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IMFの世界経済見通しから読み解く2025年の日本経済
IMFの世界経済見通しから読み解く2025年の日本経済

IMFの世界経済見通しから読み解く2025年の日本経済

2025/05/18に公開
提供元:Money Canvas

IMF(国際通貨基金)の世界経済見通しは、世界経済の現状と将来の動向を示す重要なレポートです。

世界全体の景気見通しや各国の成長率予測が網羅されており、政府の政策立案から個人の投資判断まで幅広く参考にされています。特に新NISAなどで投資を始めたばかりの方にとっても、世界経済の流れを把握することは大切です。

本記事では、IMFとはどのような機関かを紹介し、最新の世界経済見通しに基づいて2025年以降の世界経済の動向と、日本の経済成長率の見通しをわかりやすく解説します。


IMFとは?

IMFは世界経済の安定を図るために設立された国際機関で、加盟国の経済政策に助言し、必要に応じて資金支援を行っています。
ここではIMFの成り立ちや目的、そして世界銀行との違いについて説明します。


IMFの設立背景

IMF(International Monetary Fund、国際通貨基金)は第二次世界大戦後の1944年7月、米国ニューハンプシャー州ブレトンウッズで開催された国際会議で創設が決まりました。*1

当時、大戦によって混乱した世界経済を立て直し、各国が協調して安定した経済成長を実現する枠組みが求められていました。
こうした背景のもと、IMFは国際通貨体制の安定と復興支援を目的に1945年に正式に設立されました。以来、 IMFは加盟国の経済・金融の安定に関与し、世界経済の健全な発展に寄与する役割を担っています。


IMFの目的

IMFの基本的な目的は、加盟国の経済が安定的に成長するよう支援し、国際的な金融システムの安定を確保することです。そのためにIMFは主に次のような活動を行っています。


マクロ経済・金融の安定促進

世界規模で物価や経済成長が安定するよう、各国の金融・財政政策の監視と助言を行います。経済危機の兆候を早期に察知し、拡大を防ぐための提言を行うのも重要な役割です。


政策助言と能力開発支援

加盟国の政府や中央銀行に対して、経済を強化・安定させるための政策アドバイスを提供します。また専門家の派遣や研修を通じて、加盟国の政策立案能力向上(キャパシティ・ディベロップメント)も支援します。


資金の融通(融資)

財政・経常収支が悪化し資金不足に陥った国に対し、必要に応じて短期・中期の融資を行います。
これにより当該国が急激な景気後退や通貨危機に陥るのを防ぎ、経済改革を進める時間を確保します。IMFの融資資金は加盟国からの出資金(クォータ)によって賄われています。


これらの活動を通じて、IMFは為替相場の安定、国際収支の調整、そして各国経済の持続的成長を後押ししています。


世界銀行との違い

IMFとよく比較される機関に世界銀行(World Bank)があります。両者はともにブレトンウッズ会議で生まれた姉妹機関であり、最終的な目標(加盟国の生活水準向上)は共通していますが、そのアプローチや役割は大きく異なります。*1


IMF

経済の短期的な安定に主眼を置きます。各国のマクロ経済政策や為替の安定に焦点を当て、景気後退や通貨危機など「短期的な経済問題」への対処を支援します。
具体的には、上記のように金融支援や政策助言を通じて、加盟国が直面する急激な経済的困難を乗り切る手助けをします。


世界銀行

経済の長期的な開発と貧困削減を目的としています。途上国を中心に、インフラ整備(道路や発電所の建設)、教育や医療の充実など長期的な視点でのプロジェクトに資金を融通し、経済開発を促進します。


言い換えれば、世界銀行は「長期的な経済成長の土台作り」を支援し、 IMFは「短期的な経済安定の確保」を担っているといえます。


2025年以降の世界経済の見通し

最新のIMF世界経済見通しによれば、2025年と2026年の世界全体の経済成長率(実質GDP成長率)はともに2.8%と予測されています。(2025年4月時点)*2

この成長率は2000~2019年の世界平均成長率(約3.7%)を下回っており、パンデミック以前の水準に比べ勢いに欠ける穏やかな成長といえます。
IMFは「世界経済の成長は安定を続ける見通しだが、過去平均を下回るやや低調なペースになる」と指摘しています。*3


IMFは2025年の日本の経済成長率を0.6%と予測

IMFの世界経済見通しや対日審査報告によれば、日本経済の2025年の成長率は約0.6%と見込まれています。
トランプ大統領の関税引き上げの政策により、1月の従来予想から0.5%下方修正される形となりました。*4

