健康診断や人間ドックで、がんの疑いがあると言われたら、頭がまっ白になってどうしたらよいのかわからなくなってしまう人も多いでしょう。がんと聞くと治療費が高額なのでは?と思う方が多いと思います。
ここではがんと診断されたことに伴う、さまざまな費用、そしてがん保険について考えていきたいと思います。
がんの疑いと言われた場合、総合病院等を受診することになり、たくさんの検査が予定されます。
その結果が総合的に判断され、がんの診断がつき、がんの進行度を表す病期(ステージ0~Ⅳの5段階)も示されます。同時に主治医から治療方針が説明され、場合によってはセカンドオピニオンなども受けた上で治療方針を決定し、治療が開始されます。
がん治療は、どのような部位のがんであっても基本的に「手術(外科治療)」「薬物療法(抗がん剤治療)」「放射線治療」の三大治療の、単独もしくはそれぞれの組み合わせに、がんに伴う苦痛を緩和するための「緩和医療」もあわせて行われます。
がん治療は医学の研究成果や医療技術の進歩とともに変化しています。
現時点で、効果があることや安全であることが科学的根拠(エビデンス)にもとづいて証明されている最もよい治療のことを「標準治療」と言います。標準治療が確立されているがんであれば、その治療を受けることが最善の治療となります。
いわゆる民間療法や代替療法と呼ばれるものは、効果が科学的に証明されておらず、よくがん保険で保障がうたわれている「先進医療」と呼ばれているものも標準治療ではありません。基本的には標準治療が第1選択肢になるということを念頭に、主治医の話を聞いていくことが大切です。
がん治療費を、以下の3つに分けて考えてみることにしましょう。おもに保険診療が適用される医療費と健康保険が適用されない医療費(自由診療)、そして医療費以外にかかる費用の3つです。それぞれについて説明していきます。
【おもに保険診療が適用される医療費】
一口にがんと言ってもさまざまな部位での発症があり、さらにがんの進行度を表す「病期(ステージ)」があります。病期は5段階で表され、上皮内がんのステージ0から根治が大変難しいステージⅣまであります。
国立がん研究センターがホームページ内で情報提供している「最新がん統計」によれば、生涯でがんに罹患する確率は、男性65.5%(2人に1人)、女性50.2%(2人に1人)となっています(2017年)。がんに罹患するということは決して珍しいことではありません。
2017年の罹患数が多い部位は、次の通りです。
男性:前立腺、胃、大腸、肺、肝臓
女性:乳房、大腸、肺、胃、子宮
総数:大腸、胃、肺、乳房、前立腺
また、上記の「最新がん統計」によれば、生涯にがんで死亡する確率は、男性26.7%(4人に1人)、女性17.8%(6人に1人)となっています(2019年)。
このことから、以前より根強いイメージである「がん=不治の病」という時代は終わり、"その後の人生"が長い可能性が高いといえるでしょう。がんについてのお金のことを考えるときには治療費だけでなく、その後の人生についても考えていくことが必要です。
また、部位別のがん治療費は次の通りです(2019年の年間)。
胃の悪性新生物(1入院費用)
全体 95万3,995円(3割負担だと約29万円)
直腸の悪性新生物
全体 102万2,965円(3割負担だと約30万円)
気管支および肺の悪性新生物
全体 85万5,040円(3割負担だと約26万円)
乳房の悪性新生物
全体 77万1,650円(3割負担だと約23万円)
上記のようにがんに罹患すると医療費が1回の入院で約100万円程度かかることがわかりました。ここでは医療費100万円かかった場合を例にとって試算してみましょう。
医療費が100万円かかった場合、公的医療保険制度を用いて窓口負担は3割となりますので30万円となります。さらに後ほど詳しく紹介しますが、高額療養費制度がありますので窓口負担の上限額が決まっています。ここでは年収が370万円から770万円の所得区分の場合を見てみましょう。
ひと月あたりの自己負担限度額は次の計算式で求めます。
8万100円+(医療費-26万7,000円)×1%
↓
8万100円+(100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円
となり、負担の上限額は8万7,430円となります。
すなわち、自己負担額が30万円ですから、21万2,570円が高額療養費として支給されたということになります。さらに、1年のうちに4回以上高額療養費制度を使った場合には、4回目から4万4,400円に減額されます。
このように健康保険が適用される医療費は、高額療養費制度で自己負担額が減額される仕組みがあるため安心して治療を受けることができます。しかし上限があるとはいえ、窓口負担額が8万7,000円を超えるとなると家計を大きく圧迫することも事実です。
さらにこれは病院や薬局で支払う医療費のみに適用される制度で、それ以外の負担は実費です。加えて、仕事を休んだ場合に収入が減ることも念頭に、がんにかかった場合にはどこまで備えれば安心かということを冷静に考える必要があります。
がんに備えるために、がん保険の加入を検討する人もいるでしょう。がん保険を選ぶポイントの前に、がん治療の考え方と、公的な医療保障制度を改めて振り返っておきましょう。
がん治療にはお金がかかるというイメージをもっている人が多いと思います。がん治療は「手術」「薬物療法」「放射線治療」「緩和医療」の組み合わせで行われ、治療が長期にわたることが多く、治療費が高額になる傾向があります。がんの治療法は研究開発がさかんな分野ですので、開発費が高額になっているという事情もあります。
