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インバウンド需要の経済効果はどれくらい?訪日外国人旅行者の消費動向と課題を解説
インバウンド需要の経済効果はどれくらい?訪日外国人旅行者の消費動向と課題を解説

インバウンド需要の経済効果はどれくらい?訪日外国人旅行者の消費動向と課題を解説

2024/08/14に公開
提供元:大西勝士

2023年以降、インバウンド需要は急速に回復していますが、日本にどれぐらいの経済効果をもたらしているのでしょうか。
インバウンドの現状や恩恵を受ける業界・業種を知っておけば、株式投資に活かせるでしょう。

本コラムでは、インバウンド需要の経済効果や訪日外国人旅行者の消費動向、今後の課題について解説します。

インバウンドの現状と経済効果

2022年10月に入国者数の上限が撤廃され、個人の外国人旅行者の入国も解禁されたことで、インバウンド需要は順調に回復しています。*1


訪日外国人旅行者数は順調に回復

国土交通省の「令和6年度版 観光白書」によると、訪日外国人旅行者数の推移は以下の通りです。


2

出所)国土交通省「令和6年度版 観光白書(第Ⅰ部 観光の動向)P6」


2019年までは過去最高を更新していましたが、2020年~2022年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で大きく減少しました。
2022年10月の入国制限の撤廃以降は徐々に回復し、2023年は2,507万人(2019年比21.4%減)となりました。*2_P6

また、日本政府観光局によると、2024年上半期の累計は1,777万7,200人で、過去最高を記録した2019年同期を100万人以上上回っています。*3


2023年の訪日外国人旅行消費額は過去最高を更新

観光白書によれば、訪日外国人旅行者による消費額は以下のように推移しています。


3

出所)国土交通省「令和6年度版 観光白書(第Ⅰ部 観光の動向)P8」


2023年は5兆3,065億円(2019年比+10.2%)で過去最高を記録しました。
国・地域別では台湾の7,835億円(14.8%)が最も高く、次いで中国7,604億円(14.3%)、韓国7,392億円(13.9%)、米国6,070億円(11.4%)の順となっています。
2019年は1位だった中国(36.8%)の構成比が低下しましたが、韓国や米国の構成比は上昇しました。


インバウンドが日本経済に与える影響

少子高齢化が進行する中、日本経済の成長分野として期待されているのがインバウンドです。
国は世界の観光需要を取り込み、地域経済の活性化や雇用機会の増大につなげることを目指しています。*4

インバウンド消費は、GDP統計において「サービス輸出」の「非居住者家計の国内での直接購入」に計上されます。
経済産業省によると、2019年のインバウンド消費は4.6兆円で、サービス輸出では自動車(12.0兆円)に次ぐ輸出産業となっています。
また、経済産業省の試算では、2019年のインバウンド消費の経済波及効果は名目GDPの0.9%に相当します。

この結果から、インバウンドが日本経済に大きな影響を与えていることがわかるでしょう。


訪日外国人旅行者の消費動向

観光白書によると、2023年の訪日外国人旅行者1人あたりの消費単価は20.4万円で、2019年(15.5万円)から約3割増えています。
費目別に見ると、2019年比で宿泊費(+59%)、飲食費(+39%)、交通費(+47%)、娯楽等サービス費(+52%)が大きく増加しました。*2_P28

消費単価が上がった背景には、円安や物価上昇の影響に加えて、滞在期間の長期化があります。2023年の平均泊数は6.9泊で、2019年(6.2泊)から長くなっています。

物価が上がっているうえに滞在期間が長くなれば、その分日本国内で使う金額は増えるでしょう。


円安でインバウンド需要が期待できる理由

訪日外国人旅行者にとって、円安は日本で安く買い物ができるチャンスです。*5

たとえば、為替レートが1米ドル=100円から1米ドル=125円(円安)になったとします。
日本で1万円の商品を購入する場合、1米ドル=100円なら100米ドル必要ですが、1米ドル=125円なら80米ドルで済みます。

このように、円安になると訪日外国人旅行者はお得に買い物ができるため、インバウンド需要の増加が期待できます。


インバウンド需要の恩恵を受ける業界・業種は?

