logo
Money Canvas(マネーキャンバス)
back icon
clear
back icon
介護離職とは?現状と2025年の法改正についても解説
介護離職とは?現状と2025年の法改正についても解説

介護離職とは?現状と2025年の法改正についても解説

2025/09/02に公開
提供元:Money Canvas

仕事と介護の両立に悩む人が増え、「介護離職」という言葉が注目されています。
家族の介護を理由に仕事を辞めることは、家庭にも職場にも大きな影響を及ぼします。

この記事では、介護離職の意味やメリット・デメリット、そして日本の現状や2025年の育児・介護休業法改正について解説します。

介護離職を避けたい方に向けたポイントも紹介しますので、ぜひこの記事を仕事と介護の両立に役立ててください。


介護離職とは?

介護離職とは、家族や親族の介護を理由に勤めている仕事を辞めることです。

高齢化が進む日本では介護が必要な高齢者が増え、それを支える家族も増加しています。総務省の調査によれば、2022年の1年間で介護・看護を理由に離職した人は約10万6,000人にのぼり、毎年ほぼ10万人前後が介護離職している状況です。

介護離職者の約8割は女性で、年代別では50代が最も多いことが報告されています。*1

まさに働き盛りの世代が介護のために職場を去ることは、本人のキャリア形成や世帯収入に打撃を与えるだけでなく、企業にとっても貴重な人材の損失であり、ひいては日本の労働力確保における大きな課題となっています。


介護離職のメリット・デメリット

家族の介護のために離職することは人生の大きな決断です。当然ながら、その選択にはメリットもデメリットも存在します。

ここでは介護離職の主な利点と欠点について見ていきましょう。


介護離職のメリット

介護離職にはいくつかのメリットが考えられます。

まず介護に専念できるため、介護と仕事との両立によるストレスが軽減される点です。
仕事を辞めることで時間的な余裕が生まれ、介護が必要な家族と過ごす時間を十分に取れるようになるでしょう。
特に親の介護を最後まで自宅で行いたいと望む場合、離職によってその環境を整えることができます。
実際、十分な蓄えがありフリーランスで働く道を選んだある介護離職者は「母を最後まで家で介護すると決めていたので、後悔はありません」と語っています。*2

また、急な通院の付き添いや介護サービスの手続きなどにも柔軟に対応しやすくなるため、家族に万一のことがあってもすぐ駆け付けられる安心感があります。
仕事の都合で介護に十分参加できないもどかしさが解消され、精神的な安堵感を得られる場合もあるでしょう。


介護離職のデメリット

一方で、介護離職には大きなデメリットが存在します。

最大の課題は収入の減少です。
働くことを辞めるわけですから家計への打撃は避けられません。ある調査では、介護を理由に離職や転職をした人は男性で平均4割、女性で約5割も年収が減少したという結果が出ています。
収入源を失うことで生活費や介護費用の負担が重くのしかかり、経済的に不安定になるケースが多いのです。*3

さらに、仕事を辞めることで会社という社会的なつながりが希薄になり、職場での役割や同僚との交流を失うことにもなります。それまでのキャリアが中断されるため、再就職が困難になる点も深刻です。

加えて、介護に専念することで身体的・精神的な負担が蓄積しやすくなる点も見逃せません。
四六時中介護にあたる生活は想像以上にハードで、休息を取る時間も減りがちです。その結果、離職したことでむしろストレスや疲労が増大してしまうこともあります。

収入減と孤独感、心身の疲労が重なることで、介護離職が本人の生活の質を下げてしまうリスクは大きいのです。


介護離職の現状

ここでは、日本における介護離職の現状をデータから確認してみましょう。
年間の離職者数や離職後の状況について、いくつかの統計をご紹介します。


年間約10万人が介護離職している

現在、日本では毎年およそ10万人規模の人々が介護を理由に離職しているとされています。総務省「就業構造基本調査」によると、2022年には介護(看護)を理由に離職した人が10万6,000人にも上りました。
この数は2007年の約14万5,000人から2017年には約9万9,000人へと一時減少したものの、再び増加に転じた形です。

親の介護が必要になる中高年層、いわゆる団塊の世代が後期高齢者となる時期に差し掛かっており、介護離職者数は高止まりの傾向が続いています。*1

働き手世代の大量離職は労働力不足にも直結するため、社会全体に与える影響も深刻です。


介護離職後に「負担が増えた」と回答した人が約6割

介護離職後の生活についての調査結果からは、離職した人の多くが「介護の負担がむしろ増えた」と感じていることが明らかになっています。

厚生労働省の調査によれば、離職前と比べて精神面・身体面で負担が増した人がそれぞれ5割を超えており、経済面に至っては「負担が増した」と感じる人が合わせて約7割にも達しました。*4

仕事を辞めれば介護が楽になるわけではなく、むしろ介護にかかる時間的・精神的負担が一層重くなる傾向があるのです。

「仕事と介護の両立」による忙しさからは解放されても、収入減によって利用できる介護サービスを減らさざるを得なくなったり、介護者が一人で抱える責任がふえたりすることで、結果的に負担感が増加してしまうケースが多いと指摘されています。
こうした状況が続くと、介護者が心身ともに追い詰められ、「介護うつ」に陥ってしまうリスクも指摘されています。


