近頃、副業という言葉をニュースで耳にする機会が増えてきました。新年度を迎え、新しいことを始めようと副業を考える人もいるのではないでしょうか。
本記事では、副業に対する政府の考え方や、副業のメリットや注意点など、実際に副業をしている人の統計データも交えて解説します。
政府視点・労働者視点・企業視点からその実態を知り、副業の検討材料にしてみてください。
副業について、厚生労働省がガイドラインを出していることをご存じでしょうか。「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は平成30年に策定され、その後、令和2年と令和4年に改定しています。
ガイドラインの趣旨は、副業・兼業(以下、「副業」)を希望する人が増える中、安心して取り組めるよう、労働時間管理や健康管理等について示すというものです。
政府として副業に対してどのような内容を示しているのでしょうか。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業促進の方向性として、働き方の選択、地方創生、副業を希望する労働者のための環境整備について触れています。
人生100年時代を迎え、若いうちから自らの希望する働き方を選べる環境整備が必要であり、副業が社会全体としてオープンイノベーションや起業の手段として有効で、都市部の人材を地方でも活かせる観点から地方創生にも資する、としています。
また、副業について、行う理由や仕事内容・収入にもさまざまな実情がある中、自身の活躍の場を拡大したい、スキルアップしたいという理由の労働者がいることも踏まえ、長時間労働や秘密漏洩に留意しつつ、副業できる環境の整備が重要である、と述べています。
社会にとってイノベーションや地方創生といった効果が期待できる副業について、政府は、労働者にとってのメリットを4つ挙げています。*1
1つ目は、キャリア形成です。今の本業を辞めずに別の仕事に就くことが可能になり、新しいスキルや経験の獲得の結果、主体的なキャリア形成ができます。
2つ目は、自己実現の追求です。本業の所得を維持しながら、副業ではやりたいことに挑戦できます。
3つ目は、所得の増加です。このメリットが最もイメージしやすいのではないでしょうか。
4つ目は、本業を続けつつリスクを最小限に、将来の起業や転職に向けた準備・試行ができることです。
副業であれば、本業の収入を維持してやりたいことへ挑戦ができるなど、転職にくらべて金銭面的不安を抑えることができます。
副業について、メリットの反面、注意するべき点にはどのようなものがあるのでしょうか。ガイドラインが示す労働者側の注意点を3つ確認してみましょう。*1
1つ目は、就労時間が長くなる可能性です。労働者自身による就業時間管理や健康管理が一定程度必要であると述べられています。
2つ目は、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務の意識です。副業に取り組む中で、勤務先の秘密などを遵守する意識が必要です。
3つ目は、雇用保険の適用がされない場合への注意です。1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合、雇用保険の対象外となる場合があります。
メリットがある一方、本業に追加で労働することになるため、ストレスへの対処や健康への気遣いが重要です。
政府も促進する副業ですが、どれくらいの人が副業をしていて、理由はどのようなものが多いのでしょうか。厚生労働省労働政策審議会による「副業・兼業に関する労働者調査結果」から紐解いてみましょう。
令和2年実施の「副業・兼業に関する労働者調査結果」によると、仕事をしている人のうち、副業をしている人は9.7%と、10人に1人程度が副業をしていることがわかります。*2
ただし、本業の就業形態による違いが大きいことも調査で明らかになっています。
「自由業・フリーランス(独立)・個人請負」を本業とする人の29.8%が副業をしている一方、本業が正社員の場合は5.9%にとどまります。副業を認めていない企業も一定数あるために、正社員の副業率は低くなっていると考えられます。
実際には、どのような理由で副業に取り組む人が多いのでしょうか。
上記の調査から、「収入を増やしたいから」56.6%が理由としては最も多く、次に「1つの仕事だけでは収入が少なすぎて、生活自体ができないから」39.7%が続きます。収入面の理由が目立ちます。
収入という切り口から、本業の収入別に副業をしている人の割合を見てみましょう。1ヵ月の本業収入が5万円以上10万円未満のクラスで副業をしている割合が最も高く13.5%、10万円以上20万円未満が次に多く12.2%と、本業の収入が少ないと副業をする割合が高くなる傾向が見られます。
副業をしている理由の3位には「自分で活躍できる場を広げたいから」19.8%、4位に「時間のゆとりがあるから」18.6%、5位に「様々な分野の人とつながりができるから」13.6%が続きます。収入以外にもさまざまな理由・魅力によって副業をしている状況がわかります。
副業に関して政府の考え方、労働者の状況を紹介しましたが、企業は副業に対してどのような考えを持っているのでしょうか。一般社団法人日本経済団体連合会(以下、「経団連」)が2022年に実施した「副業兼業に関するアンケート調査結果」から、企業視点で解説します。
経団連が実施した調査に回答した275社のうち、副業を認めている企業は53.1%と約半分を占めています。従業員数が多い企業ほど副業を認める割合は増え、従業員5,000人以上の企業においては66.7%が副業を認めています。*3
さらに、今後副業を認める予定の企業は全体のうち17.5%存在し、従業員5,000人以上の企業に限ると、副業を認めている・認める予定の企業は8割を超えます。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、副業を促進する企業側のメリットとして、労働者が知識・スキルを獲得すること、労働者の自律性・自主性が促されること、優秀な人材の獲得や流出防止、社外からの新たな知識・情報・人脈により事業機会が拡大することが挙げられています。
副業を認めている企業は、ガイドライン掲載のメリットを感じているのか、経団連の調査を見てみましょう。
メリットとして割合が多い項目は「多様な働き方へのニーズの尊重」の43.2%です。「人材の定着」13.7%と合わせて、優秀な人材の獲得や流出防止に繋がっているといえるのではないでしょうか。
また、「自律的なキャリア形成」は39.0%、「セカンドライフへの関心の高まり」は13.0%の企業が感じており、労働者の自律性・自主性促進へのメリットがうかがえる結果です。
一方、「本業で活用できる知識スキルの習得」は18.5%、「社内での新規事業創出やイノベーションの促進」は11.6%という結果から、スキル面やイノベーションの面ではこれからのメリット発現が期待される状態といえるでしょう。
副業には収入面の他、活躍の場の広がり、さまざまな分野へのつながりといったメリットがあり、およそ1割の人が副業をしています。
本業を維持しながら、金銭的リスクも小さく気軽にスタートすることも可能です。
しかし、労働時間の増加など副業による注意点もあるため、今回の記事を参考に無理のない範囲で副業を始めてみるのも良いのではないでしょうか。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
*2 厚生労働省 労働政策審議会「副業・兼業に関する労働者調査結果」
*3 一般社団法人 日本経済団体連合会「副業・兼業に関するアンケ―ト 調査結果」