投資用の口座を開設しても、取引せずにそのまま放置してしまう人が多くいます。なぜ取引をしなかったかを尋ねてみると、「十分な知識がないから」が39.2%で最多でした。*1
つまり、投資を始めるなら専門的な知識が必要だと考えている人が多いのです。
資産運用の本を買ったり、インターネットで各サービスの評判を調べたり……。老後のために資産形成をしたい、資産運用でお金を増やしたいと思ったとき、勉強から始める人は多いでしょう。
もちろん、知識は大切です。そのうえで、そういった勉強を始めるよりも前に、まずは現状把握と目的・目標設定してみるのはいかがでしょうか。
「今あなたの資産はいくらですか?」
こう聞かれて、みなさんは即答出来るでしょうか。
月々の収入やある程度の支出は把握しているけれど、正確な貯蓄額や先月の引き落としがいくらだったかは確認しないとわからない……そんな人もいるかもしれません。
実は、私自身がそうでした。
今まであまり資産運用に興味がなかったのですが、30歳になって子供を考え始め、「お金について真面目に考えなくてはいけない」と投資に興味を持ち始めた時のこと。
「さぁ資産運用するぞ!」と思ったはいいものの、よく考えると、そもそも自分がどれくらいお金を持っているのか、月々どの程度貯蓄出来ているのか、何にどれほどお金を使っているのか、まったく把握していなかったのです。
我が家は夫が家賃や生活費担当、私が貯蓄と税金担当で家計を分けていたこともあり、私は夫のボーナス額を知らず、夫は私の貯金額を知りませんでした。
そんな状態では、投資に回せる余剰資産や背負えるリスクがどの程度か、判断が出来ません。
そのため、まずは夫婦揃って口座残高を確認し、月々の収支を管理することから始めました。
具体的に、現状把握のために確認したことをリストアップしてみます。
改めて確認すると、思っていたより食費がかかっていたり、使っていないサブスクがそのままになっていたりなど、自分がいかに経済状況を把握できていなかったのかを痛感しました。
資産運用をする際は、「いくら使うか」「いくらまでの損なら耐えられるか」を決めておくことが大切で、その判断基準は現在の経済状況となります。そのため、収支の把握が必要なのです。
しかし、現在の経済状況と言っても、「直近の収支だけを見ればいい」という訳ではありません。
生活意識のアンケートでは、「1年前と比べると収入が増えた」と答えた人はわずか11.1%なのに対し、「収入が減った」のは36.3%。一方で、1年前に比べて「支出が増えた」人は60.2%、「減った」人は12.7%となっています。*2
最近の物価上昇も踏まえ、今後収入が減ったり、支出が増えることはおおいにあり得ます。また、病気や災害、家族の不幸などの非常事態に備えて、ある程度のお金は確保しておいたほうがいいでしょう。
直近の収支はもちろん、今後の見通しや必要な貯蓄などを全て含めたものが、「現在の経済状況」です。
そしてそれを把握して初めて、「ではいくら資産運用に回せるか」「いくらまでなら損失に耐えられるのか」の判断ができるのです。
参考として、投資口座の開設を検討したきっかけに関する調査を見てみましょう。この調査では、「一定額以上の資産運用資金(預貯金等)の確保」が51%と過半数を超えています。*3
つまり、今後必要になるであろう一定額以上のお金を確保し、投資に回せるだけの余裕があると確信してから、投資口座開設の検討をする人が多いのです。
いくら利益を得たとしても、生活が立ち行かなくなっては本末転倒。そうならないために、まずは現状把握が必須になります。
現状把握をしたらさっそく投資口座を開設……する前に、もう一つやるべきことがあります。それは、目的・目標設定です。
資産運用をする理由は人それぞれで、目的に応じて目標も変わってきます。ここでの「目的」とは最終的なゴール、「目標」とはそのためにクリアすべき過程、という意味です。
資産運用を始めたきっかけに関するアンケートでは、「老後の生活資金にそなえるため」が46.3%と最多で、他にも「株主優待を得るため」の7.5%、「短期的に運用益を得るため」の7%、「子どもの教育資金にそなえるため」の5%などが挙げられています。*4
一概に「資産運用」と言っても、「何のためにするか」は三者三様。目的が違えば当然、手段も変わります。
老後の備えであれば、長期的な資産運用が向いています。長期という時間を最大限に活かせる方法を選ぶといいでしょう。
株式優待を得るためであれば、何の銘柄をどの程度買うべきかを決めやすいので、必要金額を用意すれば準備完了です。短期的な利益を求めるのなら、相応のリスクを考慮しなくてはいけません。
目的と、それを達成するための手段が明確になったら、おのずと目標も見えてきます。
老後の生活資金の確保が目的であれば、「50歳までに〇〇円、65歳までに××円」のように。
期待したほど運用が上手くいかなかった場合は、支出を見直して改めて現状把握をしたり、運用方法を変えてみたり、適宜目標を修正することで目的に近づくことが出来るでしょう。
漠然と「老後の資金のために」と資産運用を開始するよりは、明確な目的を持ち、そのための短期・中期的な目標があったほうが、より具体的に方法を考えられるようになります。
実際に投資をしてみて、9割以上の人が「して良かった」と感じているという調査があります。
資産が増えた以外にそう感じた理由として、「お金に関する知識に関心が持てるようになったこと」が51.1%、「経済の動きに関心が持てるようになったこと」が37.3%、「お金を稼ぐ方法は、労働だけではないと知ったこと」が37.2%、「長期的な視点を持てるようになったこと」が29.8%、「自分のライフプランについて考えるようになったこと」29.4%など、さまざまな要因が挙げられていました。*5
これはどれも、私自身も感じていることです。
資産運用に際して、「現在の自分の資産状況はどうなっているのだろう」「経済は今後どうなるのだろう」「お金はどういう仕組みで動いているのだろう」などの関心が芽生え、今まで以上にお金に関するアンテナを張るようになりました。
また、5年後や10年後の自分の未来を想像し、どんな生活を送っていたいか、そのためにはいくら必要か、など将来について具体的に考え始めたのも、資産運用に興味を持ったことがきっかけです。
いくら投資するか、どれ程利益を出せたかは、もちろん大切です。しかし資産運用がもたらすものは、金銭的な結果だけではありません。
自分のお金の管理方法の見直しやライフプランの具体化など、将来を考えるきっかけにもなるのです。
資産運用に興味を持ったら、まずは現状把握と目的・目標設定を通じて、自分自身がどう生きていきたいかを考えてみるといいかもしれません。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1三菱UFJフィナンシャル・グループ「金融リテラシー1万人調査の概要-「投資をしている人」と「投資をしていない人」の違いとは-」p13
*2日本銀行情報サービス局「『生活意識に関するアンケート調査』(第93回<2023年3月調査>)の結果 」p6, 7
*3三菱UFJフィナンシャル・グループ「金融リテラシー1万人調査の概要-「投資をしている人」と「投資をしていない人」の違いとは-」p12
*4三菱UFJフィナンシャル・グループ「アンケートで聞きました!あなたが資産運用を始めたきっかけは?」
*5三菱UFJフィナンシャル・グループ「“投資経験者”の意向調査-新型コロナウイルス感染拡大に伴う金融市場の変動を踏まえて-」p12