logo
Money Canvas(マネーキャンバス)
back icon
clear
back icon
「タカ派・ハト派」とは 金利や為替の動きにどんな影響を与える?
「タカ派・ハト派」とは 金利や為替の動きにどんな影響を与える?

「タカ派・ハト派」とは 金利や為替の動きにどんな影響を与える?

2025/05/11に公開
提供元:大西勝士

中央銀行による利上げや利下げに関するニュースでは、「タカ派」「ハト派」という言葉がよく使われます。
金利や為替の先行きを判断するには、タカ派・ハト派の意味を理解したうえで、中央銀行の金融政策の動向を注視することが重要です。

本コラムでは、タカ派・ハト派の意味や日銀・FRBの過去の事例、金融市場へ与える影響について解説します。


タカ派・ハト派とは

タカ派・ハト派とは、中央銀行(日銀、FRBなど)の金融政策に対するスタンスを意味する言葉です。
一般的には、金融引き締めを示唆する(利上げに積極的な)スタンスを「タカ派」、金融緩和を示唆する(利下げに積極的な)スタンスを「ハト派」といいます。*1

各国中央銀行の金融政策や高官の発言は、世界の金融市場に大きな影響を与えます。そのため、経済ニュースでは中央銀行の金融政策がタカ派寄りか、それともハト派寄りかといったことがよく報道されます。


中央銀行のメンバーはタカ派・ハト派のいずれかの傾向を持つ

日本では、日銀の金融政策決定会合において、金融政策の方向性について審議・決定を行います。
9名の政策委員(総裁、副総裁2名、審議委員6名)で構成されており、議事内容は多数決で決定される仕組みです。*2

また、FRBが開催するFOMC(連邦公開市場委員会)は、FRB理事7名と連邦準備銀行総裁5名の最大計12名で構成されています。*3

中央銀行の金融政策は会合で決定されますが、個々のメンバーはタカ派・ハト派のいずれかの傾向を持つことがあります。
そのため、中央銀行としての決定内容はもちろんのこと、個々のメンバーの発言に注目することも大切です。


タカ派・ハト派のほかに中道派も存在する

FOMCでは、タカ派・ハト派のほかに中道派というグループも存在します。

タカ派はインフレを強く警戒しており、金融引き締めに積極的なスタンスです。ハト派は雇用創出を優先するため、景気を下支えする金融緩和を選択する傾向にあります。
中道派は、タカ派・ハト派の中間の立場をとるグループです。*4

中道派は「インフレ抑制のため利上げの継続は必要だが、ペースは緩やかにするべき」のように、タカ派にもハト派にも配慮するのが特徴です。たとえば、FRBのパウエル議長は中道派との見方があります。


タカ派・ハト派が金融市場に与える影響

中央銀行の金融政策スタンスは、金融市場に大きな影響を与えます。ここでは、タカ派・ハト派が金利や株価、為替に与える影響について見ていきましょう。


タカ派による影響

金融政策で決まる政策金利(短期金利)とは異なり、10年国債利回りなどの長期金利は景気の先行きや物価上昇の予測を反映して市場で決まります。*5早期の利上げを示唆する発言など、中央銀行がタカ派姿勢を強めると、金融市場では将来の金利上昇が織り込まれやすくなります。
これにより、国債を買い控える動きが広がり、長期金利の上昇(国債価格の下落)につながるかもしれません。*6

通常、国債は需要が弱いと金利は上昇し(国債価格は下落)、需要が強いと金利は低下(国債価格は上昇)します。
金利がさらに上昇すると想定される場合、今すぐ国債を買うと価格が下がって損するリスクが意識されるため、長期金利が上昇しやすくなります。

中央銀行が利上げをすると金融機関の貸出金利が上がり、企業が新規借り入れを控えるため、株価下落につながる可能性もあります。*7

また、一般的には高金利の通貨で運用したほうがより多くの収益を得られるため、金利が高くなった国は通貨高になりやすい傾向にあります。*8
たとえば、FRBがタカ派姿勢を強めると円安米ドル高が進行しやすくなるでしょう。


