中国経済は、不動産不況や内需停滞などを背景に先行きの不透明感が広がっています。中国は世界第2位の経済大国であり、日本にとっては最大の貿易相手国です。中国経済の低迷は日本や世界の経済に大きな影響を与えるため、現状を理解しておくことが重要です。
本コラムでは、中国経済の主要経済データや低迷が報じられる理由、今後の見通しについて解説します。
まずは主要経済データや経済目標など、中国経済の概要を確認しておきましょう。
中国の主要経済データは以下の通りです。
出所)外務省「中国・日中経済主要経済データ(令和6年5月)」をもとに筆者作成
中国のGDPは世界第2位の規模で、世界全体の約16.9%を占めています(米国は約26.1%、日本は約4.0%)。
2023年の成長率は+5.2%でした。中国政府による2024年の実質GDP成長率の年間目標値は「5.0%前後」で、2024年第1四半期は+5.3%となっています。*1
2023年の輸出入や直接投資は、前年比でマイナスとなりました。
直接投資とは、海外で事業活動を行うために、その国の企業をM&Aを通じて傘下に収めたり、工場や販路を作るために現地法人を設立したりすることです。
国内から海外に向かうものを「対外直接投資」、海外から受け入れるものを「対内直接投資」と言います。*2
中国政府は、3月に開催した全人代(全国人民代表会議)において主な経済目標を次のように決定しました。
出所)三菱総合研究所「世界・日本経済の展望|2024年5月(中国経済)P29」をもとに筆者作成
主な経済目標は、2023年とほぼ同じ内容です。
実質GDP成長率+5%を確保するため、超長期国債発行による財政支出拡大などの景気刺激策を打ち出しました。*3
2023年の日中貿易総額は42.2兆円(3,007億ドル)となりました。
日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとって日本は米国に次ぐ2番目の貿易相手国です。日本の輸出入総額のうち、輸出の17.6%、輸入の22.2%を中国が占めています。
中国にある日系企業は、2022年10月時点で3万1,324拠点です。日系企業の海外拠点数として、中国は第1位となっています。
また、2023年の訪日中国人観光客数は約242.5万人です。訪日観光客全体の約9.7%を占めており、韓国、台湾に次いで第3位のシェアです。
このように、日中間の貿易・投資などの経済関係は非常に緊密であることから、中国経済が日本経済に与える影響は大きいといえます。
中国経済を巡っては低迷が報じられていますが、その背景には次のような要因があります。
中国では、2021年から金融監督当局が厳格な資金調達規制を導入したことで、急速に資金繰りが悪化する民営不動産開発事業者が現れました。
民営不動産開発事業者から物件を購入すると契約通りに物件を引き渡されないリスクが高まると認識され、買い控えや業者の選別姿勢が強まりました。*4
その結果、財務内容が健全だった民営不動産開発事業者の売上も減少し、資金繰りが悪化する業者が出てくるなど、不動産不況が長期化しています。
2023年8月には、中国の不動産大手「恒大グループ」がアメリカの裁判所に連邦破産法の適用を申請したことが話題になりました(その後、香港高裁からの清算命令を受けて、2024年3月に申請を取り下げ)。*5 *6
不動産は中国経済のけん引役であり、不動産開発の進行状況や住宅の売れ行きが建材や家具・家電などさまざまな分野に影響を与えるため、景気の先行きに不透明感が広がっています。
中国は、2022年末までゼロコロナ政策をとっていました。
2023年初めは行動規制の解除による特需も見られましたが、短期間で収束し、購買意欲が落ち込んだまま上向かない状況に陥っています。
中国の2024年5月の小売売上高(名目)は前年比+3.7%です。2023年11月以来、増加幅が拡大しましたが、通年で前年比+8.0%だった2019年と比較すると弱い動きといえるでしょう。*7
引用)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2024年7月)」
また、2024年5月の消費者物価指数は+0.3%です。自動車などの耐久財価格の下落が物価を押し下げており、こちらも低い伸びにとどまっています。
引用)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2024年7月)」
2023年6月、16~24歳の失業率が21.3%と過去最悪を更新しました。
同年7月以降は「より正確に実態を反映するため」という理由で公表が停止されました。
その後、在校生を含まないかたちで公表が再開され、2024年5月は14.2%となりました。
2023年よりは下がったものの、若者の失業率は高いままです。
若者の雇用悪化の原因としては、不動産不況が継続していることに加えて、人気企業や役所の就職倍率が極めて高いこと、IT業界の人員削減、民営の中小企業の経営不振などが考えられます。
上記で述べた背景以外にも、消費者がリスクに備えて貯蓄を増やしていること、民間企業の設備投資が伸び悩んでいることなども中国経済の低迷の要因として指摘されています。
中国経済の今後の見通しについて、注目しておきたいポイントは次の2つです。
2024年5月29日、IMF(国際通貨基金)は中国の2024年の経済成長率の見通しを0.4ポイント引き上げて5.0%としました。
中国は実質GDP成長率について「+5%前後」の目標を掲げていますが、IMFがその目標を達成すると見通しを示したかたちです。*8
見直しの理由として、2024年1~3月のGDPの伸び率が予想を上回ったこと、中国政府が追加した不動産市況の改善策(売れ残った住宅の買い取りなど)を反映したことを挙げています。
一方で、不動産不況の長期化がリスクだとして、中国政府に対してより包括的な施策を実行するよう促しています。
中国人民銀行は、2月に住宅ローン金利の指標となる5年物最優遇金利を4.2%から3.95%に引き下げました。
また、中国政府は、地方政府・銀行連携で融資を促進する「不動産協調融資メカニズム」を発足しました。
不動産開発資金の円滑な調達、不動産購入後の引き渡しリスク緩和による需要喚起に一定の効果が見込めます。*9
1月に香港高裁が恒大グループの法的整理手続き開始を決定するなど、不動産企業の淘汰の動きも本格化しています。
政府は不動産企業の淘汰を容認し、全面的な支援は行わない方針です。不動産企業の淘汰・集約は、経営悪化した企業の不動産投げ売りなどにより、短期的には不動産需要の抑制要因となります。
ただし、長期的な不動産市場の安定には必要な動きといえます。
このような中国政府の支援策・方針が、不動産企業の経営不安の解消や家計の不動産需要回復につながるかがポイントになるでしょう。
IMFが中国の2024年の経済見通しを5%に引き上げたことで、「5%前後」の成長率の目標を達成できる可能性は高まったといえます。
ただし、中国経済をけん引してきた不動産市況の低迷は長期化する見通しです。今後も不動産市況の動向をはじめ、主要経済指標の動きを注視していく必要があるでしょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
*1出所)外務省「中国経済・日中経済 概要(令和6年6月)」
*2出所)日本経済新聞「直接投資とは」
*3出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2024年4月)P6」
*4出所)国際通貨研究所「不況に陥る2023年の中国経済~2024年の改善は可能か~ P1-2」
*5出所)NHK「中国 景気回復の勢い減速 背景と日本への影響は?」
*6出所)NHK「中国「恒大グループ」米破産法申請取り下げ 債務の再編 困難で」
*7出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2024年7月)P3」
*8出所)NHK「中国の経済成長率の見通し 5.0%に引き上げ IMF」
*9出所)三菱総合研究所「世界・日本経済の展望|2024年5月(中国経済)P30」