株式投資を行う際には、株価に影響のある経済指標を理解する必要があります。発表される経済指標によっては、為替市場や株価の変動要因となるからです。
そこで今回は、株式投資をするうえで知っておきたい主な経済指標について解説します。
経済指標とは内閣府や各省庁、日銀などの公的機関が発表している経済状況に関する統計データです。
生産量や売上などの実測データをまとめた「ハードデータ」と、経営者や労働者へのアンケートから導き出す「ソフトデータ」に分けられます。
機関投資家や資産運用会社は経済指標をもとに、動向を予測して売買を行っています。そのため発表された経済指標が予測から外れると、株価に影響を及ぼすことがあるのです。
このように、株式投資と経済指標の統計データは深く関わっています。 想定外の損失を被る可能性を抑えるためにも、経済指標をしっかりとチェックすることが大切です。株価指標の基本解説はこちら。
経済指標には多くの種類がありますが、株価と関連性が強い重要な経済指標を紹介していきます。
GDPは「国内総生産」のことで、一定期間内に国内で産出された付加価値の総額を指します。
付加価値とは、サービスや商品などの販売価格から原材料や流通費用などを差し引いたもので、企業の利益と言えるでしょう。
つまり、GDPを見ることで「国内でどれだけの利益が産み出されたか」を把握でき、前年度からの推移を見ることで国内経済の成長率を確認できます。
GDPが成長すれば景気の拡大が予測できるため、会社の業績が良くなる期待感が高まり、株式の買い手が増える可能性があります*3。
消費者物価指数とは、消費者が購入する物やサービスなどの価格水準を示す指数です。消費者物価指数で測るインフレ率は、世帯が典型的に購入する主要な物やサービスの価格変動と定義されています*5。
消費者物価指数は、後述する実質賃金指数と合わせて活用することで、国民生活の経済状況をより深く理解できます。
例えば、以下のようなケースで考えてみましょう。
このようなケースだと、実質的に自由に使えるお金は減っていることが把握できます。消費者物価指数は、お金の実質的な価値がどのように変化したのかを把握できる指標と言えるでしょう。
企業物価指数とは、企業間で取引される商品の価格を反映した物価指数です。
企業間で取引される物やサービスに関する価格を把握し、景気動向や金融政策を判断するための材料として使われています*7。
企業物価指数は景気判断に使われるほか、消費者への価格転嫁の予測材料としても注目されており、消費者物価指数と関連性が高いと言えるでしょう。
実質賃金指数とは、名目賃金指数を消費者物価指数で除して100を乗じたもので、労働者が自由に使える実質的なお金の増減を知ることができる指数です。*8
例えば、実質賃金指数が前月(前年)よりも低下している場合、自由に使えるお金が減っているため消費に回るお金が減ることが予測できます。
消費の減退は景気の後退要因となるため、株価にとってマイナス材料と捉えることができるでしょう。
完全失業率とは、労働力人口に対する、仕事に就くための意思・能力を有していながらも仕事に就いていない人(完全失業者)の割合です。
景気が悪くなると人員削減を行う企業が増えて雇用者が減るため、完全失業率の上昇は景気が後退する予兆と捉えることができます。
求人倍率は求職者に対する求人数の割合です。
「新規求人数」を「新規求職申込件数」で除して算出した「新規求人倍率」と、「月間有効求人数」を「月間有効求職者数」で除して算出した「有効求人倍率」の2種類があります*10。
どちらの求人倍率も1よりも大きいと求職者数よりも求人数が上回っている状態で、企業の採用活動が活発であることが予測できます。
完全失業率と、特に有効求人倍率を見ることで、労働状況や企業の採用活動の度合いを確認できます。
鉱工業生産指数とは、製造業の企業がどれだけの製品を生産したかを測る指数です。
景気が良いと消費が盛んになり、製造業の企業は生産量を増やすため鉱工業生産指数は伸びる傾向にあります。
つまり、鉱工業生産指数は景気の動きを把握する指標となり、株価の予測をする際にも役立ちます。
景気の動向を判断する有力な経済指標の1つとして、特に米国の指標は市場からの注目度も高い経済指標です*6。
機械受注実績とは、機械メーカーが他企業から受けた注文実績です。
機械受注実績は「外需」(海外からの受注)・「官公需」(官公庁からの受注)・「民需」(国内民間企業からの受注)が内閣府から発表されます。
景気が良くなれば生産量が増えることから、機械設備も活発になります。
機械の受注が増えるということは、生産活動が活発で機械の消耗も早く、新しい機械設備の需要が高まっていることの裏返しともいえます。
機械受注実績は企業の設備投資に6~9ヵ月先行すると言われており、景気動向を予測する際にも役立ちます*6。
貿易・サービス収支は日本の国際収支のうち、物の輸出入(貿易)とサービス収支を合わせたものです。
貿易・サービス収支を見ることで、日本全体として「海外に物を売る量」「海外から物を買う量」のどちらが多いのかを把握できます。
黒字が増えるとGDPが押し上げられるため、株価が上がる要因となります*14。
日銀短観とは、日本銀行が年4回(3、6、9、12月)発表している経済指標です。
景気の現状と先行きについて約1万社を対象に企業アンケート調査を行い、集計結果や分析結果を基に日本経済を観測しています。
なお、業況判断DIは日銀短観の中に組み込まれている調査項目の一つで、景気が「良い」と答えた企業から「悪い」と答えた企業の割合を引いて算出します。
日銀短観は高い回答率と速報性があり、中でも業況判断DIは株式市場への影響力が強いため、投資判断をする際に役立つでしょう。
景気動向指数とは生産、雇用などの重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合し、景気の現状把握や将来予測をするために作成される経済指標です。*16
データの変化をチェックすることで、総合的な景気の状態や今後の先行きを判断する際に役立ちます。
指数は「当該月のデータ」と「3ヶ月前のデータ」を比較して、景気が拡大しているか縮小しているかを示します。
景気動向指数が上昇トレンドにある場合は生産活動と景気の拡大が期待でき、株価が上昇する可能性があるでしょう。
株式投資をするうえで重要となるのは、株価や株価指標だけではありません。
景気や経済に関係する多くの経済指数は、経済全体の状況把握や今後の予測につながりますので、投資検討時の参考にするとよいでしょう。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客様自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 東証マネ部 「経済指標」って何?
*2 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 用語解説
*3 東証経済教室 株価変動要因
*4 金融広報中央委員会 知るぽると 3.消費者物価指数
*5 OECD インフレ率(消費者物価指数)(Inflation (CPI))
*6 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 解説!知っておきたい経済指標
*7 日本銀行 企業物価指数(2020年基準)の概要
*8 沖縄県 毎月勤労統計調査地方調査について
*9 総務省統計局 p.26
*10 厚生労働省 一般職業紹介状況(職業安定業務統計):集計結果(用語の解説) (13)求人倍率
*11 金融広報中央委員会 知るぽると 4.鉱工業生産指数
*12 金融広報中央委員会 知るぽると 5.機械受注実績
*13 金融広報中央委員会 知るぽると 6.貿易・サービス収支
*14 内閣府 2010年 我が国の産業概観 ~部材分野の競争力が製造業を支える構造p.42
*15 金融広報中央委員会 知るぽると 10.景気動向指数
*16 内閣府 景気動向指数