ハト派による影響

利下げを示唆する発言など、中央銀行がハト派姿勢に転じると、市場では将来の金利低下が意識されるようになります。そのため、タカ派とは反対の影響が生じます。

具体的には、国債への需要高まりによる長期金利の下落(国債価格の上昇)、金利低下による株価上昇、通貨安が起こりやすくなるでしょう。*6 *7 *8


日銀とFRBのタカ派・ハト派の過去事例

タカ派・ハト派が金融市場に与える影響の具体例として、日銀とFRBの過去事例を紹介します。


日銀の過去事例

日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、同年7月に追加利上げを決めました。*9
これにより「日銀はタカ派(今後のさらなる利上げに前向き)」との認識が広がったことで、急激な円高進行や日経平均株価の乱高下など市場が不安定な状況が続きます。*10

そんな中、日銀の内田副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と発言をしました。
市場の動揺を抑えるための発言と捉えられ、「日銀はハト派になった」との見方も出ました。

ただし、その後に植田総裁が公の場で「金融緩和の度合いを調整していくという基本的な姿勢に変わりはない」と述べたことから、日銀の基本スタンスは利上げに前向きなタカ派であると読み取れます。

実際に、日銀は2025年1月に政策金利を0.5%程度に引き上げる追加利上げを決定しました。*11


FRBの過去事例

新型コロナからの経済正常化などを背景としたインフレ抑制のため、FRBは2022年3月にゼロ金利政策を解除し、利上げを開始しました。
その後もタカ派姿勢が維持され、2023年7月のFOMCでは政策金利の誘導目標が5.25%~5.50%に達しました。*3

その後は人手不足に改善の兆しが見られ、インフレが落ち着いたことから、2024年9月には4年半ぶりに0.5%の利下げに踏み切りました。FRBの金融政策スタンスがハト派に転じたといえるでしょう。


金利と為替の今後の見通しは?

日銀は、2025年3月の金融政策決定会合では、今の金融政策を維持することを決定しました。
米国のトランプ政権が次々と関税政策を打ち出しており、その影響を見極める必要があると判断したとみられます。
ただし、植田総裁は「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げる」としていることから、日銀はタカ派姿勢を維持する見通しです。*12

一方、FRBは2025年3月のFOMCで利下げを見送り、2会合連続で政策金利を据え置くことを決定しました。
政策金利の見通しは前回の想定が維持されており、2025年内に2回の利下げが見込まれています。ただし、トランプ政権の関税政策によるインフレへの警戒感が高まっていることから、利下げペースが落ちる(タカ派へ転換)可能性もあります。*13

日銀が利上げを、FRBが利下げを継続すれば日米金利差が縮小し、円高ドル安が進みやすくなるでしょう。
一方で、日銀が利上げを継続しても、FRBが政策金利を据え置いたり、追加利上げを実施したりして日米金利差が思うように縮小しなければ、円安傾向が続くと考えられます。


まとめ

タカ派は金融引き締め(利上げ)、ハト派は金融緩和(利下げ)に積極的な金融政策スタンスを意味します。
日銀やFRBの金融政策スタンスは金利や株価、為替に大きな影響を与えるため、高官の発言を含めてその動向を注視しておきましょう。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。

出典
*1 三菱UFJ信託銀行「オルタナティブ・データ分析による投資プロセス高度化 P4」
*2 MoneyCanvas「日銀の金融政策決定会合とは?基礎知識と株価・為替への影響をわかりやすく解説」
*3 MoneyCanvas「FOMCはいつ開催?日程や株価・為替に与える影響をわかりやすく解説」
*4 Bloomberg「FOMCメンバー、タカ派とハト派の衝突深まる-金利見通し不透明に」
*5 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「長期金利(ちょうききんり)」
*6 NHK「上昇が止まらない【経済コラム】」
*7 三菱UFJ銀行「利上げとは?住宅ローンや為替・株価・物価に与える影響をわかりやすく解説」
*8 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「外国為替の変動要因は?」
*9 mattocoLife「日銀の追加利上げ 金融政策の正常化はどうなる?」
*10 NHK「日銀、次の追加利上げはいつ?【経済コラム】」
*11 NHK「日銀 追加利上げ 政策金利0.5%程度に引き上げ 植田総裁が会見」
*12 NHK「日銀 金融政策を維持 今後の利上げはアメリカの動向を見極めて」
*13 NHK「FRB 利下げ見送り 政策金利の据え置き決定 2会合連続」


大西 勝士
おおにし かつし

金融ライター(日本FP協会 AFP認定者)。早稲田大学卒業後、会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て2017年10月より現職。大手金融機関を含む複数の金融・不動産メディアで記事を執筆中。得意領域は投資信託、不動産、税務。

関連コラム
もっとみる >
scroll-back-btn