エンゲル係数は、家計に占める食費の割合を示す指標です。物価高が続くなか、食費の節約に取り組んでいる人は多いでしょう。エンゲル係数は、どのくらいに抑えるのが理想なのでしょうか。
本コラムでは、エンゲル係数の目安と高くなる要因、食費や生活費を上手に抑えるコツを紹介します。
エンゲル係数とは、家計の消費支出に占める食費の割合です。*1
以下の算式で計算できます。
エンゲル係数(%)=食費÷家計の消費支出×100
消費支出は、個人や家族が生活を維持するために行う支出です。具体的には食費、住居費、光熱費、被服費、教育費、通信費、医療費などが含まれます。税金や社会保険料など、消費を目的としない支出は含まれません。*2
一般的に、所得が上昇するにつれて家計支出に占める食費の割合は低下する傾向にあります。1858年にこの法則を発表した、ドイツの社会統計学者エンゲルの名にちなんで「エンゲル係数」と呼ばれています。
近年、食料品価格が高騰している影響で、エンゲル係数も上昇傾向にあります。
の家計調査によると、2024年の二人以上世帯のエンゲル係数は28.3%です。*3
この数値は、1981年以来43年ぶりの高水準となりました。*4
食料品の値上がりが続く背景には、次のような要因があります。*5
多くの食品メーカーでは、これらを理由に幅広い品目で値上げを実施しています。*5
家計にとっては、日常的な買い物の負担感が増しているといえるでしょう。
エンゲル係数は収入や家族構成などによって異なるため、「〇%以内に抑えるべき」といった基準は存在しません。*6
とはいえ、食費の節約を考えるにあたって、エンゲル係数が高いかどうかの基準を知りたい人は多いでしょう。その場合は、総務省が公表しているエンゲル係数の平均値が参考になります。
総務省統計局の家計調査によると、2024年における世帯人員別のエンゲル係数は以下のとおりです。
出典)総務省統計局「家計調査 家計収支編 2024年 単身世帯(表番号1) 」
出典)総務省統計局「家計調査 家計収支編 2024年 二人以上の世帯 (表番号3-1)」
全体的に、世帯人員が増えるにつれて、エンゲル係数も高くなる傾向がみられます。
共働きが一般的になり、子どもの人数が増えるにつれて、食費節約の工夫に限界が生じることが理由の一つだと考えられます。*7
エンゲル係数が高くなる背景には、いくつかの要因が存在します。ここでは、代表的な3つの要因について見ていきましょう。
まず挙げられるのが、食料品価格の上昇です。農林水産省によると、食料の消費者物価指数は以下のように推移しています。
出典)農林水産省「我が国における食料の消費者物価の推移」
食料全体、生鮮食品を除く食料のどちらも、2022年以降、急激に上昇していることがわかります。
総務省の消費者物価指数によれば、2025年4月には、前年同月比でうるち米(コシヒカリを除く)が98.6%、チョコレートが31.0%、コーヒー豆が24.8%と大きく上昇しています。*8
消費性向とは、家計の可処分所得に対する消費の割合です。消費性向の低下は、家計の消費意欲が下がることを意味します。*9
食費を含む物価高の影響で家計の節約志向が強まると、家計の消費支出は減少します。
エンゲル係数は「食費÷家計の消費支出」で算出するため、分母である家計の消費支出が減少するとエンゲル係数は上昇します。
厚生労働省の調査によると、令和6年分の名目賃金は現金給与総額が33年ぶり、決まって支給する給与が30年ぶりの高い伸びを記録するなど、大きく上昇しています。*10
一方で、物価の変動分を反映した実質賃金指数(令和2年平均=100)をみると、現金給与総額は規模5人以上が99.4で3年連続のマイナスです。規模30人以上は99.0で2年ぶりのプラスですが、前年比0.1%増にとどまっています。
名目賃金は上昇していても、物価上昇に賃金の伸びが追いついていないことが、エンゲル係数の上昇につながっていると考えられます。*11
エンゲル係数を下げるには、無理のない範囲で食費を見直すのが効果的です。具体的には、以下のような工夫を取り入れてみましょう。*12
1週間や1ヵ月ごとに食費の予算を決めておくことで、使い過ぎの防止につながります。
食費の節約には、自炊をするのが有効です。安い食材を選んだり、作り置きをしたりすることで食費を抑えられます。また、栄養バランスに配慮したメニューにしやすいのもメリットです。
忙しくて自炊ができない場合は、中食を活用するとよいでしょう。中食とは、スーパーやコンビニなどで購入できる調理済みの食材です。ご飯は自分で炊き、総菜は中食を利用することで、外食よりも食費を節約できます。
食費の節約は家計の負担軽減につながりますが、インスタント食品ばかり食べるなど、偏った食生活を続けると体調を崩す恐れがあります。*13
また、食費の節約だけに注目しても、家計全体の節約効果は限定的かもしれません。
家計の負担を軽減したい場合は、固定費の見直しから始めるのが効果的です。*14
固定費とは、毎月決まった金額の支出があるものです。具体的には家賃、通信費、保険料などがあります。固定費はそもそも金額が大きく、一度減らすと節約効果が毎月続きます。
そのため、見直すタイミングが早いほど、得られる節約効果は大きくなります。
まずは固定費を見直し、その後に余裕があれば、食費を含む変動費の節約に取り組むとよいでしょう。
エンゲル係数は、家計の食費負担の状況がわかる重要な指標です。
食料品価格の上昇や実質賃金の低下などにより、エンゲル係数は上昇傾向にあります。数値の目安はありませんが、食費の節約に取り組む際は、平均値を参考にするとよいでしょう。
ただし、過度な食費の節約は健康を損なう可能性があります。まずは固定費の見直しから始め、その後に無理のない範囲で食費の節約に取り組みましょう。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 知るぽると「エンゲル係数とは」
*2 知るぽると「消費支出・非消費支出とは」
*3 総務省統計局「家計調査報告〔家計収支編〕2024年(令和6年)平均結果の概要 P4」
*4 日本経済新聞「個人消費、食料高が重荷 エンゲル係数43年ぶり高水準」
*5 NHK「2025年の食品値上げ1万4000品目超 原材料価格高騰や人手不足で」
*6 MoneyCanvas「エンゲル係数の計算や目安は? 物価高の中で「プチ贅沢」を楽しむ人も」
*7 日本経済新聞「エンゲル係数とは 子育て世帯の苦境にじむ」
*8 総務省「2020年基準 消費者物価指数 全国 2025年(令和7年)4月分 P2」
*9 第一生命経済研究所「エンゲル係数上昇の主因は家計の節約」
*10 厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報を公表します」
*11 第一生命経済研究所「エンゲル係数上昇の主因は実質賃金低下」
*12 三菱UFJニコス「一人暮らしの食費は1カ月いくら?食費の平均額と節約方法を解説」
*13 NHK「食費節約で“低栄養”に!?~「値上げ時代」どう健康守る~」
*14 MoneyCanvas「家計見直しはどこから始める?節約効果が大きい具体例を解説」