貿易とは、国と国とが物やサービスを売ったり買ったりすることです。
たとえば、日本が物やサービスを外国に売ることを「輸出(ゆしゅつ)」といい、外国から物やサービスを買うことを「輸入(ゆにゅう)」といいます。
でも、貿易がうまくいかなくて、トラブルが起こることがあります。
それが「貿易摩擦(ぼうえきまさつ)」です。
今、日本とアメリカにはその貿易摩擦が起こっていますが、このことを「日米貿易摩擦(にちべいぼうえきまさつ)」といいます。
日米は、日本とアメリカという意味です。
では、どうしてそんなことが起こるのでしょう。
日米貿易摩擦について、その原因やこれまでの歴史、今の問題をわかりやすく説明します。
日米貿易摩擦とはどういうものでしょうか。
貿易摩擦は、どうして起こるのか考えてみましょう。
たとえば、日本は、アメリカで人気のある日本車(日本の自動車会社が作っている自動車)をアメリカにたくさん輸出しています。*1
でも、日本はアメリカ車(アメリカの自動車会社が作っている自動車)をあまり輸入していません。アメリカ車は日本ではあまり売れないからです。
アメリカにも自動車を作る大きな会社がいくつかありますが、多くのアメリカ人が日本車を買ったら、アメリカ車は売れなくなってしまいます。
アメリカは「日本はこんなにたくさん自分の国の自動車をアメリカに輸出しているのに、アメリカ車はあまり輸入してくれない。不公平だ。これではアメリカの自動車が売れなくなってしまって困る」と不満をもつでしょう。
こういうときに、「貿易摩擦」というトラブルが起きます。
では、どうして日本は自動車をたくさん輸出するのでしょうか。
それは、アメリカで日本車はとても人気があって、しかも安いからです。
それで、アメリカに住んでいる多くの人たちが日本の自動車を買ってくれるのです。
でも、それではアメリカの自動車会社が作る車は売れません。
こういうとき、アメリカは自分の国の自動車会社を守るために、どうするでしょうか。
ここで出てくるのが「関税(かんぜい)」という税金です。*2
アメリカは日本車をアメリカに輸入する時に関税をかけるのです。
関税をかけられると、日本の自動車会社は、自動車の値段の分のお金だけでなく、その関税の分も払わなければならなくなります。
そうすると、アメリカが輸入した日本車は値段が高くなって、日本車とアメリカ車の値段があまり変わらなくなるかもしれません。
アメリカに住んでいる人たちはどんなふうに考えるでしょうか。
「日本車もいいけど、あまり値段が変わらないなら、アメリカの自動車会社を応援するために、アメリカ車を買おうかな」と思うかもしれませんね。
アメリカ車がたくさん売れるようになったら、その分、日本車は売れなくなりますから、日本がアメリカに輸出する自動車も少なくなるでしょう。
つまり、関税は、自分の国で作っている物やサービスを守るために、外国から入ってくる物の値段を高くして、自分の国の物を売れやすくする作戦なのです。
でも、そういうことをされたら、今度は日本の方が不満をもつでしょう。
もともと安くて人気のあった日本車を、関税のせいで高くしなければならなくなったのですから。
こんなふうに、関税も貿易摩擦の原因になります。
日米貿易摩擦は大きな問題です。
それはなぜでしょうか。もう少し考えてみましょう。
日本は、中国、アメリカ、ドイツの次に貿易が盛んな、世界第4位の「貿易大国」です。*3
日本には石油、石炭などのエネルギー資源や、物を作る原料などがとても少ないので、その多くを外国から輸入しています。
そして、輸入したエネルギー資源や原料を使って物を作って、作った物を外国に輸出する「加工貿易(かこうぼうえき)」で、自分の国の経済を強くしてきました。
日本の経済にとって、貿易はとても大切なものなのです。
ただ、貿易はトラブルが起こりやすいので、貿易に頼りすぎるのも危険です。
2023年に日本の輸入額(輸入したものの金額)で一番大きかったのは、原油(石油にする前の油)で11兆2,870億円、次に液化天然ガス、石炭の順でした。*4
どれもエネルギー資源ですね。
輸出額(輸出したものの金額)はどうだったのでしょうか。
輸出額が一番大きかったのは自動車で17兆2,650億円、次が半導体などの電子部品で5兆4,940億円、鉄鋼(てっこう)4兆5,020億円、自動車の部品3兆8,840億円の順番でした。
自動車は日本にとって大切な輸出品なのです。
貿易で、輸入している(そこから物を買っている)国を「輸入相手国」といいます。
