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就職氷河期世代における、世代内格差はどの程度あるのか
就職氷河期世代における、世代内格差はどの程度あるのか

就職氷河期世代における、世代内格差はどの程度あるのか

2023/07/03に公開
提供元:安達裕哉

いわゆる就職氷河期世代の貧困問題の解決は先送りされたままとされています。*1

しかし、その解決は一筋縄ではいきません。というのも、就職氷河期世代は必ずしも全員が苦しんでいるわけではなく、同世代の一部はバブル世代と同様の成功を収めているからです。

実際、早稲田大学人間科学学術院教授の橋本健二は、著書「アンダークラス」で、就職氷河期世代における、世代内の格差について述べました。*2

あまり語られることがない、就職氷河期世代の「世代内格差」の実態はどうなっているのでしょう。

前提:就職氷河期世代とは

「就職氷河期」という言葉は、1994年ごろ、リクルート社によって作られた言葉です。*3 文字通り就職市場が凍り付いてしまったかのように、動きを止めた時期のことですが、この現象はバブル経済の崩壊に伴い、企業が新卒採用を抑制したことに起因します。

なお、厚生労働省は定義として「1990〜2000年代の雇用環境の厳しい時期に卒業・就職活動を行った世代」を、就職氷河期世代としています。*4


就職氷河期世代の新卒就職率

出典:内閣府「人口減少時代における働き方を巡る課題(第2節)」


この世代は、中小企業への就職、および非正規労働者として社会に出た人の比率が大きいという特徴があります。
そのため、一般的に就職氷河期世代は、収入の面で、前の世代に比べて恵まれていません。

統計:就職氷河期世代はどれほど恵まれていないか

例えば、正社員の賃金水準を見ると、氷河期世代の年収はバブル世代が同じ年齢だったときと比べ、40〜80万円少ないことがわかっています。*1

そのため、就職氷河期世代は上の世代に比べると、実質消費支出額が5%〜12%程度少なく、個人消費が弱いという特徴を持っており、また、貯蓄志向が強いのです。

この経済的な基盤の弱さから、「未婚」あるいは「夫婦のみ世帯」の割合が、かつての同じ年齢階級と比べて水準が高くなっています。
男性においては年収が低いほど未婚率が高い傾向にあり、また結婚していても、所得環境の面から子供を持つことが難しいと判断する人もいるのでしょう。*5

ただし現在では、政府の推し進める各種政策の効果もあり、パート主婦を除けば、就職氷河期世代のフリーター数は減少し、正社員に転換できる人はすでにあらかた転換しています。

ただ一方で、好景気のさなかにあっても、非休職無業者(いわゆるニート)はむしろ増えており、その半分は病気やけがのため、働けない状態とされています。
そのため将来、「生活保護」を受給する可能性のある潜在的な受給者数が、現在の1.4倍程度まで増える可能性があるのです。*1


世代内格差:ただし、世代の問題は「ひとくくり」にするには複雑すぎる

このような統計から、就職氷河期世代は「不遇な世代」、ロストジェネレーションとされてきました。統計上も、それははっきりとわかります。

しかし現実には、就職氷河期世代であっても、実は内情は一様ではなく「ひとくくり」にはできません。というのも、バブル世代と同様のライフコースを歩むことができている人もまた、数多くいるからです。
むしろ、就職氷河期世代で成功した人生を送った人物は、運命に打ち克ったという意識を強く持つことにつながり、過度に新自由主義的な自己責任論を唱えることは珍しくありません。
そのため、就職活動で苦労したことは、就職氷河期世代全体の、世代的連帯を形作るような共通の経験ではなく、むしろその経験自体が、成功者と失敗者の間に分断をもたらしています。*6

事実、政府の統計によれば「アンダークラス」と呼ばれる非正規雇用者階級が、就職氷河期世代は男性の14%、女性の12%存在しています。
そして35歳以降、一部の例外を除いて、就職氷河期世代内部の経済格差は他の世代よりも大きくなっています。

早大の橋本健二はこうした状況から「この世代は内部の格差が大きい、格差世代である」と述べ、「氷河期世代が年をとるごとに、日本には内部の格差が極めて大きい中高年齢層が形成されることになる」と予測しています。

