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私が見てきた、会社内で「不正」をする、ごく普通の人たちの話。
私が見てきた、会社内で「不正」をする、ごく普通の人たちの話。

私が見てきた、会社内で「不正」をする、ごく普通の人たちの話。

2023/09/03・提供元:安達裕哉

コンサルタントをやっていた時、様々な会社に出入りしてきましたが、あちこちで改善や目標達成のための尊い努力を見る一方で、逆に「会社員の不正」を見る機会もありました。


大半の人はまじめに仕事をしていますから、「不正なんてあるの?」と思うかもしれません。

しかし現実的には、多くの会社で「不正」は発生しており、ちょっとしたきっかけで豹変する人間も、組織の中には存在しているのです。


事実、デロイトトーマツの企業の不正リスク調査白書(Japan Fraud Survey 2022-2024)*1によれば、調査対象となった400社余りの中で、過去3年間で不正が発生した企業の割合は、5割を超えています。



では、誰が不正を行うのでしょう。



ニュースなどで大きく取り上げられる「組織ぐるみの不正」は、経営陣が中心となって行われるケースが多いように感じますが、実際には「不適切会計」あるいは「会社資産の不正流用」のいずれにおいても、2/3は従業員が実行者となっています。*2


また「不適切会計」の金額の中央値は1億円を超えていますが、「会社資産の不正流用」の金額をも見てみると、その最小値は200万円から、中央値は1,000万円前後となっており、決してその額も少ないとは言えません。


つまり、企業内の不正は全く珍しくなく、あらゆる組織で普通に起きている、と言っても良いのでしょう。





翻って、私の経験から話しましょう。


私が初めて「不正らしきもの」があると聞いたのは自社のケースでした。内容としては、ちょっとしたもので、要は、定期代の水増しです。


本来の最短で行く経路ではなく、ほんの少し高額な経路を申請し、小銭を稼ぐ。

そういうことをする人が何名かいた、と聞いたのでした。


それ以降「定期券は最短経路で買うこと」という確認が定例でなされるようになり、水増しをしていた本人に警告が発されました。

金額的には、上のレポートに比べるとはるかに少額で、事件性もないのですが、私にとってこれは大きな意味がありました。

つまり、「ちょっとした目の前のお金に飛びつく人が少なからずいる」ということに気づかされたのです。


そして2件目は、金銭的な不正ではありませんが、「アンケートの改ざん」です。


かつてコンサルタントの評価には「セミナーの満足度」が大きく影響していました。

セミナーの満足度が著しく基準を下回る回が何度かあると、その年はプロモーションできない、という厳しいルールがあったためです。


セミナー講師にとっては「1回1回が勝負」という、強いプレッシャーがかかることは間違いありません。

とはいえ、コンサルタントたちの絶え間ない努力によって、それまではほぼ全員が満足度の目標をクリアしていました。


ですからそこに「不正」があるなど、思いもよらなかったのです。


ところがある日のこと。

セミナールームの掃除をしていたアシスタントから

「妙なものが教卓から出てきた」

という報告を受けたのです。


見ると、過去に何度か行われたセミナーの、アンケート用紙でした。

すべて同一人物のもので、かつアンケートの結果が悪いものだけです。

教卓の奥に、くしゃくしゃに突っ込まれていました。


実は、セミナー終了後のアンケート用紙の回収は講師によってなされていました。

講師がすぐにそれを見て、セミナー参加者の反応を知るためです。


アンケートを見た後は、アシスタントにアンケート用紙が渡され、集計に回されていましたが、その間に講師が「抜き取り」をすれば、悪いアンケートは無かったことになります。


それでも、単なる回収忘れの可能性もあり、「不正」かどうかは分かりません。


意図的に抜き取りをしたのかどうか確証を得るために、過去の「アンケート回収率」を全て調べたところ、その人物だけ妙に回収率が低いときがあることが発見されたのです。


これをもって、本人に事実を確認したところ、その人物は、不正を認めました。

「プロモーションできなくなることが怖かった」と言います。


しかし、この時は経営者に報告し、警告を与えるだけで、社内への公表や懲罰は控えました。

数字を監視すれば、再発防止はできると思ったからです。


しかし、この件も私にとって認識を改める機会になりました。

「チェック機能が働かなければ、安易な道に逃げる人が出る」のです。


そして、3件目は「架空受注」でした。


コンサルタントは営業の目標を一人一人持たされていますが、ある営業の苦手なメンバーが、お客さんの印鑑を偽造し、架空の「発注書」を作って、自分の成績としたのです。


これが発覚したのは、振り込みがお客様から無かったことでした。

先方に確認を取ったところ、「発注を行った事実はない」という事がわかり、コンサルタントの不正が発覚しました。


その人物も事情を聴かれたところ、「目標未達によるプレッシャーが恐ろしかった」と言いました。

しかし、これを見逃すわけにはいきません。

お客さんの絡んだ事件ですから、信用問題にかかわります。


結局、このコンサルタントは、営業とコンサルティングの業務から外され、セミナーの講師のみをやることになりました。


しかし、改めて考えてみれば、この件はどう考えても、すぐに発覚する不正です。

「なぜこんなにすぐにばれることをしたのか……」と思いましたが、ここでも私は認識を改めました。


つまり「成績へのプレッシャー」は、人を近視眼的にさせるのです。


目の前の苦痛を回避するためだけに、冷静になれば、どう考えても割に合わないようなことをやってしまう。


それが、人間なのです。





デロイトトーマツのレポートでは、組織の不祥事の原因は、風通しの悪さにあり、その背後には、


  • 上位下達
  • 同質性の高さ
  • 隠ぺい体質
  • 過度な業績プレッシャー

があると報告されています。

これらのカルチャーが、人の「業績を上げたい」「評価されたい」「恰好をつけたい」そして「自己保身」という、個人の欲求と結びつくと、容易に不正が起きる。


考えてみれば、当時の上司は常に親会社からの強い業績のプレッシャーにさらされていました。

そのため、経営陣は社員の成果に対して、必要以上に厳しい評価を下していたと思います。

また、少額とはいえ、金銭が絡むルールのチェックが甘い、という不備もありました。


結果として、「目の前の小銭」や「評価の操作」、あるいは「成績の演出」のためだけに、不正を働く人が出てしまった。


これはもちろん、不正を行った彼ら自身にも問題があるのですが、「不正に社員を走らせてしまう」ような、ルールやマネジメントのやり方にも問題があったとすべきでしょう。


データから分かるように、社員の不正は多くの会社で起きています。

しかしそれを、「不正を行った人間の問題」として、組織のマネジメントやルールの不備を放置するのは、良い手ではありません。


不正が起きたところには、何かしらの「プレッシャー」や「誘惑」が存在しており、社員の良心を蝕んでいるのですから、不正を起こさせないような監視体制を作り、無用な誘惑に社員を晒さない、という事こそ、真の意味での不正を防ぐ手立てとなるでしょう。


人間は「悪」ではないですが、「弱」くはある。

性悪説ではなく、性弱説を前提にし、社員に余計な気を起こさせないようなルールやしくみを設定することで、不正は大きく減らせるのだと思います。


出典
*1デロイトトーマツ「Japan Fraud Survey 2022-2024 不正リスク調査白書」
*2日本経営倫理学会誌第28号(2021年)「企業不正の実態分析」



安達 裕哉
あだち ゆうや

1975年生まれ。デロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社後、品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事。その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。
大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。

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