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雇用保険法とは?2025年の改正による変更ポイントを解説
雇用保険法とは?2025年の改正による変更ポイントを解説

雇用保険法とは?2025年の改正による変更ポイントを解説

2025/07/31に公開
提供元:Money Canvas

2025年に施行される雇用保険法の改正によって、失業手当や育児休業給付など雇用保険制度の重要なポイントが大きく見直されます。
雇用保険制度は、私たちが失業したり育児休業を取得したりするときに生活を支えてくれる大切なセーフティネットです。
金融リテラシーを高めるには、投資だけでなく公的保険制度の変更にも目を向けることが重要です。

本記事では、雇用保険制度の基本と2025年の改正内容、そしてその改正が企業にもたらす影響について解説します。


雇用保険制度とは?

雇用保険制度は、 労働者が失業した場合や育児・介護などで一時的に働けなくなった場合に給付金を支給し、生活の安定と再就職の支援を図る公的な保険制度です。
労働者が自らの賃金労働で生計を立てている中で、失業や休業によって収入が途絶えたり減少したりしたとき、この制度が生活を支える役割を担います。

具体的な給付としては、失業手当が代表的です。また、育児休業給付金も雇用保険制度に含まれます。

さらに、定年後も働き続ける高年齢者を支援する高年齢雇用継続給付も設けられており、60歳以上65歳未満で賃金が定年前より低くなった労働者に対して賃金の一部を補填する仕組みもあります。
これらの給付を通じて、雇用保険制度は労働者の生活と雇用の安定を幅広くサポートしています。*1


【2025年4月施行】雇用保険制度の変更点

2025年4月から、雇用保険制度のいくつかの重要な項目が改正され、労働者にとって利便性が高まる見込みです。
ここでは、雇用保険制度変更に伴う3つのポイントについて見ていきましょう。


高年齢雇用継続給付の見直し

高年齢雇用継続給付金の支給率が現在の賃金の15%から10%に引き下げられます。
ただし、2025年3月31日までに60歳に達している方については、経過措置として現行の15%の給付率が適用される予定です。*2

この支給率引き下げは、段階的な制度縮小・廃止の一環でもあります。
政府統計によれば「希望者全員が65歳以上まで働ける企業は8割以上」といったデータもあり、高年齢雇用継続給付金の役割は薄れてきたとの指摘があります。*3
2025年4月を皮切りに給付率を縮小し、将来的には制度そのものを廃止する方向で検討が進められています。*2


自己都合離職者の給付制限の見直し

自己都合で退職した場合には7日間の待機期間終了後に3か月の給付制限期間が設けられていましたが(2020年の制度改正で2か月に短縮)、2025年4月以降は原則1か月に短縮されます。
加えて、 労働者が自ら再就職に必要な職業訓練を受けた場合には、給付制限が完全に解除され、待機期間満了後すぐに失業給付を受け取れるようになります。*4
労働者にとっては選択肢が広がる有利な改正ですが、後述するように企業側には人材流出への対策が求められる点には注意が必要です。*5


育児休業給付の給付率引き上げ

現行の育児休業給付(休業前賃金の67%または50%)に加えて、2025年4月からは新たな給付制度が導入されます。
これにより、 子の出生後8週間以内に両親がそれぞれ14日以上の育児休業を取得した場合、最大28日間に限り、育休中の所得補償が実質“手取り100%”相当になります。

具体的には、従来の育児休業給付(67%)に加えて、新設される「出生後休業支援給付」(13%)が上乗せされ、合計で休業前賃金の80%が給付される仕組みです。*6
育児休業中は社会保険料の免除や非課税措置もあるため、この80%という給付率が手取り収入ほぼ100%に相当するとされています(ひとり親や配偶者が就労していない場合は本人のみの取得で可)。 *7


その他の雇用保険制度の変更点

2025年4月施行の改正以外にも、雇用保険制度では今後数年間で段階的に新しい仕組みの導入や適用範囲の拡大が予定されています。
ここでは、2025年後半以降に実施される注目すべき変更点を見てみましょう。


【2025年10月施行】教育訓練休暇給付金の新設

2025年10月から、働きながらリスキリング(学び直し)に取り組む人を支援する新たな制度として「教育訓練休暇給付金」が創設されます。
この給付金は、雇用保険の被保険者である労働者が自己啓発やスキルアップのために無給の休暇(教育訓練休暇)を取得した場合に、その期間中の生活を経済的に支援することを目的としています。

給付の金額は、離職して失業給付を受ける場合の基本手当と同額に設定されます。給付を受けられる日数は、これまでの雇用保険の加入期間に応じて最大150日間支給されます。

ただし、教育訓練休暇給付金を受け取るためには一定の条件を満たす必要があります。
具体的には、雇用保険の被保険者期間が通算5年以上あること、そして休暇開始から1年以内に教育訓練のための休暇を取得し、その都度ハローワークで認定を受けることなどが求められます。

休暇の取得は複数回に分割することも可能ですが、その場合でも初回の休暇開始日から1年以内という枠内での取得となります(やむを得ない事情で訓練を中断した場合は最大4年延長可)。*8


