logo
Money Canvas(マネーキャンバス)
back icon
clear
back icon
国債買い入れ減額 日銀の決定は市場にどんな影響をもたらす?
国債買い入れ減額 日銀の決定は市場にどんな影響をもたらす?

国債買い入れ減額 日銀の決定は市場にどんな影響をもたらす?

2025/02/11に公開
提供元:大西勝士

国債買い入れは、日銀による金融緩和策の1つです。2024年7月の金融政策決定会合において、日銀は国債買い入れの減額計画を決定しました。*1
国債買い入れの減額は、金利や為替などにどんな影響をもたらすのでしょうか。

本コラムでは、国債買い入れの概要や減額計画の意味、市場への影響について解説します。

日銀の国債買い入れとは

国債買い入れとは、金利を押し下げて景気を刺激する金融緩和策の1つです。 *2
日銀は2016年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、長期金利の操作目標について「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう国債の買い入れを行う」との方針を定めました。*3

国債は銀行や証券会社などが参加する債券市場で取引されており、価格が高くなると金利が低くなる関係にあります。
そのため、日銀は長期金利を低く抑える金融緩和策の一環として、国債の買い入れを続けてきました。

2024年7月の実績では、月間5.7兆円程度の国債買い入れを実施しています。*1


金融緩和と金融引き締め

そもそも日銀の金融政策には、「金融緩和」と「金融引き締め」があります。


4

出典)三菱UFJ銀行「金融緩和とは?私たちの生活にどう影響するの?」


金融緩和は景気が悪いときに行われる金融政策で、日銀は政策金利を引き下げます。
政策金利が下がると金融機関の貸出金利も下がるため、企業や個人がお金を借りやすくなり、結果として経済活動の活発化が期待できます。*4

一方、金融引き締めは景気の過熱を抑えるために行われる金融政策です。景気がよすぎると、物価が継続的に上昇するインフレが生じることがあります。
過度なインフレは経済に影響を与えるため、政策金利を引き上げ、お金を借りにくくすることで経済活動を抑制します。


国債買い入れは政策金利の引き下げと同じ効果が期待できる

金融機関は、国債で資金を運用して利子収入を得ています。日銀が金融機関から国債を買い入れると、金融機関が保有する国債は減って現金が増えます。
金融機関は現金を貸し出さないと利益を得られなくなるので、企業や個人にお金を借りてもらうために貸出金利を下げるようになります。


5

出典)三菱UFJ銀行「金融緩和とは?私たちの生活にどう影響するの?」


このような仕組みになっているため、日銀による国債買い入れは、政策金利の引き下げと同様の効果が期待できます。


日銀の国債買い入れ減額の意味

日銀は、金融政策の正常化に向けて方針を大きく転換しています。*2

2024年3月以降、マイナス金利政策の解除や長短金利操作(YCC)の終了、政策金利の引き上げなどを実施しました。*5
また、金融政策は政策金利の調節のみによって行う方針も示しています。

さらに、日銀による国債買い入れについては、以下のような批判もありました。


  • 国債の価格や長期金利の水準が人為的に決められ、市場原理が働きにくい
  • 日銀による国債保有額は2023年度末で580兆円あまりに達し、政府の発行総額の約半分にも上っている

日銀も「長期金利は金融市場において形成されることが基本」としており、金融政策の正常化のために国債買い入れの減額を打ち出したといえます。


日銀の国債買い入れの減額計画の内容

2024年7月の金融政策決定会合では、月間の国債買い入れの予定額を、原則として毎四半期4,000億円程度ずつ減額し、2026年1~3月に3兆円程度とする計画が発表されました。*1

月間の国債買い入れ予定額は以下のとおりです。

<日銀による月間の国債買い入れ予定額>

6

出典)日本銀行「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について」をもとに筆者作成


日銀は「国債の買い入れは、国際市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で減額していくことが適切」との見解を示しています。

ただし、長期金利が急激に上昇する場合は、上記の予定額にかかわらず機動的に買い入れの増額などを実施し、必要に応じて減額計画の見直しもありうるとしています。


国債買い入れ減額は市場にどんな影響をもたらすのか

ここでは、日銀の国債買い入れ減額が市場にもたらす影響について見ていきましょう。


金利への影響

国債は、価格と金利が反対に動く関係にあります。日銀が国債の買い入れを減らして価格が下がると、長期金利に上昇圧力がかかる可能性があります。*2

日銀が国債買い入れを減らした分について別の買い手が見つからなければ、需給のバランスが崩れて国債の価格が値下がりし、金利が急上昇する恐れがあります。
金利の急上昇を招くことになれば、貸出金利の上昇などにより、景気にマイナスの影響を与えかねません。

そのため、日銀は債券市場に参加する金融機関などの実務者から意見を聞いたうえで減額計画を決定し、需給バランスが崩れないようにすることで、金利の急上昇を防ごうとしています。


為替への影響

近年は、日米金利差の拡大を背景に円安が続いています。
日銀の国債買い入れ減額によって金利が上昇し、日米金利差が縮小すれば、円安に歯止めをかけるきっかけになるかもしれません。*2

為替相場の変動は、外貨建て資産の価値に影響を与えます。そのため、海外の株式や債券を組み入れた投資信託などで運用している場合は、為替の動向を注視する必要があるでしょう。*6


〇日米金利差についてはこちらでも解説しています。

株価への影響

金利と株価はシーソーのような関係にあり、金利が上がると株価は下がる傾向にあります。*7

日銀による国債買い入れの減額によって金利が上がると、金融機関の貸出金利も上がり、企業はお金を借りにくくなります。
事業拡大が難しくなり、売上や利益が減少しやすくなるため、株価下落につながるでしょう。

個別企業の株価はさまざまな要因で変動するため、金利が上昇してもセオリー通りに株価が下落するとは限りません。
しかし、株式投資や投資信託で資産形成に取り組むなら、金利と株式市場の関係を理解しておくことが重要です。


まとめ

日銀による国債買い入れは、長期金利の上昇を抑える効果があります。そのため、国債買い入れの減額が行われると長期金利が上昇し、為替や株価に影響を与えるかもしれません。

日銀の金融政策を確認するときは、政策金利の動向だけでなく、国債買い入れ減額の実施状況にも注目しておきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 日本銀行「金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について」
*2 NHK「円安にどう影響?日銀 国債買い入れ減額」
*3 日本銀行「金融市場調節方針の変遷を教えてください。」
*4 三菱UFJ銀行「金融緩和とは?私たちの生活にどう影響するの?」
*5 mattocoLife「日銀金融政策決定会合 2024年12月の見通しは?」
*6 Money Canvas「日米金利差はなぜ注目される?為替や株価との関連性をわかりやすく解説」
*7 日本取引所グループ「会社の株価の決まり方」


大西 勝士
おおにし かつし

金融ライター(日本FP協会 AFP認定者)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで記事を執筆中。得意領域は投資信託、不動産、税務。

関連コラム
もっとみる >
Loading...
scroll-back-btn