
春闘とは、毎年春に行われる労働組合と企業が賃上げや働き方を交渉する場です。
その結果は「ベア」といわれるベースアップ(基本給の底上げ)や初任給、非正規の時給相場などを通じて、家計の実感に波及します。
2025年は、連合(日本労働組合総連合会)の集計によると賃上げ率が5%前後の高水準と「賃上げのある経済」が現実味を帯びた年でした。*1
一方で物価高が続き、実質賃金(物価を考慮した賃金)はプラスに転じにくいという課題も残っています。*2
本記事では、2025年春闘の結果を振り返ったうえで、2026年の春闘と、家計を考えるうえで押さえておきたいポイントを整理していきましょう。
2025年春闘は、1990年代以来の高水準の賃上げが続いた年となりました。
賃上げが一部の企業にとどまらず、より多くの企業へと広がったことがうかがえます。
ただし、春闘で公表される賃上げ率は、交渉を行い企業から回答を得た組合の平均値です。
すべての働く人に同じ割合で賃上げが実施されたわけではない点には注意が必要です。
賃金の実態を正しく理解するためには、賃金動向や物価動向とあわせて確認することが重要です。
2025年春闘の賃上げ率は、全体として5%前後と、過去と比べてかなり高い水準となりました。
連合の集計(第7回(最終)回答)によると、平均賃金方式で回答を得た組合の加重平均(規模計)は16,356円(5.25%)に達しています。*1
今回の特徴は、定期昇給(賃金カーブ維持分)に加え、ベアに相当する「賃金改善」が多くの職場で実施された点です。
近年の春闘と比べて賃金改善分を明確に確保した組合の割合が高かったこともポイントです。
一方、300人未満の中小組合では、賃上げ率は4.65%となり、全体平均との間に差がみられました。
「5%の賃上げ」という見出しだけを見ると、一律大幅な賃上げが行われたように見えますが、企業規模によって体感は異なるのが現実です。
2025年に賃上げが進んだ背景には、主に以下の3つの要因が重なりました。
これら「物価・人手不足・政策」の三方向から、賃上げが起こりやすい土壌が整ったといえます。
賃上げ率が高くても、物価上昇を上回らなければ生活が楽になるとは限りません。
重要な論点の一つは「実質賃金」の伸び悩みです。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査(2025年速報)」では、名目賃金指数が前年比2.3%増だった一方、実質賃金指数は前年比1.3%減と、4年連続のマイナスを記録しました。
春闘の賃上げ率と名目賃金の上昇率には乖離があり、この点は、賃上げの広がり方を考えるうえで確認しておく必要があります。*2
実質賃金が改善するためには、名目賃金の上昇が物価上昇率を安定的に上回る状況が続くことが必要です。
また、中小企業への波及も課題です。
連合の集計によると中小の賃上げ率は全体平均を下回っています。*1
政府は価格転嫁の支援策を進めていますが、サプライチェーン全体で価格転嫁が進み、各企業で賃上げ原資を確保できるかどうかが今後の焦点になります。
2026年春闘は、2025年の勢いを「一過性」で終わらせるのか、それとも「賃上げが続く経済」として定着させるのかが問われる重要な局面です。
連合は2026年春闘において、賃上げによって「日本の実質賃金を1%上昇軌道に乗せること」を掲げ、これからの社会の賃上げノルム(規範)として定着させることを目指しています。*6
一方で、国内外の景気や企業収益には不確実性もあり、2025年と同じ水準が当然に続くとは断言できません。
現時点(2026年3月)では、主要企業の集中回答日を控えた段階にあります。
連合は全体の賃上げ目安を「賃上げ分3%以上、定期昇給相当分を含め5%以上」としました。
さらに、中小企業については格差是正などの観点から、賃金実態の把握が難しい場合などの基準として「18,000円以上・6%以上」という目標を掲げています。*6
民間予測(ESPフォーキャスト調査)でも、2026年の春季賃上げ率は5.08%と予測されており、要求・予測の段階では「5%前後」がもはや基準になりつつあります。*7
ただし、企業側が実際に応じられるかは、収益動向に左右されます。
日本銀行は2026年1月の展望レポートで、経済は緩やかに成長するとの見通しを示す一方、各国の通商政策によるリスクにも触れています。*8
企業収益が鈍化すれば賃上げの勢いは弱まるため、決して予断を許さない状況といえるでしょう。
2026年春闘において注目すべき焦点は、大きく分けて以下の3点です。
賃上げが生活にどれだけ反映されるかは、手取りの増加が物価の上昇を上回るかどうかで左右されます。
