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給料と給与って違うもの?意外に知らない賃金の法律を弁護士が解説
給料と給与って違うもの?意外に知らない賃金の法律を弁護士が解説

給料と給与って違うもの?意外に知らない賃金の法律を弁護士が解説

2025/03/18に公開
提供元:阿部由羅

「給料」と「給与」の使い分けについては諸説あるようですが、基本的には同じものと理解すればよいでしょう。

給料(給与)は、法律上は「賃金」の一部とされています。賃金については労働基準法のルールが適用され、会社などの使用者はそのルールを守らなければなりません。

本記事では、給料と給与の違いや、労働基準法における給料(給与)に関するルールなどを解説します。



「給料」と「給与」は違う?同じ?

ウェブサイトなどを見ていると、「給料」と「給与」の違いについてはさまざまな言説が乱立しています。

しかし、給料と給与は基本的に同じものと理解すれば十分です。参考までに、小学館がウェブ上で公表している「デジタル大辞泉」の定義を紹介します。


  • きゅう‐りょう〔キフレウ〕【給料】*1
    読み方:きゅうりょう
    労働者・使用人などに対して、雇い主が支払う報酬。俸給。
  • きゅう‐よ〔キフ‐〕【給与】*2
    読み方:きゅうよ
    [名](スル)
    1 給料。官公庁・会社などで支給される給料・諸手当の総称。
    2 金品などをあてがい与えること。また、そのもの。「制服を—する」

「給与」は動詞としても使えますが(=給与する)、名詞としての意味については、給料と給与の間に違いはなさそうです。
実際にも、給料と給与はいずれも「会社のために働いた対価としてもらうお金」という意味で用いられるのが一般的です。両者の使い分けを敢えて意識する必要はないでしょう。


給料(給与)は、法律上は「賃金」に含まれる

給料(給与)については、労働基準法という法律でルールが定められています。ただし労働基準法では、「給料」や「給与」ではなく「賃金」と定義されています。


  • 第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。*3

上記の定義のとおり、労働の対価(対償)として会社などから支払いを受けるものは、「給料」や「給与」などの名称が何であるかを問わず、労働基準法上の「賃金」に該当します。


労働基準法における賃金の主なルール

労働基準法では、賃金の正しい支払いを確保するため、会社などが遵守すべきさまざまなルールが設けられています。その中でも重要なものとして、以下の4点を紹介します。


  • 賃金の支払いに関するルール
  • 最低賃金
  • 残業代に関するルール
  • 減給に関するルール

賃金の支払いに関するルール

賃金の支払いについては、以下の5つのルールが設けられています(労働基準法24条)。


  • 通貨払いの原則
    賃金は原則として、通貨(=日本円の現金)で支払わなければなりません。
    ただし、労働者の同意を得た場合には銀行振込やデジタル払いなどが認められます。
  • 直接払いの原則
    賃金は、労働者本人に対して直接支払う必要があります。別人を介して賃金を支払うことは認められません。
    ただし、家族などの使者に対して賃金を支払うことは差し支えないとされています。
  • 全額払いの原則
    賃金は原則として、労働者に対して全額を支払わなければなりません。弁償代などを勝手に天引きすることは違法です。
    ただし、社会保険料、源泉所得税、住民税などの控除は認められています。
  • 毎月1回以上払いの原則
    賃金は原則として、毎月1回以上支払わなければなりません。たとえば、基本給を2か月に1回しか支払わない場合は違法となります。
    ただし、臨時に支払われる賃金や賞与などはこの限りではありません。
  • 一定期日払いの原則
    賃金は原則として、一定の期日を定めて支払わなければなりません。支給日を決めず、気まぐれに決めた日に賃金を支払うのは違法です。
    ただし、臨時に支払われる賃金や賞与などはこの限りではありません。

最低賃金

会社などの使用者は、労働者に対して最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません(労働基準法28条、最低賃金法)。

最低賃金には「地域別最低賃金*4」と「特定最低賃金*5」の2種類があります。特定最低賃金に該当する労働者については、いずれか高い方が適用されます。


  • 地域別最低賃金
    産業や職種にかかわらず、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者に適用される最低賃金です。
  • 特定最低賃金
    各都道府県内の事業場で働く労働者のうち、特定の産業で働く人に適用される最低賃金です。

特に近年では、地域別最低賃金が毎年大幅に引き上げられています。

2024年10月の改定では、全都道府県で地域別最低賃金が50円以上引き上げられ、全国加重平均額は1055円(51円増)となりました。
もう少し遡ると、2019年10月の改定時には901円、2014年10月の改定時には749円でした。地域別最低賃金が、近年急速に引き上げられていることが分かります。


残業代に関するルール

労働者が残業をした場合、会社などの使用者は残業代を支払わなければなりません。

一般的に「残業」とは、会社が定める労働時間(=所定労働時間)を超えて働くことをいいます。法的には、残業は「法定内残業」と「時間外労働」の2つに分類されます。


  • 法定内残業
    所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業
  • 時間外労働
    法定労働時間を超える残業

  • ※法定労働時間は原則として、1日当たり8時間・1週当たり40時間

法定内残業については、通常の賃金と同じ時給で計算した残業代を支払えば足ります。
時間外労働については、通常の賃金に対して25%以上(月60時間を超える部分は50%以上)の割増賃金を支払わなければなりません。


また、広義では休日労働や深夜労働を「残業」に含めるケースもあります。


  • 休日労働
    労働基準法によって付与が義務付けられた休日(=法定休日)に行う労働
  • 深夜労働
    午後10時から午前5時までに行う労働

休日労働には通常の賃金に対して35%以上、深夜労働には通常の賃金に対して25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。

なお、時間外労働と深夜労働、休日労働と深夜労働の割増率は重複して適用されます。たとえば休日労働かつ深夜労働なら、通常の賃金に対して60%以上の割増賃金の支払いが必要です。


減給に関するルール

労働者が就業規則違反を犯した場合、会社などの使用者は懲戒処分を行うことができます。

懲戒処分の一種である「減給」については、過度に重い処分によって労働者が困窮する事態を防ぐため、以下の2つの上限が設けられています(労働基準法91条)。


  • 1回の減給額が平均賃金の1日分の半額以下
    (例)平均賃金の1日分が1万円の場合、1回の減給額は5000円以下
  • 減給の総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1以下
    (例)月給が30万円の場合、1か月に行うことのできる減給の総額は3万円以下

減給額がいずれか一方でも上限を上回ると、労働基準法違反となります。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 weblio辞書「給料」
*2 weblio辞書「給与」
*3 e-gov法令検索「労働基準法第11条」
*4 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」
*5 厚生労働省「特定最低賃金の一覧」


阿部 由羅
あべ ゆら

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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