日本は低金利の状態が長く続いてきましたが、近年は銀行が預金金利を引き上げる動きがみられます。普通預金や定期預金の金利は今後どうなるのでしょうか。
本コラムでは、普通預金・定期預金の金利動向と日銀の金融政策との関係、銀行金利の今後の見通しについて解説します。
まずは、銀行金利がどのように推移しているのかを確認しておきましょう。
以下は、定期預金(預入金額1,000万円以上、期間1年)の店頭表示金利(平均年利率)の推移です。
出典)日本銀行 時系列統計データ 検索サイト「主要時系列統計データ表 預金種類別店頭表示金利の平均年利率等(月次)(定期預金)」
2023年までは大きな動きが見られませんでしたが、2024年に入ってからは上昇傾向にあります。2025年4月の平均年利率は0.253%です。*1
また、普通預金の店頭表示金利(平均年利率)の推移は以下のとおりです。
出典)日本銀行 時系列統計データ 検索サイト「主要時系列統計データ表 預金種類別店頭表示金利の平均年利率等(月次)(普通預金)」
定期預金と同じく、普通預金も2024年に入ってから金利が上昇に転じていることがわかります。2025年4月の平均年利率は0.182%です。
普通預金や定期預金などの銀行金利は、政策金利や長期金利の動きに基づいて各金融機関が任意に決定しています。*2 *3
ここでは、銀行金利と政策金利・長期金利の関係を説明します。
政策金利とは、景気や物価の安定を図るために、中央銀行(日本では日銀)が設定する短期金利です。*4
一般的には、好景気でインフレになると政策金利を引き上げます。金利上昇で企業や個人が資金を調達しにくくなり、景気の過熱を抑えることにつながるからです。反対に、不景気でデフレになると、景気を刺激するために政策金利を引き下げます。
2024年3月以降、日銀は政策金利を「無担保コールレート(オーバーナイト物)」としたうえで、その誘導目標を定めています。*5
無担保コールレート(オーバーナイト物)とは、金融機関が日々の資金の過不足を補うために、金融機関同士で資金の貸し借りを行う際にかかる金利です。
金融機関は、この無担保コールレート(オーバーナイト物)を指標として普通預金の金利水準を設定しています。そのため、政策金利の動向によって普通預金の金利水準は変動します。*6
長期金利とは、期間1年以上のお金の貸し借りに適用される金利です。政策金利が日銀の金融政策で設定されるのに対し、長期金利は市場取引で決まるため、景気の先行きや物価上昇の予測が反映されやすい特徴があります。*7
金融機関は「10年国債利回り」などの長期金利を指標として、定期預金の金利水準を設定しています。
日銀は、「長期金利は金融市場において形成されるのが基本」との立場です。ただし、政策金利をはじめとする日銀の金融政策は、長期金利の形成にも影響を与えます。*8
長期にわたる大規模な金融緩和策により、日本は低金利の状態が続いてきました。
しかし、2024年以降、日銀の金融政策は転換点を迎えています。日銀の金融政策の最新動向を確認しておきましょう。
日銀は、2024年3月にマイナス金利政策を解除し、同年7月には追加利上げを実施しました。
2025年1月には、政策金利の誘導目標を0.5%程度に引き上げる追加の利上げも実施しています。*9
追加利上げの理由として、日銀は「賃金の上昇が続くもとで、人件費や物流費などの上昇を販売価格に反映する動きが広がっていること」を挙げています。
また、経済・物価の見通しが日銀の見通し通りに実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げるとの考えも示しています。*10
2024年7月の金融政策決定会合において、日銀は長期国債買い入れの減額計画を決定しました。
国債買い入れとは、金利を押し下げて景気を刺激する金融緩和策のひとつです。*11
日銀によると、月間の長期国債の買い入れ予定額を毎四半期4,000億円程度ずつ減額し、2026年1~3月に3兆円程度とする計画になっています。*12
国債は価格と金利が反対に動く関係にあるため、日銀が長期国債の買い入れを減らして価格が下がると、長期金利の上昇要因となる可能性があります。
日銀による利上げや長期金利の上昇の影響で、大手銀行を中心に普通預金や定期預金の金利を引き上げる動きが広がっています。
たとえば、三菱UFJ銀行は、2025年1月の金融政策決定会合後に普通預金金利を従来の0.1%から0.2%に引き上げることを決定しました。
2月には円定期預金金利の改定も行われ、期間1年は0.125%から0.275%に、期間3年は0.2%から0.35%に引き上げられました。いずれも3月3日から適用されています。*13 *14
ただし、銀行金利引き上げの動きが今後も続くとは限りません。
日銀は、2025年5月の金融政策決定会合では政策金利を0.5%程度で据え置くことを決定しました。1月の追加利上げ以降、2会合連続の現状維持となります。
米国のトランプ政権による関税政策が実体経済に与える影響を見極める必要があると判断したと考えられます。*15
日銀の利上げペースが鈍化したり、利下げに転じたりすることがあれば、銀行金利の動向にも影響を与えるでしょう。
普通預金金利や定期預金金利は、各金融機関が任意に設定しています。ただし、政策金利や長期金利を指標としているため、日銀の金融政策や債券市場の動向に左右される傾向にあります。
近年、銀行金利は上昇傾向にありますが、この動きが今後も続くとは限りません。有利な条件で資産を預けるためにも、最新の金利情報だけでなく、日銀の金融政策や国内外の経済情勢などにも注目しておきましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 日本銀行 時系列統計データ 検索サイト「主要時系列統計データ表 預金種類別店頭表示金利の平均年利率等(月次)」
*2 知るぽると「普通預金」
*3 知るぽると「スーパー定期預金」
*4 三菱UFJ銀行「政策金利」
*5 日本銀行「金融市場調節方針の変遷を教えてください。」
*6 第一生命経済研究所「資産運用のキホン ~その5:物価上昇のもとでは預金金利が物価上昇率を上回り続けることは難しい~」
*7 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「長期金利(ちょうききんり)」
*8 mattocoLife「10年国債の金利の現状と見通しは?過去の推移とあわせて確認しよう」
*9 mattocoLife「円安・円高どうなる?トランプ政権の動向と合わせてわかりやすく解説」
*10 日本銀行「金融市場調節方針の変更について(2025年1月24日)P2」
*11 Money Canvas「国債買い入れ減額 日銀の決定は市場にどんな影響をもたらす?」
*12 日本銀行「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について(2024年7月31日)P3」
*13 三菱UFJ銀行「円預金金利及び短期プライムレートの改定について(2025年1月24日)」
*14 三菱UFJ銀行「円定期預金金利の改定について(2025年2月28日)」
*15 毎日新聞「日銀、金利据え置きを決定 2会合連続の現状維持 政策決定会合」