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台風で交通機関が運休・遅延|払い戻しは受けられるのか?ホテル代はどうなる?弁護士が解説
台風で交通機関が運休・遅延|払い戻しは受けられるのか?ホテル代はどうなる?弁護士が解説

台風で交通機関が運休・遅延|払い戻しは受けられるのか?ホテル代はどうなる?弁護士が解説

2024/10/10に公開
提供元:阿部由羅

台風などの自然災害によって、公共交通機関が運休または遅延した場合、運賃の払い戻しは受けられるのでしょうか?
また、移動先でホテルや飲食店を予約していた場合、ホテル代や飲食代はどうなるのでしょうか?

本記事では上記のような疑問点について、法的な観点から解説します。


台風などで公共交通機関が運休・遅延した場合、運賃の払い戻しは受けられるのか?

台風などで公共交通機関が運休または遅延した場合、運賃が発生するかどうかは利用規約の定めに従います。
運休については全額払い戻し、遅延については一定の条件を満たす場合に限り払い戻しとしている公共交通機関が多いようです。


JR東日本の旅客営業規則|運休と一定時間以上の遅延は払い戻し

JR東日本の「旅客営業規則*1」では、運休の場合には運賃を全額払い戻す旨を定めています(同規則282条1項1号)。

遅延については、以下のいずれかに該当する場合に限り払い戻しの対象とされています(同項2号)。


  • 接続駅で接続予定の列車の出発時刻から1時間以上にわたって、目的地に出発する列車に接続を欠いたとき(接続を欠くことが確実なときを含む)
  • 着駅到着時刻に2時間以上遅延したとき(遅延することが確実なときを含む)

ANAの国内旅客運送約款|振替輸送・払い戻し・有効期間の延長

ANAの「国内旅客運送約款*2」では、悪天候などのやむを得ぬ事由により、航空会社が予告なく運航時刻の変更や欠航などの措置をとることができると定めています(同約款44条5項)。

この場合、航空会社は旅客の選択により、以下のいずれかの措置を講じるものとされています(同約款27条)。


  • 別の航空機または他の輸送機関による振替輸送
  • 運賃の払い戻し
  • 未搭乗区間の航空券の有効期間の延長

利用規約の定めがない場合の運賃の取り扱い

運休時または遅延時の運賃の取り扱いについて、公共交通機関の運営会社の利用規約において定めがない場合は、民法の規定に従います。

台風などによる運休や遅延は、運営会社側の責に帰することができない事由によるため、「危険負担」の規定が適用されます。

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
(民法536条1項*3)


公共交通機関に関しては、上記の規定における「債務」とは旅客を運送する運営会社の義務、「債権者」とは旅客、「反対給付の履行」とは運賃の支払いを意味します。
したがって、台風などで公共交通機関が運休した場合には、旅客は運賃の支払いを拒むことができます。

これに対して遅延の場合、運営会社が「債務を履行することができなくなった(=履行不能)」といえるかどうかによって結論が異なります。
大幅に遅延した場合は運賃の支払いを拒める可能性が高いですが、少々の遅延であれば運賃は免除されないと考えられます。
具体的に「○時間以上」と決まっているわけではなく、運送義務の内容などに鑑み、社会通念に照らして履行不能かどうかが判断されます。


台風などで移動ができなくなった場合、予約していたホテルや飲食店の料金はどうなる?

台風などで公共交通機関が運休すると、利用者は予定していた移動ができなくなります。その結果、移動先で予約していたホテルや飲食店をキャンセルせざるを得ないケースも出てくるでしょう。

ホテルや飲食店の利用についてキャンセル料が発生するかどうかも、公共交通機関の運賃と同様に、利用規約の定めに従うことになります。


帝国ホテル東京の宿泊約款|違約金が発生するのは帰責性のある場合のみ

帝国ホテル東京の「宿泊約款*4」では、宿泊客はホテルに申し出て、宿泊契約を解除できるとされています(同約款6条1項)。

宿泊客の責めに帰すべき事由によって宿泊契約の全部または一部を解除した場合は、前日キャンセルで20%、当日キャンセルで80%、連絡なしの不泊で100%の違約金が発生します(同条2項・別表第2、1~14名の一般客の場合)。

これに対して、宿泊客の側に責に帰すべき事由がない場合は、上記の違約金規定の対象外とされています。
同約款の内容を合理的に解釈すると、宿泊客の責に帰すべき事由がなければ、宿泊契約を解除しても、キャンセル料は発生しない可能性が高いと思われます。


利用規約の定めがない場合のホテル代や飲食代の取り扱い

キャンセル時のホテル代や飲食代の取り扱いについて、ホテルや飲食店の利用規約において定めがない場合は、公共交通機関の運賃と同様に、民法の危険負担の規定に従います。

ホテルや飲食店のサービスは現地で提供されるものなので、客が現地まで行くことができなければ履行不能となります。
台風などによって公共交通機関が運休したために行くことができなかった場合は、危険負担の規定に従ってホテル代や飲食代は免除されることになるでしょう。

客がホテルや飲食店まで行くことができなかったかどうかは、物理的に可能かどうかに加えて、社会通念に照らして判断されます。
遠方のホテルや飲食店に通じるすべての交通機関が遮断されている場合は、客は物理的に行くことできません。
また一部の交通機関が動いていても、大幅に遅延している場合や、外出すること自体が危険な状態にある場合などには、社会通念上行くことができなかったと判断されることがあります。


公共交通機関の運営会社にホテル代や飲食代は請求できない

台風などによる公共交通機関が運休したために、ホテルや飲食店のキャンセル料が発生したとしても、その金額を公共交通機関の運営会社に請求することはできません。

ホテルや飲食店のキャンセル料などの損害賠償を請求できるのは、公共交通機関の運営会社に故意または過失がある場合のみです(民法415条1項、709条)。
台風などによる運休は、旅客の安全を守るためのやむを得ない措置であり、公共交通機関の運営会社に責任はありません。
したがって、運営会社は旅客に対して損害賠償責任を負わず、ホテルや飲食店のキャンセル料を運営会社に払ってもらうこともできません。


まとめ

台風などによって公共交通機関が運休または遅延した場合の運賃の取り扱いは、運営会社が定める利用規約に従います。
また、移動ができなくなった場合のホテルや飲食店のキャンセル料についても、利用規約の定めに従います。
なお、公共交通機関の運営会社に対して、ホテルや飲食店のキャンセル料を請求することはできません。

近年では異常気象が頻繁に発生しているため、大規模な台風や豪雨によって公共交通機関が運休することも想定しておくべきです。
その場合に、運賃やキャンセル料がどうなるのかについて、公共交通機関やホテル・飲食店などの利用規約をあらかじめ確認しておきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 JR東日本「旅客営業規則」
*2 ANA「国内旅客運送約款」
*3 e-gov法令検索
*4 帝国ホテル「宿泊約款(帝国ホテル東京)」


阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。
企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。
その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。


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