日本銀行は経済状況によってあらゆる金融政策を行い、物価の安定を図ります。近年の日本銀行は「量的緩和・質的緩和」という金融緩和によって、日本の物価安定を目指しています。金融緩和は私たちの消費活動にも影響がある政策なので、知っておかなくてはいけません。
この記事では日本銀行が何を目指しているのか、どのような方法と目的で金融緩和を行っているのかについて解説します。
日本銀行は「物価の安定」と「金融システムの安定」という目的を達成するために、さまざまな業務を行っています*1。
日本銀行が行う業務の例は以下の通りです。
日本銀行は銀行券(紙幣)を発行できる唯一の銀行です。銀行券を発行し、日本銀行と金融機関の間での受払等を通じて、銀行券の安定供給と信認を確保します。個人や一般企業と日本銀行が直接取引を行うことはありませんが、個人などが金融機関と行なっている預金取引も、最終的に金融機関が日本銀行に預けている当座預金によって決済されています。*2。
金融政策とは、日本銀行がオペレーション(公開市場操作)などにより金利を調整することで、個人や企業の投資・消費行動、マクロ視点での経済・物価動向に働きかけることです。
また、「物価の安定」を達成するために、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会が「金融政策決定会合」を年8回開催し、金融政策の決定と実行を行います。
金融政策決定会合終了後、日本銀行より現状の経済・物価情勢に対する考えや、今後の金融政策運営の考え方が公表されます。
日本銀行は個人や企業が安心して利用できるよう、金融システムが安定して正常に機能するための取組みを行っています。具体的には、金融機関に対して業務運営の実態やリスクの管理状況、自己資本の充実度や収益力についての調査を行い、金融機関の経営の健全度を維持・向上しているのです。また、各金融機関だけを見るのではなく、金融システム全体として捉えたときのリスク分析や評価も行います。
また、万が一どこかの金融機関が破綻してしまった場合、金融システムに混乱や機能低下が起きるかもしれません。その際は必要に応じて、日本銀行が資金不足に陥った金融機関に資金を提供することもあります。この機能は「最後の貸し手」とも呼ばれています。
2013年1月、日本銀行は国内のデフレ脱却と物価安定の目標として、消費者物価の前年比上昇率2%を掲げました*3。
デフレとはモノやサービスに対する需要が減り、モノが売れにくくなることで、物価が全体的に下がる現象を指します。物価の下落が起きると企業の売上や利益が減少し、従業員の報酬や設備投資を減らされることで、景気の悪化に繋がります。この物価の下落と経済活動の縮小が繰り返す悪循環に陥ることを「デフレスパイラル」といいます。
デフレの定義にはさまざまな考え方があるものの、BIS(国際決済銀行)やIMF(国際通貨基金)といった国際機関が「少なくとも 2年間の継続的な物価下落」をデフレと定義したことを踏まえ、近年の日本では2001年3月~2006年6月、2009年11月~2013年11月の月例経済報告(内閣府発表)において「デフレ」という文言が登場しています。
出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング デフレ脱却にどこまで近づいたのか?p.2
また、物価を安定させることが大切なのは、物価があらゆる経済活動や国民経済の基盤となるためです*1。モノやサービスの価格は、個人や企業が消費や投資を行うかどうかに関わる重要な判断基準となるため、物価が大きく変動してしまうと消費や投資の判断が難しくなり、お金の資源配分が行われにくくなることへと繋がります。
2%の物価上昇を実現するために、日本銀行がどのような金融政策を実行してきたのか解説します。
2013年4月、日本銀行は「量的・質的金融緩和」政策の導入を発表しました*4。
この発表により、日本銀行は金融市場調節の操作目標を従来の無担保コールレートからマネタリーベースでの調整に変更しています。無担保コールレートとは約定日に資金の受払を行って、翌営業日を返済期日とするものにかかる金利のこと*5、マネタリーベースとは日本銀行が世の中に直接的に供給するお金*6のことです。併せて、マネタリーベースが年間で約60~70兆円に相当するペースで増加するように調節を行う方針としています。*4。また、長期国債買入れの平均残存期間を3年弱から7年程度に延長することや、ETFやREITなどの資産買入れの拡大を発表しています*4,7。
続く2014年10月、日本銀行は量的・質的金融緩和の拡大を発表しました。
これまで年間約60~70兆円の増加としていたマネタリーベースを年間約80兆円に増加、また、ETF保有額を年間約3兆円、J-REIT保有額を約900億円と、それぞれ3倍に増加しました。さらにJPX日経400に連動するETFを買入れ対象としています。
この時期は、消費税率引上げによる需要の減少と、原油価格の大幅下落による物価の下落要因が強まっていたため、景気回復の勢いに欠けている状況でした。そこで改めて物価上昇の後押しをすべく、日本銀行は金融緩和の拡大に踏み切ったのです。
さらに2016年1月、日本銀行は2%の物価安定を早期に達成するためにマイナス金利を導入し、量・質・金利の3つの次元で金融緩和を進めると発表しました。
マイナス金利政策とは、民間の金融機関が日本銀行に預けている預金に対し、金利をマイナスに設定する状態のことです。通常は日本銀行にお金を預けると金利がついてお金が増えますが、マイナス金利の場合は逆に金利分の支払いが発生してしまいます。マイナス金利を導入することで、日本銀行は民間の金融機関に対して企業への貸出や投資に資金を回すよう促し、経済を循環させることを目指しています。*9。
2016年9月には「長短金利付き量的・質的金融緩和」を導入して2%の物価安定を目指す方針を示しました。
長短金利付き量的・質的金融緩和は、イールドカーブ・コントロールとオーバーシュート型コミットメントの2つから成り立っています*10。
イールドカーブ・コントロールとは、日本銀行が短期政策金利と長期金利の誘導目標を決めて、その目標値となるように国債の買い入れを行う金融緩和政策のことを指します。導入当初は金利を0%からプラスマイナス0.1%程度の範囲とすることを目標にしていましたが、2018年7月にはプラスマイナス0.2%程度、2021年3月にはプラスマイナス0.25%程度と、変動幅が拡大しています。*11。
オーバーシュート型コミットメントとは、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率が安定して2%を超えるまで、マネタリーベースを拡大させることです。この方針を示すことで、2%の物価安定を実現することへの信認を高めようとしています*10。
日本銀行は国内の経済の安定を図るために、さまざまな要因を加味して金融政策を計画・実行しています。直接個人が日本銀行と取引することはありませんが、日本銀行の金融政策によって、物価という側面で普段の消費活動に影響が及びます。
定期的に行われる金融政策決定会合によって現在の日本の経済状況や、今後の金融政策の動向が発表されます。意識して情報収集を行うことで、普段の消費活動の参考にしてはいかがでしょうか。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出所
*1 日本銀行について
*2 日本銀行 銀行の銀行
*3 日本銀行 金融政策運営の枠組みのもとでの「物価安定の目標」についてp.1,2
*4 日本銀行 「量的・質的金融緩和」の導入についてp.1
*5 日本銀行について 無担保コールレート(オーバーナイト物)とは何ですか? 資金過不足とは何ですか?
*6 日本銀行について 「マネタリーベース」とは何ですか?
*7 東証マネ部 金融緩和とは何かわかりやすく説明!日本の金融政策事情も理解できる
*8 日本銀行 「量的・質的金融緩和」の拡大p.1,2
*9 日本経済新聞 マイナス金利とは 貸し手が金利を負担する状態
*10 日本銀行 金融政策
*11 日本経済新聞 イールドカーブ・コントロールとは 長短金利を誘導