事実、国勢調査では、アンダークラスは、他の階級に比べ

  • 仕事への不満が大きく、勤務日や勤務時間の自由が制限され、無力感を感じている
  • 生活への満足度が低く、自分を不幸だと考えている

という傾向が大きいですが、ここで特筆すべきは「自分を不幸だと考えている」アンダークラスとそれ以外の階級の差が、就職氷河期世代で最高だという点です。*2

つまり、就職氷河期世代は、経済状況などの環境に差がついた結果、「幸福度」という点においても、他の世代よりも格差が大きいのです。


就職氷河期の思い出

実は著者自身も2001年卒であり、就職氷河期真っ只中の就職活動を経験しました。

院卒のわたしよりも一足先に就職活動を経験していた、同級生の大卒の友人たちから聞く話はひどいものでした。
数十社エントリーをしても内定が得られず、大企業・人気企業への就職をあきらめ中小企業への就職をするのが普通でした。

いえ、無事に正社員として就職ができればまだよいほうでした。友人の中には非正規雇用でイベント会社で働いたり、小さなデザイン事務所で見習いとして働いたり、あるいは翌年の活動にかけて、あえて留年を選択した人も大勢いました。

私自身は偶然、学部の時代にプログラミングを多少やっていたおかげで、当時システム領域で人を欲していたコンサルティング会社にたまたま拾ってもらいましたが、今思い返せば、それは単なる幸運でした。
一つボタンを掛け違えれば、まともに就職ができなかったかもしれません。
ですので、今回、改めて統計を確認して思ったのは、人生の早いうちの、ほんのわずかな期間に狂いが生じただけで、人生にこれほど大きなインパクトがあるのは、ほんとうに不合理だということです。

知人友人を見ていて思うのは、彼らはその世代より前の大学生、あるいはその後の世代の大学生と比べて、なんら遜色はありません。

ただ、生まれた時代が悪かった。
そんなことで、「自分は不幸だ」と何十年にもわたって思わざるを得ない状況は、確かに「自己責任」で片づけるわけにはいきません。


解決が難しい、就職氷河期世代の救済

ただしこれは、世代全体の総意ではありません。
中には「努力が足りないのだ」「職は選ばなければたくさんある」と言う方も数多くいます。

さらに、橋本氏が著書の中で指摘するように、就職氷河期世代は「こうなったのは自分の責任である」と自己責任論を肯定し、格差拡大を容認する傾向が強いのです。*2

実際、アンケート調査では「競争の自由を守るよりも、格差をなくしていくことの方が大切だ」という設問に対して、「そう思う/どちらかといえばそう思う」の合計は42%、「どちらかといえばそう思わない/そう思わない」の合計はわずか19.4%と出ています。

アンダークラスになることを免れた就職氷河期世代はネオリベ思想が強く、自分たちとアンダークラスの格差がこのままであってほしいと望む傾向にあるのです。

このような格差の問題を解決するのは政治の役割ですが、残念ながら、世代全体での連帯感が得にくいということです。
また就職氷河期世代のアンダークラスは、無党派層が7割と支持政党がなく、ポスト戦後世代と比べて政治への関心が低いという調査結果が出ています。

最終的には「生活保護で何とかする」ということになる可能性は高いですが、「カネさえ渡せばいいだろう」というのは解決策にはなりません。
人はパンのみにて生きるものにあらず。公私において何かしらの精神的な支柱が必要です。

就職氷河期世代への支援はようやく始まったばかりであり、彼らに対する支援を目的とした事業を営む企業も出てきていますが、私たちが世代として連帯し、政治に対して働きかけを行う何らかの中心的な思想が必要とされているかもしれません。


本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。


出典
*1 週刊東洋経済 eビジネス新書 「No.341就職氷河期を救え」
*2 毎日新聞出版 「アンダークラス 橋本健二」 
*3 就職氷河期世代の行く先 下田裕介 日経BP社
*4 厚生労働省「就職氷河期世代の方々への支援のご案内」
*5 日経プレミアシリーズ「就職氷河期世代の行く先 下田裕介」
*6 青土社「現代思想2022年12月号 特集 就職氷河期世代/ロスジェネの現在」


安達 裕哉
あだち ゆうや

1975年生まれ。デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社後、品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。
大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。


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