
原材料や人件費、光熱費の高騰が続く中、外食産業では相次ぐ値上げが進行しています。
ハンバーガーや牛丼、ラーメン、ファミリーレストランなど身近な業態でも価格改定が続き、気軽な外食がしづらい時代になりました。
このように 消費者の外食離れが懸念される中、テイクアウトなど中食の需要がふえています。
本記事では、総務省の家計調査のデータをもとに、外食費・中食費の変化や業種別の動向について解説します。
農林水産省の資料によれば、家計における令和6(2024)年の食料支出は前年同月比で見ると、 外食への支出が増加している傾向が見られます(図1)。
この背景には、新型コロナウイルス感染症による落ち込みからの回復に加え、食材価格の高騰などによって客単価が上昇したことが影響していると考えられます。
図1)出典)農林水産省「第4節 食料消費の動向と食・農のつながり」
ただ、外食費が値上がりした原因は食材費の高騰だけではありません。人件費の上昇やエネルギー・物流コストの増加も挙げられます。
はじめに、外食値上げの主な要因について解説します。
2025年時点において世界中で食料価格が高騰しており、小麦をはじめとした穀物価格も上昇しています。下図2は、外食産業に欠かせない食材の一つである小麦価格の推移です。
1992年頃は1トンあたり100ドルで推移していましたが、2023年頃は1トン524ドルの高値を付けました。(下図2参照)
図2)出典)JICA「食料価格高騰の3要因とは? 日本とアフリカにみる「栄養危機」【世界をもっとよく知りたい!・1】」
ロシアによるウクライナ侵攻も理由の一つですが、世界的な人口増加や気候変動なども高騰の要因として考えられます。*1
小麦粉以外にも、食用油や牛肉、豚肉、卵など外食産業に欠かせない食材の仕入れコストも上昇が止まりません。*2*3
ラーメンやハンバーガー、パンを使ったメニューでは特に影響が大きく、材料費の上昇は企業の採算を圧迫しています。
最低賃金の引き上げも直撃している状況です。
厚生労働省が調査した「令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」によれば、令和6年中(9〜12月の予定を含む)における賃金改定の状況を見ると、「1人あたりの賃金を引き上げた、または引き上げる予定」と回答した飲食サービス業(宿泊業も含む)は82.2%に達しています。*4
したがって、 業界全体で人件費が上昇している状況であるといえます。
人件費も外食業でメインとなるコストであるため、賃上げはメニュー価格への転嫁要因の一つです。原材料費の高騰と並び、外食値上げの主要因の一つと考えられます。
日本商工会議所・東京商工会議所の資料によると、エネルギー価格の上昇により企業の約9割(88.1%)が何らかの経営への影響を受けているとされています。
そのうち「影響が深刻で、今後の事業継続に不安を感じている」と答えた企業も約1割(9.2%)にのぼる状況です。*5
外食産業は、店舗を維持し厨房を稼働させながら店内サービスを行うため、電気・ガス・水道などの光熱費および設備稼働コスト(空調・厨房機器・照明など)を相当量必要とします。
そのため、 電気代やガス代、店舗照明・空調費など、エネルギーコストの増加が、企業経営に重くのしかかっています。
ここでは、総務省の家計調査から見る 「外食費」と「中食費(調理食品)」の動向について見ていきましょう。
総務省が実施している家計調査によれば、2020年〜2024年における一般家庭の外食費の推移は下図3のとおりです。
図3)出典)政府統計の総合窓口「家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 詳細結果表 年次 2024年 | ファイル | 統計データを探す 」各年度 第4-1表
外食費は年々、増加傾向にあり、2024年度の外食費は約18.8万円となりました。
ただし 支出が増えた主な原因は、外食回数の増加ではなく、原材料や人件費、光熱費などの高騰による外食単価の上昇とも考えられます。
外食市場はコロナ禍から立ち直りつつある状況ですが、値上げの影響で家計の負担が重くなっているのも事実です。価格上昇による支出増であり、実質的な利用頻度は減少している可能性もあります。
下図4も、総務省が実施している家計調査による、2020年〜2024年における一般家庭の中食費(調理食品)の推移表です。
図4)出典)政府統計の総合窓口「家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 詳細結果表 年次 2024年 | ファイル | 統計データを探す 」各年度 第4-1表
総務省の家計調査によると、 2020年から2024年にかけて一般家庭の中食費(調理食品への支出)は一貫して増加しています。
2020年度の約13.2万円から2024年度には約15.6万円へと約2.4万円上昇しており、コロナ禍による外出自粛が緩和された後も中食需要が定着している状況です。
