中国の経済成長に鈍化がみられるとして、「このまま中国経済は崩壊するのでは?」と懸念する声もあります。
しかし 国の経済状況を構成している要素は様々ですから、成長を促している要因、足を引っ張っている要因がそれぞれあります。
また、政策についても見ていかなければなりません。
そこで中国の経済の現状と先行きを、各種データをご紹介しながら見ていきたいと思います。
まず、経済の動向を示す大きな数字から見ていきましょう。
中国の2024年の実質GDP成長率は5.0%でした。*1
中国の実質GDP推移
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」
前の年よりも0.3ポイント減速しましたが、政府目標の5.0%前後は達成しています。
この「0.3ポイントの減速」「政府目標を達成」というワードをどう捉えるかは難しいところです。
そこで、 長期間での傾向を見てみましょう。
まず2001年以降のスパンで見ると中国のGDP成長率は、下のように推移しています。
中国のGDP成長率(2001年~、2025年4月29日取得)
出典)世界銀行「GDP growth (annual %) - China」
そして、同じ期間の世界全体の成長率が下のグラフです。
世界のGDP成長率(2001年~、2025年4月29日取得)
出典)世界銀行「GDP growth (annual %)」
世界全体と中国を比べると、2008年のリーマンショックからの立ち直りが中国ではやや弱く、それ以降も世界全体に比べれば中国のGDPは下降気味になっている点が指摘できます。
しかし2020年のコロナ禍以降の立ち直りは、世界全体の動向とは異なり、堅調に推移しています。
では、他の指標を見ていきましょう。
まず中国経済の成長にプラスに働いている要素を見ていきましょう。
近年の中国経済の強みと言えるのは工業生産です。
中国の工業生産の伸び率
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」
2020年のコロナ禍後すばやく立ち直って2021年には大きな伸び率を示し、その後緩やかに下降しています。
ただこれは「下降」というよりは、2021年の伸び率がコロナの反動で大きかったために減ったように見えているだけだと筆者は考えます。
その後も伸び率はプラスを維持していることを考えれば、底堅いものと言えます。
背景には、政府が2015年5月に発表したハイテク分野の振興計画「中国製造2025」があります。
次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し製造業の高度化を目指すもので、2025年が最終年になりますが、 目標の9割近くを達成したとの分析もあります。*2*3
また、中国は輸出総額世界一の貿易大国です。*4
2024年の輸出入総額は前の年より5%増えて43兆8500億元(1元=約21.5円)で過去最高を記録しました。成長率は世界の主要経済圏の中でもとりわけ高い水準です。
現在、中国は貿易相手としての欧米への依存度を下げています。
ASEANを始めとする振興市場との貿易量が大半を占め、また、中南米、アフリカ、中央アジア5ヶ国、中欧・東欧などにも市場を広げたことが功を奏したと考えられます。
中国の貿易収支
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」
また、太陽光発電製品の輸出額は4年連続で2000億元を超え、リチウムイオンバッテリーの輸出量は2024年に過去最高を更新しました。
これらの 脱炭素ビジネスも好調のようです。
一方で足を引っ張る不安要素もあります。
まず、 不動産バブルの崩壊です。
2020年のコロナ拡大を機に始まった住宅販売・開発の暴落は、 2024年9月以降の政府による需要喚起策によって一度は上昇に転じましたが、消費者の住宅購入意欲は低迷が続いています。*5
中国での住宅購入意欲
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」
というのは、住宅価格はさらに下がると考える人が多く、住宅の買い控えが起きているため、価格を下落させる圧力になっているためです。
よって 不動産市場はいつ回復に転じるかはまだわからないというのが実際のところでしょう。
また、 個人消費の弱含みも気になるところです。家電や通信機器は政府の政策によって大きく増加しましたが、自動車などの減少が消費者物価を押し下げています。*5
小売売上高と消費者物価指数の推移
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」
物価は下落傾向にあり、 デフレ懸念が高まっているとも指摘されています。
ここまで、中国の経済を占う主な項目をご紹介してきました。強さを見せているところ、弱くなっているところのバランスで国としての経済成長が概ね決まっていきます。
上記のデータを見ていくと、 一方的に「崩壊」を語るにはまだ早そうです。
中国の各種経済指標については、月ベースで発表されるもの、四半期、半期ベースで発表されるもの、そして年間ベースで発表されるものがありますので、純粋にそれだけを追ってしまうと混乱してしまうことでしょう。
とくに月別、四半期別といった 短期的な数字は投機筋の人には必要な情報ですが、長期的に見た個人の資産形成とは考慮すべき内容は異なる場合が多くあります。
もちろん過去にはブラックマンデーやリーマンショックのような「突然の暴落」もありました。
ただその際には前兆が報じられることも多いですから、ニュースは 目先の数字だけでなく、その国の経済や政策にどのような歪みが生じているのかという本質をチェックして知識を積み重ねていきたいものです。
なお、中国政府は2025年の経済目標を下のように掲げています。
2025年の経済目標
出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」
まずはこの目標に向かって各指標がどのように推移していくかに注目です。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
最終的な投資判断、金融商品のご選択に際しては、お客さまご自身の判断でお取り組みをお願いいたします。
出典)
*1 JETRO「中国、2024年の経済成長率は5.0%、政府目標を達成」
*2 日本経済新聞「中国製造2025とは 重点10分野と23品目に力」
*3 日本経済新聞「中国製造2025、ハイテク目標の大半達成 米制裁もバネに」
*4 日経BP「中国2024年の輸出入総額は43兆元超 対外貿易に4つの注目点」
*5 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中国景気概況(2025年4月)」