ニュースから聞こえてくる昨今の物価上昇ですが、買い物などの際、実感する人も多いのではないでしょうか。
本記事では、消費者物価指数や実質賃金の指標から、インフレの原因と対策について解説します。
そして2024年の3月19日に日銀が金融政策決定会合で発表した、マイナス金利解除による生活への影響についてもみていきましょう。
消費者物価指数とは、消費者が購入するモノやサービスの価格変動を表す指標です。総務省が毎月発表しており、物価の変動を時系列的に測定できます。算出された指数は、経済施策や年金の改定に活用され、私たちの生活にとって身近な指数でもあります。
指数は、家計の消費において一定の支出を占める項目の費用が、物価の変動を受けてどのように変化しているのかを表現しています。
指数には、全てのモノ・サービスを含めた「総合指数」や、価格変動の大きい生鮮食品を除外した「生鮮食品を除く総合指数(コアCPI)」などがあります。基準となる年は5年ごとに更新されており、現在は2020年を100とした指標で表されています。*1*2
総務省統計局によると、2020年の総合指数を100とした、2024年1月の総合指数は106.9です。2023年1月に比べても2.2%上昇しています。
前年と比べてどのようなモノ・サービスで上昇がみられるのでしょうか。
食料の費目においては、調理食品、菓子類、外食、乳卵類、穀類、生鮮野菜、生鮮果物が総合指数の前年同月比に寄与したものとして挙げられています。
具体的な品目では、調理カレーやアイスクリーム、フライドチキンや鶏卵が、前年同月比の大きいものとして例示されています。
食料以外にも、火災・地震保険料等の住居関連、台所用洗剤等の家事用消耗品、ガソリン、宿泊料、ペットフードといったモノ・サービスが総合指数の上昇に影響しています。*3
2023年は「持ち家の帰属家賃を除く総合指数」の上昇率が3.8%となり、42年ぶりの高水準になっています。日常生活で感じる物価上昇は、統計からも確認することができます。*4
なぜ物価は上がっているのでしょうか。背景は多岐にわたりますが、日本が食料やエネルギーを輸入に頼っている国であることも、大きな要因の一つです。
日本の2021年の食料自給率はカロリーベースで約38%であり、食料の多くを輸入に頼っているのが現状です。エネルギーも同様で2019年のエネルギー自給率は12.1%にとどまります。
輸入への依存が大きいため、国際情勢による物価変動の影響を受けやすくなっています。近年は円安が進んでおり、日本が購入する輸入品の価格は必然的に上昇しています。*5
物価上昇を受けた賃上げのニュースも耳にします。しかし、2023年の毎月勤労統計調査によると、物価上昇を考慮した実質賃金は前年に比べて2.5%低下しました。2022年も前年比でマイナス1%下落しており、2年連続の減少となっています。
2020年の実質賃金を100とした場合、2023年の実質賃金は97.1と比較可能な1990年以降で最も低い状態です。消費者物価指数が大きく上昇した結果、相対的に実質賃金が下がっているのです。
賃上げそのものは確実に行われており、2023年の現金給与総額は、1人当たり平均1.2%増加しています。現金給与総額の増加は、正社員等の一般労働者で436,849円、パートタイム労働者で104,570円と過去最高でした。*4
また、2024年3月22日に連合より公表された「2024年春闘」第二回回答において、賃上げ率が5.25%と33年ぶりに5%を超える前向きなニュースも報じられました。
賃金は上昇しているけれども、それ以上に物価の上昇が続いており、賃上げが物価上昇に追いついていない状況です。消費者がモノやサービスを買う力は、年々低下しているともいえるでしょう。
物価上昇によって起きる問題は、お金の価値の相対的な低下です。実質賃金が下がっているということは、物価と比較したときにお金の価値も下がっているという意味です。
例を挙げて考えてみましょう。今、1,000万円の預貯金があったとします。この預貯金は10年後、20年後いくらになるでしょうか。
仮に物価が毎年2%上昇していったとすると、10年後には820万円、20年後には672万円に価値が目減りしていきます。