実際にがん治療にかかる費用のイメージは前述の通りですが、がん治療にかかった医療費は私たちが加入している健康保険を通じて支払うため、窓口での自己負担は通常3割、後期高齢者医療保険の方は1~3割が基本です。
その窓口負担も、高額療養費制度というものがあり、同一月内(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(高額療養費算定基準額)を超えた分が、あとで払い戻しされます。
医療費が高額になることが事前にわかっている場合には「限度額適用認定証」の発行を受けると、限度額以上の負担をすることなく清算することができます。
なお、2021年3月からマイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになり、利用している医療機関の窓口にオンライン資格確認が導入されていれば、原則として高額療養費の限度額適用認定証発行のための申請と窓口持参が不要になります。
また、限度額を超えた支払い月が1年のうち3回以上あった場合、4回目以降は減額される仕組みになっています。ですからがんのように治療が長期間にわたる病気の場合、この高額療養費制度は心強い味方となります。
がん治療に伴い仕事を休まなければならない場合、会社員や公務員などの健康保険制度の加入者には「傷病手当金」の支給があります。
傷病手当金は、ケガや病気のために仕事を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給され、会社を休んだ期間が3日間あったうえで4日目から支給され、最大1年6ヵ月が限度となります。支給額はおおよそ日額給与の3分の2に相当する金額となります。
自営業者やフリーランスなど国民健康保険の加入者には、傷病手当金という制度はありません(国民健康保険加入者で給与の支払いを受けている人は新型コロナウイルス感染症に感染した場合には例外的に支給されることになっています)。
ですから、国民健康保険加入者の方は、がん治療のために休職・休業することで収入が減るリスクに自身で備えておく必要があるでしょう。
がん保険とは、がんに特化した保険ですが、病気に関する保険ですから医療保険の一種です。しかしがん保険は、がん以外の病気になった場合には適用されないので注意が必要です。
がん保険はおもな保障として、次のようなものが挙げられます。
がんと診断されたとき
(一時金として):診断給付金
入院したとき(日数無制限):入院給付金
がん治療のために手術したとき:手術給付金
がん治療のために通院したとき:通院給付金
これらの保障をニーズに合わせて組み合わせたり、特約を付けたり、たくさんの種類があります。
がん保険はがんに特化しているので、一般的な医療保険にはない特徴があります。
また、薬物療法の多くは外来治療となっており、抗がん剤治療等を行う外来部門として「通院治療センター」を設置している病院が多くなっています。
ですから、がん保険であれば通院給付金に注目して検討し、診断給付金はとくに若い人には有効な保障だと言えます。
病気やケガなどの入院や手術に備える「医療保険」の保障範囲は広く浅いのに対して、「がん保険」はがんに特化した保険ですので、がんを対象として手厚く保障されます。一方で、がん以外の病気やケガは保障されませんので、一般的には医療保険の特約か別途加入することになります。
がん保険を検討している時には、がん治療費だけを想定しがちですが、実際には働き盛りの年齢の人の場合、病院に通院している間は仕事を休むことになりますので、収入減も想定しておかなければなりません。
ですからすべての保障をがん保険の給付に頼るというのではなく、収入保障の面からも検討してみましょう。貯蓄が十分でないと感じ、病気になったときの経済的な不安がある人はがん保険や医療保険、収入保障保険を検討してみてはいかがでしょうか。
がんも病気の一種ですから医療保険でカバーするというのも1つの方法かもしれません。
しかし、先ほども説明したように、医療保険では支払限度日数が設定されているのでがん治療には十分な保障が得られないこともあります。がんという病気の特徴をよく知った上で、どの保障を強化するべきかということを自身の状況に照らし合わせて考えてみましょう。
さらに近年、がん保険にもさまざまな種類のものが登場してきました。よく知られているのは生命保険会社のがん保険で入院給付金や通院給付金が支払われるものですが、ほかにも損害保険会社が出しているがん保険もあります。
これは支払ったがん治療費の実費分を補償する考え方です。損害保険会社なので、例えば自動車事故で車が破損した場合、車の修理費(実費)が保険から支払われますね。それをがん保険にも応用したものです。
損害保険会社のがん保険でも一時金を特約でつけることができますし、自由診療が対象になるものもあります。さらに新しい流れとして保険料は後払いで、月ごとにがんに罹患した人数で保険料をわりかんする「わりかん保険」というものも登場してきました。
がん治療は日進月歩とお話しましたが、がん保険も新しいものが発売されてきています。一度加入したらそれで終わりではなく、定期的に保障(補償)内容の確認と見直しが必要です。
がん治療は「標準治療」が最善の治療であること、保険診療の自己負担額が一定以上になると高額療養費制度が適用されること、がん保険には生命保険会社のもの、損害保険会社のものなどがあり、日進月歩のがん治療と同様に新しい商品が発売されており、定期的に保障(補償)内容の確認と見直しが必要なことなどを説明しました。
がんという病気を知り、自分にとっての安心とはどのような状態なのか、どのような方法で備えるかについて改めて考えてみましょう。
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