2023年3月24日、京都市が導入を目指している「空き家税(正式名称:非居住住宅利活用促進税)」に総務大臣が同意し、早ければ2026年度に全国で初めて導入される見通しになりました。
長期不在となっている空き家はこの20年間で約1.9倍に増加。
空き家が放置されると、周辺地域の景観や環境への悪影響、建物が適正に管理されないことによるトラブル等、多くの問題が生じるため、国や地方自治体はさまざまな空き家対策を講じています。
本記事では空き家をめぐる現状と、空き家対策・支援策について解説します。
空き家は現在、どのような状況にあるのでしょうか。関係官公庁の資料をみていきましょう。
まず、全国にどのくらいの空き家があるのでしょうか(図1)。*1
図1 空き家の推移
出所)国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」p.2
住宅・土地統計調査(総務省)によると、空き家の総数は、この20年で576 万戸から849万戸に増加しています。
空き家は、別荘やたまに寝泊まりする人がいる「二次的住宅」、賃貸や売却のために空き家になっている「賃貸用又は売却用住宅」、そして長期にわたって住人不在になっている「その他空き家」に分けられます。
近年急増して、問題になっているのが「その他空き家」。この20年間で約1.9倍、182万戸から349万戸に増加しており、空き家全体に占める割合が年々増加傾向にあります。(図2)。*1
図2 全国の「その他空き家率」
出所)国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」p.4
「その他空き家」の取得経緯はどのようなものでしょうか(図3)。*2
図3 「その他空き家」の取得経緯
出所)国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査 報告書」p.24
図3をみると、「その他空き家」は相続による取得が58.7%と高い割合になっています。
では次に、空き家の問題点をみていきましょう。
まず、空き家には適切な管理が難しいという問題があります。
以下の図4は、所有者が感じている心配事を、空き家の管理頻度別に表したものです。*2
図4 管理頻度別管理での心配事
出所)国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査 報告書」p.28
「住宅の腐朽・破損の進行」を心配している人が最も多く、次いで「樹木・雑草の繁茂」、「不審者の侵入や放火」、「地震、豪雪などによる損壊・倒壊」となっています。
所有者の心配を裏付けるデータがあります。
「その他空き家」349万戸のうち、最も多いのは木造一戸建てで240万戸。全体の69%を占めています。さらに240万戸のうち、「腐朽・破損あり」の状態の空き家は、なんと100.6万戸に上っていたのです(図5)。*1
図5 「その他空き家」のうち、腐朽・破損ありなどの住宅
出所)国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」p.5
心配事が尽きない空き家。しっかり管理したい気持ちはあるけれど、実際には手が及ばないのが実態かもしれません。空き家管理が難しくなる背景には何があるのでしょうか(図6)。*2
図6 管理上の課題
出所)国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査 報告書」p.28
空き家管理の課題は、「管理の作業が大変」が29.8%、次いで「住宅を利用する予定がないので管理しても無駄になる」、「管理費用の負担が重い」、「遠方に住んでいるので管理が困難」と、いずれもかかる負担が重いことが窺えます。
また、所有者の家から空き家までの所要時間を調べてみると、車・電車などで1時間超かかるという人が、空き家所有者の6割以上になります。空き家に行くまでにかかる時間が、管理を難しくする一因になっているのかもしれません。*2(p.34)
京都市は早ければ2026年から「空き家税」を導入する予定です。
その背景には、空き家が増加すると、京都市に居住を希望する人への住宅の供給増加を妨げ、防災上や防犯上、あるいは生活環境上の多くの問題を生じさせ、地域コミュニティの活力を低下させる原因の一つになっていくという問題意識があるのです。*3
「その他空き家」の数は、2025年に420万戸、2030年には470万戸程度と、今後さらに増えることが予想されています。*1(p.6)
そこで国は、管理が行き届いていない空き家の除却と、管理状況が良好な空き家の利活用を一体で推進することで、空き家の増加を抑えようとしています。
空き家の除却を推進する法令をご紹介します。
まず、適切な管理が行われていない空き家の敷地は「固定資産税等の住宅用地特例」の対象から除外される対策がとられています。*1(p.16)
