米国のトランプ政権による関税政策により、金融市場は不安定な状況になっています。品目別では、2025年4月3日に自動車に対する25%の追加関税が発動されました。トランプ関税で、日米の株価や自動車メーカーの業績にどのような影響が出るのでしょうか。
本コラムでは、トランプ関税の全体像や狙い、日米の株価・自動車業界に与える影響について解説します。
関税とは、外国からの輸入品に課される税金です。輸入品の価格に、品目や原産地によって決められる関税率をかけて税額を計算します。*1
関税を負担するのは、輸入する国の企業や個人です。たとえば、米国企業が日本から関税率5%の商品を100万円分輸入する場合は5万円の関税がかかります。
米国の空港や港に着いたときに、輸入者である米国企業が国(米国政府)に支払います。そのため、輸入品に関税をかけることで国の収入になります。*2
関税の主な目的は、国内産業を保護することです。関税を課すと輸入コストが増加するため、輸入品の価格が上昇します。
一方、国内で製造されたものには関税がかからないため、輸入品の競争力が低下し、結果として国内産業を守ることにつながります。*1
トランプ関税は、大きく「全世界対象」「品目別」「国別」の3つに分けられます。2025年4月15日時点の関税率は以下の通りです。
出典)NHK「最新トランプ関税の全体像 現地の通関手続きどうなっている?」をもとに筆者作成
相互関税とは、貿易相手国と関税負担が対等になるように関税を課すことです。*4
日本に対する相互関税は24%となっていますが、90日間措置が停止されています。全世界を対象とした10%の一律関税、自動車や鉄鋼、アルミニウムへの25%関税はすでに発動されている状況です。*5
国別では、米国と中国の対立が激化しています。トランプ政権は中国からの輸入品への追加関税を複数回引き上げ、4月15日時点で関税は合計で145%となりました。
一方、中国も米国への対抗措置を打ち出しており、米国からの輸入品に対する関税を合計125%に引き上げました。*6
その後、5月12日に米中の両政府が貿易協議を行い、同月14日までに双方が追加関税を115%引き下げることで合意しました。
一部の関税について、90日間停止して協議を続けるとしています。両国の関税の応酬で、世界経済の不透明感が強まっていました。今回の合意は、経済への影響を抑える狙いがあると考えられます。*3
トランプ関税には、「米国経済を支える」「交渉の道具とする」の2つの狙いがあると考えられます。
トランプ政権は、米国の貿易赤字を問題視しています。*7
貿易赤字とは、輸入額が輸出額を上回っている状況です。*8
2024年の米国の貿易赤字は1兆2,117億ドル(約181兆円)で、過去最大となりました。そのため、関税を引き上げて輸入を抑えることで貿易赤字の縮小を目指しています。
関税をかけると米国内での輸入品の価格は上がり、関税がかからない米国製品への需要が高まります。その結果、米国内の製造業が活性化して雇用の増加につながります。
また、関税には「交渉の道具」としての役割もあります。たとえば、2025年1月、米国から強制送還される不法移民の受け入れをコロンビアが拒否しました。
しかし、トランプ氏が関税をかける措置を明らかにすると、一転してコロンビアは送還された移民の受け入れに同意しました。
この出来事から、トランプ政権は外交問題における交渉の道具として関税を捉えていると読み取れます。*9
ここでは、トランプ関税が株価に与える影響と今後の注目点についてみていきましょう。
以下のグラフは、2025年3月第4週からの日米株価の前日比騰落率です。
出典)三菱UFJアセットマネジメント「Global Market Outlook(2025年4月17号)P1」
相互関税が発表された4月2日以降、日経平均株価・NYダウともに急落した後に乱高下する不安定な展開が続きました。
しかし、4月14日以降は変動幅が小さくなり、相場は落ち着きつつあります。先行きが不透明で動きづらく、多くの投資家は様子見に入ったと考えられます。*10