【2028年10月施行】雇用保険の適用範囲の拡大

2028年10月から、 雇用保険の被保険者となる基準である「1週間の所定労働時間」が現行の「20時間以上」から「10時間以上」へと引き下げられます。 *9
これにより、これまで雇用保険に加入できなかった週10~19時間程度の短時間労働者やアルバイト・パートタイマーも最大約500万人が新たに雇用保険に加入する見込みです。
しかし、企業側には後述するように保険料負担や事務手続きの増加といった課題も生じます。
労働者にとっても、週所定労働時間が10時間以上になれば原則として雇用保険料が給与から差し引かれることになるため、制度適用のメリットと負担について正しく理解しておく必要があるでしょう。*10


雇用保険法の改正による企業への影響

雇用保険法の改正は労働者にとって様々なメリットをもたらしますが、雇用する企業側にとっては人事労務面での対応が求められる場面も増えます。
ここでは、今回の改正が企業に及ぼし得る3つの影響について解説します。


転職率の増加

自己都合退職者への給付制限緩和により、 従業員が転職・離職しやすくなる可能性があります。
企業にとって優秀な人材の流出は大きな損失です。賃金や待遇の見直し、働きやすい職場環境の整備、キャリアパスの提示など、従業員の定着率を高めるための戦略がこれまで以上に求められるでしょう。*4
今回の改正は労働者のキャリアの流動化を促進する内容であり、裏を返せば企業にとっては「いかに自社に人材を引き留め、魅力を感じてもらうか」という課題への対応力が試される時代になると言えます。


育休取得のニーズ増加

育児休業給付が充実することで、特に 男性社員からの育休取得ニーズが高まることが予想されます。
給付率80%まで補償されるのであれば、これまで「収入が減るから…」と育休を諦めていた男性社員も取得に前向きになるでしょう。*6

男性を含めたより多くの従業員が育休を取得するようになると、人員配置や業務体制の見直しが必要になります。
政府は一定規模以上の企業に男性育休取得率の公表を義務付けるなど企業側の取組を促していますが、今後は中小企業も含めて組織全体で育休を取りやすい風土を醸成し、業務が滞りなく回る仕組みを構築することが求められるでしょう。
企業は今回の改正を前向きに捉え、育休制度を積極的に活用できる環境を整備していくことが重要です。


雇用保険の負担額の増加

雇用保険の適用対象が週10時間以上の労働者に広がるため、企業の保険料負担が増加します。
雇用保険料は労使折半で負担しますが、事業主もその一部を負担するため、対象労働者が増えるほど企業の支払う保険料総額が増えることになります。

特にパート・アルバイトを多く雇用している企業や、これまで雇用保険非加入だった短時間労働者を多数抱える中小企業にとって、この負担増は無視できない影響を及ぼします。
また、新たに多くの従業員を雇用保険に加入させることで、事務手続きの増加も避けられません。
雇用保険の適用拡大は社会全体でセーフティネットを強化するための措置であり、長い目で見れば労働者の安心感向上や消費の安定化など経済にもプラスに働く側面があります。
企業としては、政府や自治体から発表される各種助成金・補助金を活用しつつ、従業員の雇用保険加入に伴うコスト増に対応していくことが求められます。*10


雇用保険法改正で生活と働き方はどう変わるか

2025年の雇用保険法改正は、働く私たちの生活とキャリアに様々な変化をもたらす転機となります。
育児休業給付の拡充は、仕事と育児の両立を経済面から強力に支援し、男性も含めた育児休業の普及に弾みをつけると期待されています。
教育訓練休暇給付金の新設は、在職中のスキルアップを金銭面で後押しし、学び直しやキャリア形成のチャンスを広げます。

一方で、企業にとっては人材の流動化やコスト増といった課題への対応が避けられません。優秀な人材の定着に向けた職場環境の改善や、人員計画の練り直し、労務管理体制の強化など、戦略的人事管理がますます重要になるでしょう。

しかし、見方を変えれば今回の改正は企業にも組織改革や生産性向上を進める契機を与えてくれるとも言えます。従業員が安心して学び、働き、家庭を築ける職場づくりは、結果として企業の持続的発展につながるからです。

雇用保険制度は家計のリスクに備える重要な制度なので、給付を受けられる場面や条件を把握しておけば、いざという時に大きな助けとなってくれるでしょう。
新NISAなどの資産形成と合わせて、公的保険制度を上手に活用し、ライフプラン全体の安定と充実を図っていきたいものです。
今回の雇用保険法改正を機に、自分の働き方や将来設計を見直し、利用できる制度は積極的に活用していきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 フリー株式会社「雇用保険とは?加入条件や計算方法、手当の種類について解説」
*2 株式会社タイミー「高年齢雇用継続給付金の廃止はいつから?なぜ?制度の内容も解説」
*3 ディップ株式会社「高年齢雇用継続給付金が廃止へ!いつから?なぜ?申請、計算方法も紹介」
*4 税務研究会「【令和7年4月~自己都合退職が増加?改正雇用保険法成立!】働く人が知っていると得をする社会保険の知識 第19回」
*5 社会保険労務士法人とうかい「【自己都合退職が増える!?】2025年4月の雇用保険法改正で失業給付の制限が短縮企業への影響は?」
*6 一般社団法人公的保険アドバイザー協会「2025年4月育児休業給付が手取りの10割に。要件や制度内容を解説」
*7 厚生労働省「2025年4月から「出生後休業支援給付金」を創設します」
*8 SATO社会保険労務士法人「教育訓練休暇給付金とは|令和7年(2025年)10月スタート」
*9 厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」
*10 税理士法人AOIみらい「【2028年10月開始】週10時間以上勤務で雇用保険適用に。中小企業が知っておくべき影響と対策」

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