日銀が2024年3月19日の金融政策決定会合にて、マイナス金利解除を決定し、17年ぶりに利上げに踏み切りました。その後、4月17日の為替市場では34年ぶりに一時154円台まで円安が進行しました。
日本企業は、円安によってどのような影響を受けるのでしょうか。
恩恵を受ける、その逆となる場合など、実例も交えてみていきましょう。
どのような企業が円安で恩恵を受けるのでしょうか。
一般的に、
は、円安の恩恵を受けやすい一方、
は、恩恵を受けにくい、もしくは悪影響を受けやすい、と言われています。
なぜ、輸出企業、海外進出企業は恩恵を受けやすいのでしょうか。
輸出企業は、海外への輸出=売上が増えるためです。海外から見ると、同じ1ドルで買える日本の商品の量や質が増える、つまり「割安」となり、購入が増えるという仕組みです。
海外進出企業は、現地での利益の評価が増えるためです。現地で1ドルの利益を得た場合、1ドル=100円の時と比べ、1ドル=150円であれば、日本円での利益が50円多くなるという仕組みです。
一方、恩恵を受けにくい、と言われている国内企業でも、インバウンド需要(海外から日本にきた旅行客による日本での購入増)により恩恵を受ける場合もあります。海外の方が、「割安」になったモノやサービスを多く購入・消費することで、売上や利益増につながるためです。
円安では、輸出企業や海外進出企業が恩恵を受けやすいと言われていますが、実際はどうでしょうか。
日本企業で、輸出や海外進出している代表といえば自動車メーカーです。2023年9月の中間決算では、大手7社中4社が中間期として過去最高益となり、かつ、通期(2024年3月)の純利益の見通しを上方修正しています*1。
このうち円安は、どの程度影響しているのでしょうか。
対ドルで1円の円安で、企業の営業利益が、マツダで29億円、トヨタ自動車では450億円のプラス効果をもたらしています*1。
また、主要企業全体へ目を向けると、なんと、1兆4,000億円程度のプラス効果があると試算されています*2。
輸入企業(輸入のみを行っている)、国内企業(輸出、輸入、海外進出のいずれも行っていない企業)は、円安の恩恵を受けにくいと言われています。
それは、輸入企業にとっては、輸入品のコストが増加する一方、販売価格に転嫁できないと売上や利益の減少につながるからです。
同じ1ドルの化粧品を輸入する際、円安により1ドルが100円から150円になると、50円のコスト増になります。これを販売価格にそのまま転嫁した場合、購入を見送るお客さまも出てきます。すると、企業の売上や利益が減少し、これが続くと倒産に至る場合もあります。
東京商工リサーチによれば、2023年の円安に関連する倒産は前の年の2倍以上に急増しました。
出所:「2023年の「円安」関連倒産52件 前年の2.1倍に急増、12月は2件」東京商工リサーチ
円安が急激に進行した2022年の3月以降、少し遅れる形で、円安に関連する倒産 (オレンジの棒グラフ)が大幅に増えているのがわかります。これを事業別に見ると、最多が卸売業の24件で、以下、製造業11件、小売業8件、サービス業他4件、農・林・漁・鉱業3件、建設業2件でした。
このように、円安が日本企業にマイナスの影響を与える面もあることが分かります。
円安の恩恵を受けにくい、もしくは悪影響を受けやすい企業の中でも、業績を維持できた企業もあります。
それは材料などの仕入れコストが上がった分を販売価格に転嫁できた、つまり商品の値上げに成功した企業です。
例えば明治ホールディングスは、原材料等のコスト増に対応するため、チョコレートの「アポロ」や牛乳、ヨーグルト「Rー1」など多くの商品を値上げしています。
その結果、2023年の中間決算では、原材料等のコストは172億円分増えたものの、利益は304億円増加し、増益を確保しています*1。
値上げは消費者からすれば喜ばしいことではありませんが、受け入れられる範囲であれば、売上への影響を抑え、企業利益を維持することができます。ただし、受け入れられる範囲を超えた値上げは、購買意欲減退、売上減につながる可能性があることに留意が必要です。
円安は、日本企業の業績に、プラスにもマイナスにも影響することを見てきました。
皆さんがお勤めの企業の業績、普段の買い物での値段など、影響は様々ですので、今後も意識してみるとよいでしょう。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1「円安追い風、値上げ奏功、でも… 好決算に沸く上場企業」朝日新聞デジタル
*2「円安で増益効果、主要企業10社で1兆4000億円程度か-トヨタが筆頭」ブルームバーグ