2025年4月16日に関税措置を巡って初めての日米交渉が行われました。可能な限り早期に合意することで一致したものの、石破首相は「日米間では依然として立場には隔たりがある」としています。
相互関税が停止されている90日の間に合意に至るか、そしてその合意内容によっては、日本の株価が大きく動くかもしれません。*11
米国については、相互関税に関する各国との交渉が注目されます。
ただし、各国との交渉がいつ、どのように着地するかは不透明な状況です。景気物価指標や金融政策の動向にも左右されますが、市場が安定した状況に戻るには時間がかかるでしょう。*12
トランプ関税の発動により、日本と米国の自動車業界にそれぞれ以下のような影響が出る可能性があります。
財務省の貿易統計によると、米国は日本の自動車輸出相手国第1位で、2023年の輸出額は5兆8,439億円、輸出総額に対する構成比は33.8%となっています。*13
自動車産業は裾野が広く、関税が発動されると自動車部品をはじめ、鉄鋼、ガラス、電子部品などの関連産業の生産も減少するため、日本経済への影響が懸念されます。*14
日本の自動車メーカーが米国で販売する自動車のうち、約2割はカナダとメキシコから輸入されています。*15
カナダ・メキシコに対する25%関税、自動車・同部品への25%関税を考慮すると、米国での自動車需要は14%減少するとの試算もあります。*16
日本の自動車メーカーが生産の一部を米国に移す動きもみられますが、部品調達や人手の確保などが課題になっています。*17
トランプ関税が、日本の自動車業界へ与える影響は極めて大きいといえるでしょう。
トランプ関税の影響は、米国の自動車メーカーにも及びます。多くのメーカーは自動車の部品をメキシコやカナダ、日本、韓国、中国などから調達しています。
自動車部品にも関税がかかるため、追加関税によって生産コストが上昇する可能性があるでしょう。
各国との関税交渉の行方によっては、日本を含む他国が米国に生産拠点を移したり、米国からの自動車輸出が増えたりする可能性も考えられますが、先行きは不透明な状況です。
トランプ政権の関税政策は、市場の不確実性を高める要因となっています。特に日米の株価や自動車業界には大きな影響を与える可能性がありますが、当面は先行きが不透明な状況が続くと考えられます。
株式投資や投資信託で資産形成に取り組んでいる場合は、トランプ関税の動向を注視しながら冷静に対処することが大切です。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典
*1 日本経済新聞「関税とは かつては国家の重要な財源」
*2 NHK「【デスク解説】関税とは?誰が払うの?経済はどうなる?」
*3 NHK「【詳しく】米中貿易協議 双方が追加関税115%引き下げで合意」
*4 第一生命経済研究所「【1分解説】相互関税とは?」
*5 NHK「最新トランプ関税の全体像 現地の通関手続きどうなっている?(2025年4月18日時点)」
*6 NHK「中国 きょうから米輸入品に追加関税 計125%に 米145%に対抗」
*7 NHK「トランプ政権はなぜ関税にこだわるのか ブレーンを直撃」
*8 三菱UFJモルガン・スタンレー証券「貿易収支(ぼうえきしゅうし)」
*9 Bloomberg「トランプ関税が4日発動、その狙いと効果は-QuickTake」
*10 三菱UFJアセットマネジメント「Global Market Outlook(2025年4月17号)P1」
*11 日本経済新聞「石破首相「次につながる協議」 初の日米関税交渉を評価」
*12 三菱UFJアセットマネジメント「投資環境ウィークリー(2025年4月14日)P1」
*13 財務省貿易統計「日本の自動車輸出相手国上位10カ国の推移 P3」
*14 第一生命経済研究所「自動車関税で幅広い経済に影響が出るワケ」
*15 三菱総合研究所「「トランプ関税」が日本の自動車産業に与える影響①対カナダ・メキシコ関税が部品調達含めコスト増加圧力に」
*16 三菱総合研究所「「トランプ関税」が日本の自動車産業に与える影響②自動車関税拡大により米国自動車需要は▲14%減少のおそれ」
*17 NHK「自動車関税 日本メーカーの営業利益 3兆円押し下げる可能性も」