお金マークがつけられています。
EUの「ユーロ」は「€」とEの小文字eに横線を引いた形ですし、韓国の「ウォン」は「₩」と、アルファベットのWに横線が引かれています。
他にも、通貨記号は世界中にたくさんあります。
変わったものをひとつご紹介しましょう。これはどこの国の通貨記号でしょうか?
日本語のひらがなの「き」のようにも見えますが・・・
正解は、 インドの通貨「ルピー」です。*4
実はルピーの通貨記号は、比較的新しく誕生したものです。
世界的な知名度を目指してインド全国で公募され、インド工科大学の 大学院生のデザインが選ばれました。2010年のことです。*5
アルファベットの「R」と、ヒンディー語を書き表すデーヴァナーガリー文字の「ラ」の音を表す文字を図案化したということです。
世界的なアルファベットではなく、自国の文字を使っているのが面白いポイントです。
さて、それぞれにオリジナリティのある通貨記号ですが、実は 「¥」についてはトラブルも起きています。
というのは、 「¥」のマークは中国の通貨「中国人民元(=チャイニーズユエン)」を表す記号でもあるからです。
中国の人民元は「YUAN」と表記され、頭文字のYを取って日本円と同じ通貨記号になったといいます。*6
2023年にはある通販サイトで、 商品の購入者が「¥」の表示を日本円だと思って決済したところ、日本円の約20倍の価格で購入したことになっていた、というトラブルが相次ぎました。*7
申し込み後に通販サイトから届いた確認メールには「¥1,680」と記載されていたのに「3万2,916円」で購入したことになっていた、というような事例です。
サイトの「サポート」というページには「通貨は中国人民元です」と記載されていましたが、購入者は日本円だと思い込んでいたのです。
カード会社に連絡したものの、決済のキャンセルはできませんでした。
なお、通貨の略称としては、アルファベット3文字で構成された 「通貨コード」があります。アメリカドルなら「USD」、ユーロなら「EUR」、日本円なら「JPY」といった具合です。これら3文字の略称を見たことのある人は多いことでしょう。
この通販でトラブルが起きたのは、「¥」とは「JPY」のことなのか「CNY(人民元)」のことなのか、紛らわしかったためでしょう。
通販を利用する際には、アルファベット3文字の「通貨コード」もしっかり確認したいものです。
最後に、ドルマークの不思議についてご紹介します。
ドルは英語で「Dollar」ですが、なぜ「S」に線を引いた通貨記号になっているのでしょうか。こんな説があります。*8
このように、 お金マークからその国の歴史を垣間見ることができるケースもあり、非常に興味深いものです。
ちなみに、 日本銀行本店の本館を上空から見ると「円」に見えることはご存知でしょうか。
日本銀行本店本館の上空画像(2025年1月4日取得)
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本コラムは執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 造幣局「貨幣Q&A」
*2 日本銀行「円のローマ字表記が「YEN」となっているのはなぜですか?」
*3 お札と切手の博物館「日本銀行兌換銀券 旧券10円」
*4 KnowIndia「Currency Symbol」
*5 AFPBB News「ルピーの通貨記号デザイン決まる、インド」
*6 NNNニュース「ネット通販「¥」で購入したら請求“20 倍”に―なぜ? 日本「円」と中国「元」は同じ通貨記号 見極めるポイントは?」
*7 国民生活センター「その「¥」表示は本当に日本円の表示ですか?-通貨をよく確認しないと約20倍の価格になってしまうため要注意!!-」
*8 山梨県立図書館「“ドル”の記号($)の由来を知りたい。」
*9 神戸新聞「「日本銀行本店」を空から見ると…「円」の字に!? 天才建築家の遊び心か、はたまた偶然か」
*10 日本銀行「本店見学」