円高や円安が大きく進行すると、必ずといってよいほど話題になるのが為替介入です。
経済ニュースなどで「為替介入」という言葉を聞いたことはあっても、いったい誰が、どんな方法で行っているかはよくわからない人もいるでしょう。
本記事では、 為替介入の種類や実施方法、メリット・デメリットなどの基礎知識を解説します。
為替介入とは、通貨当局が為替相場に影響を与えるために、外国為替相場で通貨間の売買を行うことです。*1
正式名称は「外国為替平衡操作」といい、財務省が実施状況を公表しています。
過度な円安・円高はさまざまな分野に影響を及ぼすため、為替変動の安定化のために、状況に応じて為替介入が実施されることがあります。
直近では、歴史的な円安局面が続いたことを受けて、2024年4月~5月にかけて9兆円規模の為替介入が実施されました。*2
為替介入の目的は為替相場の急激な変動を抑え、その安定化を図ることです。*3
為替相場は、基本的に各国経済のファンダメンタルズ(経済状況を示す指標)が反映され、市場における需要と供給のバランスによって決まります。*4
しかし、為替相場は経済や家計に影響を与えます。
「各国の経済状況から大きく乖離する」「短期間のうちに大きく変動する」といった不安定な動きは好ましくないとされているため、為替相場の状況によっては為替介入が実施されることがあります。
日本では、為替介入は財務大臣の権限において実施することとされています。
日本銀行は財務大臣の代理人として、その指示に基づいて為替介入の実務を行います。
為替介入が実施されるまでの流れは以下のとおりです。
為替相場の状況によっては、財務大臣の代理人として、日銀が海外の通貨当局に為替介入を委託することもあります。
為替介入では、外国為替市場で通貨間の売買を行うため、実施するには円やドルなどの資金が必要です。
日本の場合、財務省所管の外国為替資金特別会計(外為特会)と日銀が保有する「外貨準備」が為替介入の原資となります。*5
外貨準備とは、為替介入のほか、他国に対して外貨建て債務の返済が困難になった場合などに使用される準備資産です。*6
財務省は、毎月末の外貨準備の残高(ドル建て)を翌月上旬に公表しています。
たとえば、急激な円安に対応するために、外国為替市場でドルを売って円を買う「ドル売り・円買い介入」を行う場合は、外貨準備のドル資金を売却して円を買い入れます。
反対に、急激な円高に対応するために、外国為替市場で円を売ってドルを買う「円売り・ドル買い介入」を行う場合は、政府短期証券を発行して調達した円資金を売却し、ドルを買い入れます。
為替介入は、主に次の3種類があります。*7
単独介入が一般的ですが、主要通貨の相場変動がとりわけ大幅かつ急速な場合や、ファンダメンタルズの乖離が非常に大きい場合は協調介入が実施されることがあります。*8
口先介入は、実際に円やドルなどの通貨を売買するわけではありません。
市場参加者を心理的に操作するために、政府高官が為替水準について発言したり、為替介入を示唆したりすることによって、結果として急激な為替変動が落ち着く可能性があります。*9
ここでは、過去に行われた為替介入を2つ紹介します。
2011年は、東日本大震災により日本経済は落ち込んでいましたが、欧州債務問題などを背景に円高が加速していました。
同年8月と10月には1ドル75円台に突入するなど、複数回にわたって最高値を塗り替えました。*10
このような歴史的な円高水準を是正するために、同年10月から11月にかけて、政府・日銀は約9.1兆円規模の為替介入(円売り・ドル買い介入)を実施しました。
2022年は、急激に円安・ドル高が進行しました。この状況を受けて、2022年9月に政府と日銀は約2.8兆円規模の為替介入(ドル売り・円買い介入)を実施しましたが、円安の流れは止まりません。
同年10月に1ドル150円台の歴史的な円安水準に達すると、政府・日銀は同じく10月に再度約6.3兆円規模の為替介入を実施しました。
為替介入のメリットは、急激な為替変動が抑制されることで、経済や家計の安定化が期待できることです。
過度な円安・円高が続くと、経済や家計などにさまざまな影響を及ぼします。
たとえば、過度な円安は輸入品の物価が上昇し、家計の負担が大きくなります。
一方、過度な円高は輸出産業の国際競争力を弱める要因となります。
一方で、為替介入には次のようなデメリットもあります。
為替介入を実施するには、円やドルなどの資金が必要です。
円安局面では外貨準備を使い、円高局面では政府短期証券の発行により円を調達しますが、実施できる規模や回数には限りがあります。
過度な円安や円高が是正されるまで、制限なく実施できるわけではありません。
為替介入を実施しても、その効果は限定的との見方もあります。
先ほども触れたように、実施できる規模や回数に制限があるからです。また、為替相場では異なる通貨が交換されるため、日本単独で為替介入をしても効果は長続きしない可能性があります。
為替介入を実施する際は、諸外国への配慮が必要です。
日本では主にドルに対して為替介入が行われるため、特に米国との関係は重要といえます。米国の理解を得られないまま為替介入を強行すれば、日米関係が悪化する恐れもあるでしょう。
為替介入は急激な為替相場の変動を抑え、その安定化を図るために政府・日銀によって実施されます。
過度な円安・円高を是正することにより、経済や家計への影響を和らげる効果が期待できるのがメリットです。
ただし、実施できる規模や回数に制限があるため、効果は限定的との見方もあります。
為替相場は株価にも影響を与えるので、投資に取り組むなら為替介入の仕組みや特徴を理解しておきましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1日本銀行「為替介入(外国為替市場介入)とは何ですか? 誰が為替介入の実施を決定し、誰が為替介入を行うのですか?」
*2財務省「外国為替平衡操作の実施状況(令和6年4月26日~令和6年5月29日)」
*3財務省「外国為替平衡操作の実施状況」
*4三菱UFJモルガン・スタンレー証券「ファンダメンタルズ」
*5財務省「外貨準備等の状況」
*6日本銀行「外貨準備とは何ですか?」
*7三菱UFJモルガン・スタンレー証券「為替介入(かわせかいにゅう)」
*8国際通貨研究所「中央銀行の為替介入」
*9東証マネ部「為替介入とは何かわかりやすく解説!これで効果や歴史もわかる」
*10三菱UFJ銀行「経済レビュー 円相場に関する名目と実質の乖離 P2」