近年、自宅で仕事をするテレワークの普及拡大を背景に、通勤時の満員電車から解放される、豊かな自然に囲まれた暮らしを実現できるなどの魅力から、地方移住を検討する人が増加しています。そこで今回は、地方移住までの流れや必要な費用、関連する移住支援金制度を紹介します。
2021年度の全国自治体窓口で受け付けた移住相談件数は32万件余りと、過去最多を更新しました。*1
最も件数が多かったのは長野県の17,442件、次いで兵庫県、福島県、北海道の順です。
地方移住への関心の高まりを受け、国は相談窓口の拡充や移住先での生活支援策などにより、地方移住を後押しするとしています。
地方移住には、都会暮らしにはない魅力がたくさんあります。人によって何を魅力と思うかは様々ですが、例えば海や山といった豊かな自然に囲まれた暮らしを送れることは魅力の一つでしょう(図1)。*2
図1 地方移住の魅力
(出所「『地方移住』ってなに?」内閣府)
また、地方ならではの食材を楽しんだり、アウトドアのような趣味を中心としたライフスタイルを送れたり、子育て世帯にとっては、豊かな自然の中で、のびのびと子育てができるのも魅力でしょう。
地方移住には、そのパターンとして、UターンやIターン、Jターンがあります。*2
Uターンとは地方から別の地域へ移り住み、その後元の地方に戻ること、Iターンとは生まれ育った主に大都市などの地域から、別の地方へ移り住むこと、最後に、Jターンとは地方から大都市などの地域に移り住み、その後生まれ育った地元近くの地方大都市圏や、中規模な地方都市へ戻り住むことを言います。
地方移住の検討はどのように進めていけばよいのでしょうか。ここからは、そのステップと重要なポイントを解説します。
1.移住の目的を明確にしましょう。
「都会の生活に疲れたから」といった理由もあると思いますが、例えば「自然の中で暮らしたい」、「農業を始めたいなど」、前向きで明確な目的があると、移住先選びが具体的になります。*3
2.家族やパートナーと話し合いましょう。
地方移住への考えは、家族間でも異なります。地方移住の考えや目的を、家族やパートナーと共有し、お互いに理解を深めることで、無理なく前向きに検討が進むでしょう。
3.移住先の地域との関わり方を考えましょう。
移住すると移住先の地域社会の一員となります。地域社会とのかかわり、コミュニケーションは移住後の満足度を大きく左右します。深く関わっていくのか、少し距離を置く別荘移住にするのかなど、家族やパートナーと話し合っておきましょう。
4.移住条件のリストアップ・情報収集
移住目的、家族・パートナーの考え、地域の関わり方などを踏まえ、移住条件をリストアップし情報収集しましょう。
情報収集はインターネットだけでなく、自治体の移住相談窓口、総務省の「移住・交流情報ガーデン」、NPO法人「ふるさと回帰支援センター」などの窓口で行えます。
5.移住先の決定・住まい/仕事探し
リストアップ先から移住先地域を決めたら、次は住まい探しです。移住先で働きたい場合は仕事探しにも取り組みましょう。
住まい探しは地元の不動産業者や、自治体などが提供する「空き家バンク」制度を使って行います。
仕事探しは、自治体によるU・I・Jターン転職の相談窓口や、人材バンクシステム、ハローワークなどの制度を利用すると良いでしょう。
地方移住には、どのような費用が必要となるのでしょうか。*3
移住の際の代表的な費用例としては、引越し代のほか、住居費用、引越しまでの下見費用、家具家電の調達費用などが挙げられます。
さらに公共交通機関が充実していない地域へ移住する場合は、移動手段が車中心となるため、自動車購入費なども考慮しましょう。(図2)。*4
図2 地方移住にかかる費用例
(出所「地方移住と『お金』のはなし」内閣府)
上記以外にも、場合によって必要となる費用があります。
例えば今よりも寒い地域に移住する場合は、暖房器具などを買い足す必要があります。
運転免許を持っていない人が、車が必要な地域へ移住する場合には、自動車教習所に通う費用も必要になるでしょう。
さらに、これまでの持ち家を処分する場合、持ち家の売却額よりも住宅ローン残高や売却諸費用が大きい場合、差額分の費用負担が発生します(図3)。*4
図3 場合によってはかかる費用例
(出所「地方移住と『お金』のはなし」内閣府)
大都市と地方では家賃相場が異なるため、地方で暮らす場合は住居費を安く抑えやすいメリットがあります。
一方で、地域ごとにライフスタイルが異なるため、大都市で生活するよりも支出がかさんでしまう品目もあります。
例えば光熱費。特に寒冷地に移住した場合は暖房器具の使用頻度が上がるため、大都市よりも光熱費が高くなる傾向にあります。総務省が実施する家計調査(2020年から2022年平均)によると、二人以上の世帯における年間電気代は富山市が最も多く、次いで福井市、金沢市という結果に。灯油の年間支出金額は青森市、札幌市、盛岡市が上位となっています。
地域によっては都市ガスよりも割高なプロパンガスを使用しているため、ガス代が高くついてしまうなんてことも。
また、車が必要な地域に移住した場合は、ガソリン代、自賠責保険、車検代などの車の維持費用が発生してきます。
このように移住後の方が高い支出額となる品目もあるため、事前のリサーチが重要になってきます。
ここまで紹介してきたように、地方移住にはさまざまな費用がかかります。地方移住を検討したいけれど、貯蓄だけでは不安という方もいるかもしれません。
そこで内閣府は、一定の要件を満たせば移住者が受給できる「地方創生移住支援事業(移住支援金)」という制度を提供しています。*7
地方創生移住支援事業とは、東京23区に在住または通勤する方が、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)外へ移住して起業や就業などを行う場合、都道府県・市町村が共同で交付金を支給する事業のことです。*7
単身で移住する場合には最大60万円が、世帯の場合は最大100万円(帯同する18歳未満の子ども1人つき最大100万円加算)が支給されます。 (図4)。*7
図4 地方創生移住支援事業の概要
(出所「移住支援金」内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局、内閣府地方創生推進事務局)
移住支援金を受給するには、以下を満たす必要があります。*7
全国の自治体すべてが地域創生移住支援事業を実施しているわけではありません。
移住支援金を受け取るためにはさまざまな要件があるため、移住支援金の受給を検討する際には、事前に各要件を満たしているかどうかの確認が重要です。
費用の削減には育休制度などの公的支援も活用しましょう。
地方移住先では、ライフスタイルの変化に戸惑ったり、思っていたよりも費用が膨らんでしまったりなど、想定外の出来事が発生する可能性があります。
地方移住に向けては、まず移住の目的を明確にすること、移住先の情報や必要になる費用や活用できる制度を調べること、その上で自分なりの移住のメリット・デメリットをしっかり考えて、移住先での「こんなはずではなかった」が起こらないようにすることが、成功の秘訣となるでしょう。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1NHK「移住相談 32万件余りで過去最多 コロナ禍で地方移住に関心か」
*2内閣府「『地方移住』ってなに?」
*3内閣府「地方移住へのステップ」
*4内閣府「地方移住と『お金』のはなし」
*5全国賃貸管理ビジネス協会「全国平均家賃による間取り別賃料の推移」
*6総務省統計局「家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング 食料以外」
*7内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局、内閣府地方創生推進事務局「移住支援金」