もし物価上昇率を3%とすると、10年後には744万円、20年後には553万円と、預貯金の価値はほぼ半分になってしまいます。
近年の物価上昇を踏まえると、2~3%の物価上昇は決して非現実的な想定とはいえません。*6
楽観視できない物価上昇が続く中、今できるインフレ対策は何でしょうか。支出を減らす対策もありますが、ここでは資産運用について考えてみましょう。
預貯金ではなく金融商品を購入して資産運用を続けると、物価上昇に対してどういう効果が得られるのでしょうか。先ほどの1,000万円の例で考えてみます。
1,000万円を平均利回り年3%で運用した場合、10年後には約1,343万、20年後には約1,806万に資産は成長します。
物価上昇率3%が続き、預貯金1,000万円が553万円の価値になる場合と比べてみると、資産運用の効果がよくわかります。平均利回りが年1%であっても、10年後には1,104万円、20年後には1,220万円と着実に資産が増えていきます。
お金の価値が目減りしていても、資産運用によって金額そのものも増えているため、物価上昇に資産が追いついているのです。*7
しかし資産運用には預金と異なり確実性はないため、リスクについて考慮が必要です。
資産運用を始めるときに活用したいのが2024年から始まった新しいNISA制度です。通常、資産運用によって得られた利益(配当金・分配金・売却益)には、20.315%の税金がかかります。しかし、元本1,800万円までは、得られた利益について非課税となるのがNISA制度の大きなメリットです。
2023年までの制度に比べ、投資枠は1,800万円と大幅に拡大され、非課税となる商品の保有期間は無期限となり、制度自体も恒久化されました。物価上昇への対策として、これから資産運用を始めようと思う人にとって、非課税のメリットを享受しながら資産運用できる環境が整っています。*8
2024年の3月19日に日銀が発表したマイナス金利解除により、約17年ぶりに利上げとなりました。
私たちの生活にメリットとなるのは、銀行の預金金利の引き上げです。マイナス金利解除を受けて、三菱UFJ銀行は、円普通預金金利を年0.02%に変更することを発表しました。変更前の年0.001%に比べ、20倍という大きな変化です。*9
一方で、住宅ローンの金利上昇、企業の借入金利上昇による経営悪化、景気の落ち着きによる株価への影響、アメリカとの金利差縮小による円高ドル安の可能性も予想されます。
インフレ対策と同時に、これらの社会の変化にアンテナを張る必要性があります。特に住宅ローン金利は家計に直結するものです。現在借り入れをしている人も、これから借入を行う人も、金融機関の住宅ローン金利の動向に十分注意しておきましょう。*10
現在の物価上昇とマイナス金利の影響、お金の価値が相対的に低下するリスクについて解説をしました。消費者のモノやサービスを買うための賃金が相対的に低下する中で、預貯金まで目減りしてしまうのがインフレの問題です。
この機会を捉え、10年後、20年後にその効果が実感できるよう、インフレ対策として資産運用を始めてみてはいかがでしょうか。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1三菱UFJモルガン・スタンレー証券「解説!知っておきたい経済指標」
*2総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」
*3総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国2024年(令和6年)1月分」
*4日本経済新聞「23年の実質賃金2.5%減、2年連続減 90年以降で最低水準」
*5Money Canvas「値上げラッシュの謎を解き明かす!原因とメカニズムを知ろう」
*6三菱UFJ銀行「どうして資産形成が必要なの?」
*7三菱UFJ銀行「1,000万円を資産運用するならどの商品がおすすめ?」
*8金融庁「NISA早わかりガイドブック」
*9三菱UFJ銀行「円普通預金金利および円定期預金金利の改定について」
*10NHK「【詳しく】日銀 マイナス金利政策を解除 異例の金融政策を転換」