介護離職後に再就職した人は約4割

介護離職者のその後を見ると、再就職の壁の高さも大きな課題です。
離職後に「再び働きたい」と希望して求職活動を行った人の中で、実際に再就職できた人は4割程度にとどまるというデータがあります。*4

つまり、希望者の半数以上は離職後1年以上にわたり定職に就けない状況に直面しているわけです。
特に離職時の年齢が高いほど再就職は厳しく、ようやく再就職できてもパートや契約社員などの非正規雇用となるケースがふえています。

厚生労働省の分析でも、介護離職者の再就職率の低さと再就職後の処遇悪化が指摘されており、離職が本人のキャリアと生活水準に与える影響は非常に大きいといえます。


2025年4月に育児・介護休業法が改正された

こうした状況を受け、仕事と介護の両立支援を強化するため、2025年4月1日から改正育児・介護休業法が段階的に施行されました。*5

この法改正は、介護に直面する労働者が離職することなく働き続けられる環境を整備することが目的です。
企業に対して、これまで以上に具体的な取り組みを求める内容になっています。

今回の改正の大きなポイントは、介護に直面する労働者への支援策が手厚くなった点です。主な変更点は以下の通りです。*5


両立支援制度の個別周知と意向確認の義務化

従業員から家族の介護に関する相談があった場合に、企業が利用できる両立支援制度(介護休業、介護休暇、時短勤務など)を個別に知らせ、利用意向を確認することが義務付けられます。
また、従業員が40歳に達した時点など、企業が定めた時期に制度に関する情報提供を行うことも求められます。
これは、介護問題が顕在化する前から従業員に知識を備えてもらい、いざという時にスムーズに制度を活用できるようにする狙いです。


介護のためのテレワーク導入を努力義務に

介護を理由とする従業員が希望した場合、企業はテレワーク(在宅勤務)制度の導入に努めなければなりません。
場所を選ばない柔軟な働き方を認めることで、通勤時間の削減や、緊急時の対応がしやすくなり、介護と仕事の両立を支えます。


介護休暇の取得事由の柔軟化

家族の通院付き添いや、ケアマネジャーとの面談なども、休暇の取得事由としてより柔軟に認められるようになります。
また、これまで対象外となる場合があった、いわゆる「中抜け」なしの1日の所定労働時間が短い労働者も介護休暇を取得できるようになりました。


雇用環境整備の義務化

企業は、従業員が気兼ねなく介護休業等を申し出・利用できるよう、以下のいずれかの措置を講じることが義務付けられます。


  • 研修の実施
  • 相談窓口の設置
  • 自社の両立支援制度や利用事例の周知

これにより、制度が形だけで終わらず、介護と仕事を両立しやすい職場環境の整備がこれまで以上に進むことが期待されています。


介護離職を決断する前に考えておきたいこと

介護離職のメリット・デメリットや現状のデータを踏まえると、安易に離職を選択することには大きなリスクが伴うことがわかります。

経済面でのダメージや再就職の難しさ、そして介護負担そのものが増す可能性を考えると、できる限り仕事を続けながら介護と向き合う道を模索することが重要です。
厚生労働省も「介護に直面しても仕事を続ける意識が重要」としており、誰にも相談せずに退職してしまうと却って経済的・精神的に追い込まれてしまうと指摘しています。

まずは会社の上司や人事担当者に現状を相談し、利用できる制度を確認しましょう。介護休業や介護休暇、短時間勤務(時短勤務)、所定外労働の免除など、法律で定められた支援制度があります。
2025年の法改正で企業側のサポート体制も強化されていますし、相談しやすい環境づくりも進められています。*6

地域包括支援センターなど自治体の介護相談窓口や、ケアマネジャーといった専門家に相談することも有効です。
介護サービスや公的支援を上手に活用すれば、仕事を続けながらでも介護負担を軽減できる可能性があります。

多くの人はやむを得ず退職していますが、裏を返せば適切な支援を受けていれば離職を防げたケースも少なくないでしょう。
よって、退職を決断する前に一度立ち止まり、「職場の総務部門」と「地域包括支援センター」に相談することをおすすめします。

仕事と介護を両立できる道を最後まで探ることで、将来の生活基盤と大切な家族の介護の両方を守ることにつながるはずです。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」
*2 朝日新聞「介護離職とは 問題点や解決に向けた支援策、介護離職者の実例を紹介」
*3 明治安田生活福祉研究所・ダイヤ高齢社会研究財団「仕事と介護の両立と介護離職」
*4 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「介護離職者の離職理由の詳細等の調査及び 勤労世代の介護離職防止に資する 介護保険制度の広報資料等の作成」
*5 厚生労働省「育児・介護休業法について」
*6 e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」

関連コラム
もっとみる >
scroll-back-btn