ここでは、インバウンド需要の拡大でどのような業界・業種が恩恵を受ける可能性があるかを見ていきましょう。


宿泊業(ホテル、旅館)

ホテルや旅館は、訪日外国人旅行者数が増加すると稼働率が高まるため、売上や利益の増加につながります。

観光白書によれば、2023年の訪日外国人旅行者1人あたりの消費単価は宿泊費(7.0万円)が最も高くなっています。
また、平均泊数が2019年比で長期化しているのもプラス要因です。


旅行・レジャー業

訪日外国人向けに観光・体験ツアーなどを提供している旅行会社も、インバウンド需要の恩恵を受けやすいでしょう。*5
近年は日本の伝統文化体験や日常生活体験への関心が高まっており、体験型の「コト消費」に成長余地があると注目されています。*2_P30

また、訪日外国人旅行者が消費する娯楽等サービス費の内訳を見ると、美術館・博物館やテーマパークが高い割合を占めています。
そのため、レジャー業も売上や利益の増加につながりやすいと考えられます。


旅客輸送業

訪日外国人旅行者数が増加すれば、飛行機や鉄道をはじめとする交通手段への需要も増加します。
航空会社や鉄道会社、バス会社、タクシー会社などは恩恵を受けやすくなるでしょう。


飲食業

観光白書によると、訪日外国人旅行者が訪日前に最も期待していたことは「日本食を食べること」です。
2019年も1位でしたが、2023年はさらに割合が増加しています。

訪日外国人旅行者を対象に日本食を提供しているお店は、インバウンド需要により売上や利益の増加が期待できるでしょう。


買い物関連企業

先述の通り、訪日外国人旅行者は円安になると日本でお得に買い物ができます。
百貨店、家電量販店、化粧品や日用品を手がける企業などは売上や利益の増加につながりやすいでしょう。*6


インバウンドがもたらす課題

インバウンド需要が急速に回復する一方で、観光地などに旅行者が集中することで地元住民の暮らしに影響が出る「オーバーツーリズム」が課題になっています。
訪日外国人旅行者が都市部を中心とする一部地域に集中しており、過度な混雑やマナー違反、旅行者の満足度低下への懸念などの問題が起きています。*7

これらの課題に対処するため、2023年10月に観光立国推進閣僚会議において「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」が決定されました。

「過度の混雑やマナー違反への対応」「地方部への誘客の推進」「地域住民と協働した観光振興」の3つを柱としており、地域の実情に応じた具体策を講じることに対して、国は総合的な支援を行うとしています。


まとめ

円安や物価上昇、滞在期間の長期化などを背景に、インバウンド需要は急速に回復しています。
2023年の訪日外国人旅行消費額は5兆3,065億円で過去最高を記録するなど、日本経済の成長分野として期待されています。

インバウンド需要の現状や課題、恩恵を受ける可能性がある業界・業種を理解して、株式投資の銘柄選びに役立てましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客様自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

*1出所)NHK「水際対策10月11日から大幅緩和 入国上限撤廃 個人旅行も解禁」
*2出所)国土交通省「令和6年度版 観光白書(第Ⅰ部 観光の動向)」
*3出所)日本政府観光局「訪日外客数(2024年6月推計値)」
*4出所)経済産業省「通商白書2023 第Ⅱ部 第2章 グローバルな成長の取り込みによる成長力の強化」
*5出所)auじぶん銀行「円安で株価上昇!?インバウンド業界に注目が集まる」
*6出所)MoneyCanvas「円安も追い風!入国制限緩和でインバウンド復活へ」
*7出所)観光庁「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組」


大西 勝士
おおにし かつし

金融ライター(日本FP協会 AFP認定者)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで記事を執筆中。得意領域は投資信託、不動産、税務。

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