日本の若者の50%以上が留学を希望しておらず、その主な理由は経済的な制約にあります。昨今の円安・物価高が日常生活に与える影響は大きく、特に留学費用の高騰は、留学を考える人にとって以前にも増して深刻な問題となっています。
今、留学費用をいくらと見積もるのが妥当なのでしょうか。その影響を軽減するための奨学金や支援金にはどのようなものがあるのでしょうか。
「教育未来創造会議」(内閣下に設置された教育政策に関する会議の1つ)によると、日本では、「外国留学をしたいと思わない」若者が50%以上いる一方で、他の国ではその割合が日本と比べて低くなっています*1。
留学を希望しない理由として、経済的な問題や語学力不足、留年や就職に対する不安、情報不足が挙げられています*1。
出典)内閣官房 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ 参考データ集p30
世界では留学生が増加しており、留学経験者を通じて国際的な人的ネットワークが構築されています。しかし、日本からの留学生数は他国に比べて相対的に少なく、増加が停滞しています*2。
こうした状況が続くと、日本社会が国際的な競争で取り残される可能性があると言えるのではないでしょうか。
出典)内閣官房 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ 参考データ集p15
「教育未来創造会議」は国を挙げて、留学生の育成に取り組むことを政府に提言しました。
目標は、長期留学者(学位取得等を目的)数を6.2万人から15万人に増やし、中短期留学者(日本の大学等に在籍しながら留学)数を11.3万人から23万人に増やすことです*3。
実現に向け政府としては、奨学金の強化や寄附による財源確保など、経済支援を充実させる必要があります。
経済的な支援が充実すれば、経済的な問題で留学をあきらめていた人や多くの意欲ある若者が海外留学を経験できるようになるでしょう。
実際、長期留学にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか?
コロナ禍以前は、日本人留学生の多くが北米やアジアに留学していましたが、その後、国や地域の構成は大きく変わり、韓国に行く留学生はアメリカに次いで多くなっています。
留学にかかる費用について、アメリカのケースを見てみましょう。
出典)内閣官房 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ 参考データ集p23
アメリカには2年制・4年制大学が約4700校あり、2019~2020年には約108万人の留学生がいます。その70.5%がアジア出身です。工学系は特に人気の専攻です*4。
大学の1学年(9カ月間)の授業料の平均は、公立4年制(州外学生)で27,020ドル(約404万円※1米ドル=¥149.60で計算、2023年11月17日現在。以下同じ)。私立4年制の場合、34,740ドル(約519万円)です*4。
出典)アメリカ留学の高校生・大学生向けガイド | トビタテ!留学JAPAN | 文部科学省を参考に筆者作成
さらに、アメリカでの生活には別途費用がかかります。滞在施設のほとんどは学生寮で、1学年度(9ヶ月)の部屋代と食費の合計は、公立4年制(州外学生)で11,620ドル(約174万円)、私立4年制で13,120ドル(約196万円)です*4。
出典)アメリカ留学の高校生・大学生向けガイド | トビタテ!留学JAPAN | 文部科学省を参考に筆者作成
つまり、アメリカの4年制大学で1年間学ぶのにかかる費用の目安は、公立で約578万円、私立で約715万円ということになります。
ただし、これはあくまで平均的な金額であり、同じ国であっても大学の所在地や教育内容によって金額は異なります。
本当に留学したいのであれば、早めの準備がベターです。日本の大学を卒業するまでの教育資金をためている人は多いのですが、留学となるとさらにお金がかかります。
奨学金の利用を考えることは有益な選択の1つかもしれません。
奨学金の選択肢は増加傾向にあり、その中には「返済不要」のものも存在します。たとえば、日本学生支援機構の「学部学位取得型」は、海外で学士を取得したい高卒者が対象の奨学金制度です。
同奨学金は給付型であり、原則4年間、月に5万9,000円から11万8,000円の奨学金が支給されるほか、年間300万円が上限となる授業料も受け取れます*5。
ただし、定員があり、一定の語学能力が必要です。例えば、2023年度の選考では応募者数が250名で、採用者は78名でした*6。
他にも「トビタテ!留学JAPAN」という官民連携のプログラムがあります。自ら留学計画を練り、審査をクリアすると返済不要の奨学金が得られます*7。
都道府県や市町村、外国政府、民間団体等も独自の奨学金制度を提供しているため、調べてみると良いでしょう。
奨学金の情報はまだ広く知られておらず、留学に奨学金を活用する学生は全体の1割に満たない、残念な状況です*8。ぜひ、多くの若者に活用していただきたいものです。
出典)内閣官房 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ 参考データ集p39
留学を検討する上で、成績向上が1つのキーとなります。多くの奨学金制度は英語の試験である「TOEFL iBT」や「IELTS」で一定以上のスコアを求めています。また、「海外で何を成し遂げたいか」という、留学の目的を明確にすることも重要です。
強い学習意欲と語学力があれば、奨学金を獲得する道が開けるかもしれません。早い段階から適切な対策を講じれば、無謀な挑戦ではありません。奨学金を活用して、お子さまの将来の可能性を広げてみてはいかがでしょうか。
本稿執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1、未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)(案)p.5
*2、内閣官房 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ 参考データ集p.15
*3、未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)(案)p.15
*4、アメリカ留学の高校生・大学生向けガイド | トビタテ!留学JAPAN | 文部科学省
*5、海外留学支援制度(学部学位取得型)募集ちらし(2024年度募集用)
*6、2023年度海外留学支援制度(学部学位取得型)選考結果について | JASSO
*7、【返済不要の留学奨学金】「トビタテ!留学JAPAN新・日本代表プログラム」高校生等700名/大学生等250名募集中
*8、内閣官房 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ 参考データ集
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