物価高の中、食料品の値上がりも大きなものになり、食費がかさんでいることに悩んでいる人は多いのではないでしょうか。
なるべく節約をしたいと考えても、共働きや子育て世帯では、スーパーをはしごして安い材料を揃え、そこからレシピを考える、という余裕はあまりないのも現実です。
また「節約疲れ」が出ている人もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、物価高の中でも食生活を少しでも楽しく送るためにどのような工夫をしている人が多いのか、いくつかの調査結果をもとに紹介していきます。
ぜひ、参考にしてお役立てください。
食料品の値上がりが止まりません。
食料の消費者物価指数(=2020年を100とした指数)は、特に2022年以降、急激に上昇しています。
食料の消費者物価指数の推移(全国)
(出所:農林水産省「食品の価格動向」) p1
家庭の消費支出に占める食料費の割合を示すエンゲル係数も上昇しており、総務省の「家計調査」によれば2023年のエンゲル係数(2人以上の勤労者世帯)は27.8%で、1983年以来40年ぶりの高水準になりました。*1
エンゲル係数(%)は、食料費を家計の消費支出で割り、100をかけたものです。つまり
エンゲル係数 = 食料費 ÷ 消費支出 × 100
で表され、支出額のうち、食料品にかけるお金の割合を示します。
エンゲル係数が高いというのは、食料品に使うお金が家計の重荷になっているということです。
エンゲル係数は収入や家族構成によっても異なるため、「〇%にすべき」といった基準はありません。
ただし、ご家庭のエンゲル係数が高いかどうかを判断する際、全国平均の数値(2023年は27.8%)は一つの目安になるでしょう。
過去を見ると、比較可能な全国のデータが残る1963年以降では、最も高かった63年の38.7%から経済成長とともに徐々に低下していました。
そしてエンゲル係数は2005年が最も低い22.9%でしたが、2023年にはそこから4.9ポイント上昇したことになります。*1
食料品が値上がりする一方で給料はそう上がっていないことが、エンゲル係数を押し上げている大きな要因でしょう。
一般労働者の月額賃金の推移
(出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構「一般労働者の賃金が2.1%増加となり、1994年以来の2%超え ――厚生労働省「2023年賃金構造基本統計調査」)
2010年代に入ってからの食料物価指数と賃金の伸びを比べてみましょう。上の2つのグラフで見ると食料物価指数は2012年から2023年の間に30%近く上昇しているのに対して、賃金はほぼ横ばいのままです。食料の値上がり幅に対して賃金の伸びが全く追いついていないというわけです。
もちろん、今は多くの人が節約を意識していることでしょう。しかし何でも安いものを買えばいい、というわけではなさそうです。
日本生活協同組合連合会が会員を対象に行ったアンケート調査の結果によると、食料品や日用品のうち、安い商品に切り替えた・購入頻度や量が減ったもののランキングは下のようになっています。
より安い商品への切り替えや購入頻度・量が減ったもの
(出所:日本生活協同組合連合会「「節約と値上げ」の意識についてのアンケート調査 約61%が「ふだんの食事」を節約。昨年トップの「外食」より多い結果に。」 p2
しかし、譲れない点もあるようです。
食料品を買う際に多少高くても買う理由として
「おいしい」(71.3%)
「国産品」(57.7%)
「添加物不使用・添加物が少ない」(42.0%)
というもののほか、
「時短できる」(31.2%)
ことを重要視する人もいるのです。*2
食料品を買うにあたって「時短」が重要視される背景には、家事への意識があるようです。
日本生活協同組合連合会は会員を対象に、家事についての意識調査も実施しています。
その結果を見ると、家事の中でも適度に手を抜きたいものと時間をかけたいものが分かれていて、タイムパフォーマンスを意識する家事の1位は「調理・食事の支度」(42.8%)でした。
一方で手間をかけたい家事の1位は「部屋の掃除」(50.9%)となっています。*3
結果として食費が多少高くなっても、他の家事に時間を回したいと考える人が多いのです。
共働きや子育て世代では、さらにその意識は強くなるかもしれません。
確かに今は、自分で一から作らなくても豊富な種類の食事が簡単に手に入ります。
実際、家庭で一から作る「内食」と飲食店を利用する「外食」の間の「中食(なかしょく)」の市場は拡大しています。
お弁当やお惣菜、パウチなど温めればすぐに食べられるものです。
食の形態別にみる市場の推移
(出所:一般社団法人日本惣菜協会 「2024年惣菜白書 ダイジェスト版」p5)
2023年1年間の調査期間のうち、「最近半年間での購入頻度」が高いもののランキングは下のようになっています。
購入頻度の高い中食の品目(各品目を半年間で3回以上購入した人の割合)
(出所:一般社団法人日本惣菜協会「2024年惣菜白書 ダイジェスト版」) p9
多くの種類の材料を必要とするもの、油を使うものが上位にきているようです。確かにこうした料理は時間がかかります。
またタイムパフォーマンスということで言えば、冷凍食品の売上も堅調です。
味の素の2024年3月期の事業別利益を見ると冷凍食品の利益はここ数年でも拡大傾向にあるほか、ニチレイも家庭用冷凍食品で値上げを実施したものの、販売数量を伸ばしています。*4*5
そして「メリハリ消費」「プチ贅沢」として外食を楽しむ人も増えているようです。
デロイトトーマツが全国20歳~79歳の男女5,000人を対象に実施した消費意識についての調査では「節約思考が高まり、より低価格なものを購入するようになった」という人の割合は27.6%でした。
しかし一方で「節約と贅沢のメリハリをつけるようになった」という人の割合も29.4%と、ほぼ同じ水準になっています。*6
外食に使うお金が「大幅に増えた」「増えた」とする人の割合も、2022年より2023年、さらに2024年調査のほうが増えており、逆に「減った」「大幅に減った」という人の割合は減少傾向にあります。
商品別にみる消費金額の変化
(出所:デロイトトーマツグループ「デロイト トーマツ調査、消費行動において約3割が「コスパ」「節約と贅沢のメリハリ」意識が増加したと回答」)
さらに物価高の中での外食については、興味深い調査結果もあります。
リクルートの「ホットペッパーグルメ外食総研」によれば、朝に外食を利用する人の多くがその理由として「プチ贅沢が味わえる」という理由を選択しているのです。
朝に外食することの魅力トップ5(複数回答)
(出所:「魅力は「プチ贅沢」「コスパ」「非日常」男女による利用率の違いも!「朝外食」利用状況を調査」PR TIMES)
非日常的な気分になれる気分転換といった理由や、他の時間帯よりもお得、といったものも多くなっています。
日常の中に上手に「プチ贅沢」を取り入れるひとつの手段といえますし、慌ただしい朝の時間の有効活用にも繋がりそうです。
食は生活の基本中の基本です。節約疲れは少しずつ、上手に解消していきたいものです。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1共同通信「エンゲル係数、40年ぶり高水準 27%、値上げが家計圧迫」
*2日本生活共同組合連合会「「節約と値上げ」の意識についてのアンケート調査 若年層の節約に対する意識は引き続き高い傾向に」
*3日本生活協同組合連合会「「家事」への意識についてのアンケート調査 タイムパフォーマンスを意識する家事の1位は「調理・食事の支度」」
*4味の素株式会社「セグメント情報[IFRS]」
*5日本経済新聞「ニチレイの純利益11%増 2年ぶり最高、24年3月期」
*6デロイトトーマツグループ「デロイト トーマツ調査、消費行動において約3割が「コスパ」「節約と贅沢のメリハリ」意識が増加したと回答」