「固定資産税等の住宅用地特例」とは、住宅用地に対する固定資産税を減額する特例のことで、住宅用地は課税標準を3分の1に減額し、特に200平方メートル以下の部分(小規模住宅用地)に対する課税標準は6分の1に減額するとされています。*4
この特例から除外されるのは、2015年施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法」で定められた、以下の状態にある「特定空家等」です。*5(p.2)
市区町村長が空き家を「特定空家等」に指定し、改善に向けた「勧告」を受け、その後状況が改善されなかった場合、「特定空家等」が存在する敷地は「固定資産税等の住宅用地特例」の対象から除外されてしまうのです。*1(p.16)
以下の図7は、この措置の流れと2022年3月末までの措置状況です。
図7 「特定空家等」に対する措置の流れと「固定資産税等の住宅用地特例の適用対象除外」のタイミングと実施状況
出所)国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」p.16
管理が不十分な空き家の除却や適正管理を促進し、市区町村による空き家対策を支援する目的で施行されています。
次にご紹介するのは、相続した家屋と土地を譲渡した場合のケースです。
相続により家屋を取得した人が、相続日から起算して3年を経過する日の属する年の12月31日までに、その家屋または取壊し後の土地を譲渡した場合には、当該家屋または土地の譲渡所得から最高3,000万円まで特別控除されます。
なお、耐震性のない空き家の場合は、リフォームをして一定の耐震性を満たした上で譲渡するか、リフォームをしない場合は家屋を取壊して更地にしてからの譲渡が必要になります。(図8)。
図8 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除のポイントと交付実績
出所)国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」p.24
現在は8割以上の市区町村へ空き家の利活用の取り組みが進んでいます。*1(p.10)
たとえば、「全国版空き家・空き地バンク」という、各自治体が把握している全国の空き家情報を横断的に検索できるシステムがあります。*1(p.27)
利用者は増加傾向で、試行運用開始直後の2018年と2022年9月末時点を比べると、参加自治体数は約2倍、物件掲載件数は約4.7倍となり、累計約12,200件の物件が成約済みとなっています(図9)。
図9 全国版空き家・空地バンクの参加自治体・登録件数
出所)国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」p.27
空き家に関する相談に対応している自治体もあります。
出雲市は、NPOなどが空き家に関する相談を受ける窓口を設置し、相談員が専門家と連携してアドバイスしています。
地域の拠点となる中心市街地やエリア観光地に空き家が一定程度集中している場合は、エリア本来の機能を維持・再生するために、空き家活用を重点的に推進している地域などもあります。
家屋の相続が想定できる場合には、あらかじめその家屋に居住している家族の要望を確認し、相続後にどうするのか考えておくことも有益でしょう。場合によっては家屋相続後、早めに譲渡することで税制免除なども受けられるメリットもありそうです。
空き家は適切な管理をしないと維持が難しく、さまざまな問題が生じやすくなります。
また、空き家が存在する地域の条例や規制を遵守する必要もあります。
万一、管理が難しい場合には国や自治体の支援や寄付も視野に入れ、様々な方向性をあらかじめ探り、対処していくことが大切です。
費用の削減には育休制度などの公的支援も活用しましょう。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出所
*1国土交通省住宅局「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」(2022年10月)p.2-6, p.8, p.10, p.16, p.24, p.27
*2国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査 報告書」(2020年12月) p.24, p.28, p.34
*3京都市「京都市情報館 非居住住宅利活用促進税の導入に向けた取組について」(2022年12月20日)
*4東京都主税局「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)」【土地】2 住宅用地及びその特例措置について
*5国土交通省 住宅局住宅総合整備課「空家等対策特別措置法について」(2021年2月4日)p.2