背景には、共働き世帯や高齢世帯の増加による食事作りの時短志向や手間の削減、調理コストの上昇による「手軽で簡単に食べられる経済的な食事」へのニーズ拡大が考えられます。
また、調理食品費が上昇した要因の一つには、外食費と同様に食品値上げの影響による可能性も捨て切れません。
ただ多くの場合、外食を多く重ねるよりも、スーパーで惣菜を購入して食べたほうが食費を節約できます。中食は家庭の食生活において外食と並ぶ主要な選択肢として定着しつつあるといえるでしょう。
原材料・人件費・光熱費のトリプル高に直面し、外食産業の値上げは止まりません。
特に客単価が安価なファーストフード、ファミリーレストラン、ラーメン店で価格改定が頻発しています。ここでは業種別に値上げによる客足への影響などについて解説します。
2025年には、牛丼・ハンバーガーなどファストフードの値上げが相次いでいます。
3月にはすき家が一部商品の価格を上げ、牛丼 並盛が450(税込)円から480(税込) 円と30円高くなりました。*6
マクドナルドも同年3月に一部商品を10〜30円値上げしています。*7
すき家は、国産米や牛肉の高値が長期化していることなどを値上げの理由としており、マクドナルドは、昨今のエネルギーコストや物流費、人件費の上昇が原因であると公表しています。*8
複数のコスト増(食材・人件費・物流・エネルギーなど)が重なったことで、値上げという対応を行っていると考えられます。
ただ、マクドナルドは2024年1月にも値上げしていますが、2024年1〜6月期の連結純利益では最高益を更新し客足は衰えていません。*9
客数も増やしており、好調な業績を維持しています。
ファミリーレストランでも値上げが目立ちます。
ガストでは2024年11月に約6割のメニューを値上げしましたが、2025年4月にも鉄板目玉ハンバーグ、豚チゲなど卵を使用した商品の価格を上げています。*10*11
デニーズも2023年3月に料理やデザート71商品について価格の見直しを行いました。ハンバーグ類は10~60円、その他の肉類は50~150円、パスタ類は10~50円程度価格を引き上げています。*12
ファミリーレストラン業界でもエネルギーコストや物流費などの上昇、原材料価格の高騰などにより、値上げせざるを得ない状況が続いています。
ガストを運営しているすかいらーくホールディングスでは、値上げをしたにもかかわらず2024年の客数は前年比+ 6.9%増加と経営状況は好調です。*13
ラーメン業界も値上げに動いています。
ラーメンの大手チェーン店である日高屋も2024年12月から日高屋全店舗において商品の値上げを実施しました。
食品ロスの削減や各種コストの最適化など店舗運営の効率化に努めてきましたが、⾧期化する原材料価格やエネルギー価格の上昇、物価高騰の影響が大きいため、企業努力だけでは補えないというのが値上げの理由です。改定幅は全体で3.9%程度となります。*14
ラーメン業界も食材(スープ材料:豚骨・小麦・油)の高騰が直撃し、光熱や人件費の上昇も影響し、価格を据え置くこと自体が難しい状況です。
しかし、日高屋では第47期(2025年2月決算)の事業報告書で、売上高・来店客数ともに過去最高を記録し、物価高にも負けない経営を実践しています。*15
外食値上げの波は今後もしばらく続く可能性があります。
総務省の家計調査データでも外食費の支出額は増加しており、家計の負担も重くなっている状況です。
物価高騰などさまざまな理由により、企業もやむを得ず値上げをしていますが、 これから消費者は品質・サービスを見極めて外食を利用する時代といえます。
中食も上手く活用して、日々の食事を賢く選ぶ行動が求められています。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 独立行政法人 国際協力機構「食料価格高騰の3要因とは? 日本とアフリカにみる「栄養危機」【世界をもっとよく知りたい!・1】」
*2 農林水産省「第34号特別分析トピック︓我が国と世界の油脂をめぐる動向」
*3 農林水産省「大臣官房政策課食料安全保障室「食品価格動向調査(食肉・鶏卵)」による全国平均小売価格」
*4 厚生労働省「令和6年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」P4
*5 東京商工会議所「中小企業の省エネ・脱炭素に関する実態調査」
*6 すき家「一部商品価格改定のお知らせ」
*7 マクドナルド「価格改定 対象商品例(店頭価格)」
*8 マクドナルド「価格改定のお知らせ」
*9 日本経済新聞「マクドナルド最高益 値上げでも客数増、迫る息切れの影」
*10 日本経済新聞「「ガスト」、6割のメニューを値上げ 原材料高を転嫁」
*11 株式会社すかいらーくホールディングス「卵使用商品の価格改定のお知らせ」
*12 株式会社セブン&アイ・フードシステムズ「デニーズ、一部メニューの価格改定のお知らせ」
*13 株式会社すかいらーくホールディングス「社長メッセージ」
*14 日高屋「12月20日(金)より価格改定のお知らせ」
*15 日高屋「第47期 株主通信」