2025年は、消費者物価指数が前年比3.2%上昇した影響が大きく、実質賃金はマイナスに沈みました。
たとえ賃上げがあっても、食料や光熱費の値上がりが上回っているうちは、生活が楽になる実感は得られません。
一方、2026年に入り物価の伸びが落ち着いてくれば、同程度の賃上げでも 家計の負担軽減を実感しやすくなるでしょう。
家計の視点でチェックすべきポイントは以下のとおりです。
春闘では大きな賃上げ率が注目されますが、家計にどのような影響が出ているかを意識しましょう。
春闘は正社員の賃上げにとどまらず、地域全体の時給相場や採用市場にも大きな波及効果を及ぼします。
ここでは、特に生活者が影響を感じやすい2つの論点を取り上げます。
最低賃金は毎年、審議会の目安を踏まえて都道府県ごとに改定されますが、春闘の結果は「賃上げの相場観」としてその議論を後押しします。
2025年度における地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円となりました。
これは前年の1,055円から6.3%の大幅な引き上げです。*9
連合は非正規雇用についても、地域別最低賃金の引き上げ率を上回る「7%」を目安に賃上げへ取り組む方針を示しています。*6
アルバイトやパートで働く人にとっても、春闘の動向は無関係ではありません。
賃上げが継続すると、待遇を改善できる企業とそうでない企業の間で「人材確保の格差」が広がりやすくなります。
労働力調査によれば、2025年平均の就業者数は6,828万人と5年連続で増加し、労働需給は引き締まった状態にあります。
非正規雇用の割合はわずかに低下しましたが、依然として2,000万人以上が非正規で働いており、時給の動きは家計の実感に直結しやすい状況です。*10
また、デジタル化の進展により、職種によって求められるスキルが変化していることも指摘されています。*11
こうしたスキルを持つ人材は企業間での獲得競争が起こりやすく、賃金水準が市場で決まりやすくなっています。
今や賃上げは「会社からの評価」だけで決まるものではなく、外部の労働市場における需要と供給の影響も受けるのです。
2025年春闘では5%前後の賃上げが実現し、2026年も同様の水準が予測されています。 *6
ただし、家計にとって重要なのは見出しの数字ではありません。
以下の3つの視点を持って行動しましょう。
賃上げは、物価上昇を上回るかどうかによって家計への影響が異なります。
その動きを見極めることが、将来の選択肢を広げるうえで重要です。
春闘のニュースを自分の収支と照らし合わせ、ぜひ家計の点検につなげてみてください。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
本コラムの内容は、特定の金融商品やサービスを推奨あるいは勧誘を目的とするものではありません。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 日本労働組合総連合会(連合)「昨年を上回る賃上げ!~2025 春季生活闘争 第 7 回(最終)回答集計結果について~」
*2 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果速報 を公表します」
*3 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数」
*4 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年12月分及び令和7年分)について」
*5 内閣官房「政労使の意見交換(議事次第・資料)」
*6 日本労働組合総連合会(連合)「2026春季生活闘争(方針・資料)」
*7 公益社団法人 日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査 25年10~12月期GDP、年率1.48%へ上方修正―4割超が日銀の「26年7月」利上げを予想」
*8 日本銀行「経済・物価情勢の展望(2026年1月、基本的見解)」
*9 厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧」
*10 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2025年(令和7年)平均結果の要約」
*11 経済産業省「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」
