2023年2月、JAXAが宇宙飛行士候補者の決定を発表しました。4,127名に上る応募者の中から選ばれた宇宙飛行士候補者は2名。そのうちの1人は世界銀行に勤務し、途上国のために尽力してきたことが話題に上りました。*1
世界銀行グループは、途上国政府に対して融資、技術協力、政策助言を行う国際開発金融機関です。
その目的と組織構造や取り組み、日本の関与・貢献についてもご紹介します。
世界銀行グループは、世界中から様々な国が加盟し、開発途上国に対して幅広い支援を行っています。*2
具体的には低利貸付や無利子融資、贈与を行います。更にこれらの資金を活用して、教育、保健、行政、インフラ、金融・民間セクター開発、農業、環境・天然資源管理など幅広い分野の投資支援を行います。*3
こうしたプロジェクトは世界銀行が単独で行うものだけではなく、プロジェクトの一部は、各国政府や他の多国間機関、民間金融機関、輸出信用機関、民間投資家との共同出資で実施されます。
その他にも途上国へ政策面での助言、研究、技術支援の提供や、パートナーと協力し多くの開発関連会議やフォーラムの主催、後援を行っています。
また、世界銀行は2030年までに達成すべき目標として、以下の2点を掲げています。
世界銀行グループは5つの機関で構成されています。そのうちの中核的な4機関とその活動内容は下図1のとおりです。*4,*5
図1 世界銀行グループの中核4機関出所)財務省「世界銀行グループ概要」
単に「世界銀行」といった場合は、国際復興開発銀行(IBRD)と国際開発協会(IDA)を指します。
世界銀行グループには、これらの4機関の他に、「国際投資紛争解決センター(ICSID)」があります。同センターは、政府と外国投資家との投資紛争を解決するため中立的な国際フォーラムを提供しています。*6
グループの本部は米国ワシントンD.C.にあります。設立当初は本部を唯一の拠点としていましたが、現在は1万人を超える職員の3分の1以上が、世界120か国以上の現地事務所で業務にあたっています。*3, *7
また、職員は当初、技師や金融アナリストがほとんどでしたが、現在では、エコノミストや公共政策、セクター別、社会科学など幅広い分野の専門家が在籍しています。
世界銀行グループを構成する機関は加盟国政府に属します。*8
グループへの加盟にあたっては、まず国際通貨基金(IMF) に加盟する必要があります。
国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、および多数国間投資保証協会(MIGA)への加盟には、あらかじめ国際復興開発銀行(IBRD)に加盟することが条件となっています。
5つの機関の中で最も歴史のあるIBRDは第二次大戦後の1945年に設立され、現在の加盟国数は189か国に上ります。*5
新規加盟の手続きは、官房総局がIMFと連携し、その他の世界銀行グループ職員との協議のもとで行います。*8
世界銀行グループは、加盟国によって組織される総務会と理事会が各機関に関する主な決定を行うことで運営されます。
同グループの最高意思決定機関は、世界銀行・IMF総会です。*2
この総会は、IMF・世界銀行に加盟する189か国の最高責任者(財務大臣、中央銀行総裁クラス)で構成され、1946年以降、毎年秋に開催されています。
近年の世界銀行の取り組み事例として、新型コロナウイルス感染症への緊急支援をご紹介します。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は世界の株式市場で株価変動を引き起こすなど世界中で大きな影響を及ぼしましたが、同時に途上国に特に深刻な打撃を与えました。
世界銀行グループは、途上国における感染拡大への対応と保健制度の強化に向けての支援を提供するため、迅速に動きました。*9
2020年4月1日から2021年6月30日までの15か月間に1,570億ドル以上の資金を提供しました。これは、世界銀行グループが始まって以来、15か月間で実施する危機対応として最大規模であり、危機以前の15か月間を60%以上も上回りました。*10
この支援は、保健面だけでなく、現金給付を通じて貧困緩和、政策金融に重点を置いています。*9
また、各国が至急必要とする医薬品や医療機器を確保できるよう、政府に代わり供給業者に働きかけました。
さらに、世界銀行グループは、途上国における犠牲者の数を減らすために、以下を重点にした緊急支援プロジェクトも開始しました。
危機の封じ込めと経済再建の支援には、民間セクターが極めて重要な役割を担いました。
たとえば国際金融公社(IFC)は、企業が事業を継続し、雇用を維持するための支援を提供し、経済への打撃を減少させるために取り組んでいます。
また、多数国間投資保証機関(MIGA)も、民間セクターの投資家と金融機関への支援を行い、医療機器の購入や中小企業の運転資金を提供できるように、資金調達を支えています。
日本は1952年に国際復興開発銀行(IBRD)に加盟しました。*5
当時世界銀行から受けた融資は、 東海道新幹線や東名・名神高速道路、黒部第四水力発電など基幹インフラや、製鉄業などの近代化に活用されました。
現在日本はアメリカに次ぐ第2位の出資国として、世界銀行グループへの出資を行い、特に、インフラや防災(世界銀行東京防災ハブ)、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)などの分野で世界銀行と連携しています。
なお、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジとは、「すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指します。*11
世界銀行東京事務所は、1970年の設立以来、日本の政府機関をはじめ、企業、大学・研究機関、シビルソサエティ(民間組織)などとの幅広いパートナーシップを促進しています。*12
2021年12月、日本が主催した国際開発協会第20次増資交渉(IDA20)の最終会合を終えた財務大臣は、国際開発協会(IDA)を支援するため、拠出額を6.9%増加させ、過去最大の貢献である3,767億円(約34億ドルに相当)を拠出し、249億ドルのうち13.8%の貢献シェアを維持するという談話を発表しました。*13, *14
日本はこの他、国際復興開発銀行(IBRD)や国際金融公社(IFC)の増資の際にも、主要出資国として貢献しています。*2
途上国の経済発展のためには資金や技術援助などの国際協力が欠かせません。
世界中の貧困削減や開発途上国の経済発展に向けて、世界銀行グループが果たす役割は非常に重要です。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
*1 JAXA 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「JAXA宇宙飛行士候補者(2021~2022年度 募集・選抜)の決定について」(2023年2月28日)
*2 財務省「世界銀行グループ(WBG)」
*3 世界銀行東京事務所「世界銀行の概要」
*4 国際連合広報センター「世界銀行グループ」
*5 財務省「世界銀行グループ概要」
*6 国際連合広報センター「国際投資紛争解決センター」
*7 世界銀行東京事務所「沿革」
*8 世界銀行東京事務所「加盟国」
*9 世界銀行東京事務所「世界銀行グループによる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策への支援」(2020年2月11日、2020年4月29日最終更新)
*10 世界銀行東京事務所「プレスリリース 世界銀行グループのコロナ対策支援:危機対応として過去最大の1570億ドルに急増」(2021年7月19日)
*11 厚生労働省「2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」です。>2. ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage : UHC)とは?」
*12 世界銀行東京事務所 「世界銀行|日本>日本とのパートナーシップ・ステークホルダーとの連携」
*13 財務省「世界銀行グループの国際開発協会(IDA)第20次増資交渉最終会合における鈴木財務大臣のスピーチ(令和3年12月14日)」
*14 財務省「世界銀行グループの国際開発協会(IDA)第20次増資交渉に関する財務大臣談話(令和3年12月16日)」