一方で、2024年が一時的な要因で低成長(約0.1~0.3%程度)にとどまったと推計される中で、2025年は内需主導で景気が持ち直すと期待されています。
この0.6%という数字自体は決して高くありませんが、安定成長の潜在力(日本の潜在成長率は概ね0.5%程度とされています)を上回る伸びであり、 日本経済にとっては「緩やかな回復」を示すものです。


理由①:徐々に賃金が上がっている

まず第一の理由は、日本で賃金が緩やかながら上昇基調にあることです。近年、人手不足を背景に企業が賃上げに動くケースが増えており、物価上昇(インフレ)率を上回るペースで給与が伸び始めています。
IMFは2025年について「インフレ率を上回る賃金の伸びが勢いを増し、家計の可処分所得と消費を押し上げる」と分析しています。*5

実際、賃金が上がれば家庭の使えるお金が増えることになるため、個人消費の底上げにつながります。
日本経済は個人消費がGDPの半分以上を占める内需型経済であり、給与アップによる消費拡大は成長に直結しやすいのです。


理由②:輸出がそれほど伸びない

第二の理由は、輸出など外需の伸びが鈍いことです。日本経済は輸出にも支えられていますが、足元では海外経済の減速により輸出の勢いがあまり強くありません。
上述のとおり、米国による関税引き上げも日本の輸出にさらなる打撃を与えると予測されています。*4

IMFも「内需は強まっているが、純外需(輸出-輸入)は停滞している」と指摘しています。*6

つまり、海外需要があまり伸びておらず、輸出による成長押し上げ効果が限定的だということです。

輸出の伸び悩み自体は日本だけの問題ではなく、世界全体で貿易成長が抑制されるトレンドが続いています。ただ、日本の場合は内需の拡大で一定程度カバーできるものの、やはり外需が弱いと全体の成長率は押し上がりにくくなります。


理由③:少子高齢化が進んでいる

第三の理由として、日本経済の長期的な構造問題である少子高齢化の進行が挙げられます。日本は世界でも例を見ない速さで高齢化が進み、生産年齢人口(働き手となる世代)の減少が続いています。
総務省のデータによれば、2024年時点で日本の65歳以上人口は3,625万人と過去最多で、総人口に占める割合は29.3%に達しています。*7

この高齢者比率は2025年には30%を超える見込みで、国民の3人に1人が高齢者という超高齢社会になります。

IMFも「日本は引き続き、高齢化という課題に直面している」と指摘しており、人口構成の変化が経済成長の制約要因であることを認めています。
高齢化が進むと、労働力となる若年・生産年齢人口が減少するため経済の供給力が落ち込みやすくなります。
また高齢世帯が増えると消費需要の構造も変化し、市場の活力が鈍る面もあります。さらに少子化による人口減少は将来的な国内市場の縮小を意味し、企業の投資意欲にも影響を及ぼしかねません。


IMFによる世界経済見通しのまとめ

IMFの世界経済見通しから浮かび上がるのは、2025年に向けた世界経済は全体として緩やかな回復軌道に乗るものの、その内実は地域によって強弱が分かれるという姿です。
インドや中国といった新興国が引き続き高成長を遂げる一方、先進国は低インフレ目標の達成や財政健全化といった課題に直面し、成長率は控えめに推移する見込みです。*3

こうしたIMFの見通しは、政府の経済運営のみならず、市場参加者や個人投資家にとっても有益な指針となります。
世界経済の展望を把握することで、為替や株式市場の動向を予測したり、資産運用の方針を考える際の前提条件としたりできるからです。

たとえば、 新NISAで投資を始めた初心者の方でも、世界の成長センターがどこにあり、どの国がリスク要因となり得るかを知っておくことで、分散投資の重要性や長期的な視野の大切さに気づくでしょう。

最後に、IMFによる世界経済見通しは定期的にアップデートされます。
世界情勢は常に変化するため、最新の情報に注目しつつ、自分の経済活動や投資戦略に活かしていくことが重要です。
IMFの発表するデータや分析を上手に活用し、2025年以降の世界経済と日本経済の行方を見極めていきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 国際通貨基金「IMFと世界銀行」
*2 Bloomberg 「IMF、今年と来年の世界経済成長率予測を大幅に引き下げ」
*3 JETRO「安定的な成長も、国ごとの格差目立つ、IMF世界経済見通し」
*4 Reuters 「IMF、日本の成長率見通し引き下げ トランプ関税の影響で」
*5 国際通貨基金「IMF理事会、2025年の対日4条協議を終了」
*6 国際通貨基金「日本:2025年対日4条協議終了にあたっての声明」
*7 一般社団法人公的保険アドバイザー協会「とうとう来た2025年問題」

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