2023年、日本の最大の「輸入相手国」は中国で、中国から輸入した物の金額は全部で24兆4,180億円、次がアメリカで11兆5,340億円でした。
次に、貿易で一番、輸出している(物を売っている)相手の国を「輸出相手国」といいます。日本にとって最大の「輸出相手国」はどこでしょうか。
2023年、日本にとって最大の「輸出相手国」はアメリカで、アメリカへの輸出額は20兆2,640億円でした。
日本にとってアメリカは大切な「輸出相手国」なのです。
でも、アメリカへは20兆2,640億円も輸出しているのに、アメリカから輸入しているのは11兆5,340億円ですから、アメリカが日本に対して不満を感じやすい状態だということがわかります。
今、日本とアメリカの間には大きな貿易摩擦が起こっています。
でも、日米貿易摩擦はこれが初めてではありません。
これまでの貿易摩擦はどうやって解決してきたのでしょうか。
アメリカのトランプ政権は、2025年4月2日に、日本から輸入する物に対して24%の関税をかけると発表しました。*5
また、4月3日には、それに加えて、アメリカが輸入するすべての自動車に25%の関税をかけることを始めました。*6
それだけでなく、5月3日にはアメリカが輸入する主な自動車部品(エンジンなど)に対しても25%の関税をかけ始めました。
これからの話し合いによって、このような関税が安くなるかもしれませんが、それはまだわかりません。
アメリカへの輸出額で一番大きいのは自動車、二番目が自動車部品なので、重い関税をかけられる日本の自動車会社や自動車部品メーカーはとても困っています。
アメリカとの間には、今までも牛肉・オレンジ、繊維(せんい)、鉄鋼(てっこう)、カラーテレビ、自動車、半導体などをめぐって、ときどき貿易摩擦が起こりました。*1
これまでの貿易摩擦はどうやって解決してきたのでしょうか。
主な解決法をみていきましょう。
日本からアメリカへの輸出品が増えると、アメリカの物が売れなくなるので、アメリカは日本にもっと輸出量を減らすように、強く要求してきました。*7
そのことについて日本はアメリカと何度も話し合いをしましたが、アメリカは要求を変えませんでした。
そこで、日本はし方なく、自分で輸出量をコントロールして、繊維、鉄鋼、カラーテレビ、自動車の輸出が多くならないようにしました。
そういう方法を「自主規制(じしゅきせい)」といいます。
また、カラーテレビや自動車は、日本で作って輸出するのではなく、アメリカに工場を建ててアメリカの人に働いてもらって作るようにしました。
そうすれば、アメリカの人たちが日本の会社で働くことができますから、アメリカは満足します。
それに、日本のカラーテレビや自動車を日本から輸出しなくても、アメリカで売ることができるからです。
これまで貿易摩擦は、摩擦の起こっている国と国が話し合って解決してきましたが、それでは解決するのが難しい問題が多くなりました。*1
それで、輸出する物を作っている会社が自主規制することもありますし、WTO(世界貿易機関)が間に入って仲裁(ちゅうさい)することもあります。
また、最近は、貿易をする国の間で、貿易摩擦が起こらないようにしながら、相手の国と自由に貿易ができるようなやり方をしているところもあります。
そのための仕組みを「自由貿易協定(じゆうぼうえききょうてい、FTA)といいます。
でも、それとは逆に、アメリカのトランプ政権は、日本だけでなく世界中の国に重い関税をかけ始めています。
これから、世界の貿易はどうなっていくのでしょうか。
また、日米貿易摩擦はいつどんなふうに解決するのでしょうか。
この問題がこれからどうなっていくのか、ニュースや新聞などで、ぜひ観察してみてください。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 一般社団法人 日本貿易会 JFTCキッズサイト「日本の貿易の課題」
*2 一般社団法人 日本貿易会 JFTCキッズサイト「用語辞典>関税」
*3 一般社団法人 日本貿易会 JFTCキッズサイト「日本の貿易の特徴」
*4 一般社団法人 日本貿易会 JFTC「日本貿易の現状」p.2, 3, 4, 5,
*5 NHK「トランプ大統領 相互関税日本に24% 一律10%関税【一覧表も】」(2025年4月3日 16時47分)
*6 NHK「トランプ政権 自動車部品にも25%の関税発動 日本への影響懸念」(2025年5月3日 18時04分)
*7 内閣府「第4章 日米貿易摩擦」pp.48-54, p.56