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春闘の意義とは?春闘への疑問の声と実際の意義を徹底解説

春闘の意義とは?春闘への疑問の声と実際の意義を徹底解説

2025/04/17に公開
提供元:Money Canvas

春闘(春季生活闘争)とは、毎年春に労働組合が賃金引き上げなど労働条件の改善を経営側に求めて行う一連の交渉のことです。*1
日本の多くの企業では会計年度が4月始まりであるため、新年度に向けて2〜3月に集中して交渉が行われます。

半世紀以上の歴史を持つ日本独特の慣行であり、1955年に鉄鋼や電機など主要産業の労組が同じ時期に一斉に賃上げ要求に立ち上がったことがその起源とされています。
労働組合側は足並みを揃えて団結することで経営側への交渉力を高め、賃上げを勝ち取ろうという狙いがありました。*2

現在では、企業別労組が労働組合の全国中央組織(たとえば日本労働組合総連合会=連合)や産業別労組の指針に基づき要求をまとめ、各企業で団体交渉を行う方式が定着しています。

しかし一方で、近年「春闘には本当に意義があるのか?」という声も聞かれます。物価高の中で実質的な賃金が改善しないことや、大企業と比べて中小企業では賃上げが難しい現状などが、その主な理由です。

本記事では、公的データや企業の発表を基に、春闘の意義に対して様々な声が挙がる背景を分析し、実際の意義についてくわしく解説します。


春闘とは?

まず、そもそも「春闘」とは何なのか。

その定義について解説していきます。


春闘の概要

春闘とは「春季生活闘争」の略称で、労働組合と企業経営陣との間で毎年春に行われる労使交渉のことです。
労働組合が賃金(ベースアップやボーナスなど)や労働時間、福利厚生など労働条件の改善要求を企業に対して提出し、団体交渉を行います。
多くの企業で新年度が始まる4月にあわせて2〜3月に交渉が行われるため「春闘」と呼ばれます。

現在の春闘方式は1956年頃から本格的に始まったといわれ、60年以上にわたり続いています。

1950年代半ばに始まった当初の春闘では、鉄道・炭鉱・電機など主要産業の労働組合が時期と要求内容をそろえて一斉に交渉を行い、その賃上げ水準が他産業や中小企業、果ては公務員にまで波及しました。
こうした「全国的・同時期・統一要求」の取り組みにより、日本全体で賃金水準を底上げし、高度経済成長を下支えしたとも評価されています。*3

春闘の中心となるのは賃金引き上げ交渉ですが、それだけではありません。
交渉事項は年々多様化・複雑化しており、ワークライフバランスの推進(労働時間短縮や休暇制度の拡充)や非正規労働者の待遇改善なども重要なテーマです。
春闘は労働者の賃金だけでなく、職場環境や働き方改革に関する課題を労使で話し合う場ともなっているのです。*4


ベア(ベースアップ)とは

春闘の賃金交渉では「ベア(ベースアップ)」と「定昇(定期昇給)」という言葉が登場します。

ベア(ベースアップ)とはその名のとおり基本給(ベース)の水準を引き上げることを意味します。
全従業員の基本給を一律に底上げするもので、賃金体系そのものを押し上げるため企業にとっては人件費増加に直結します。

一方、定昇(定期昇給)とは勤続年数や年齢に応じて毎年自動的に基本給が上がる制度です。
定昇によっても個々の賃金は上がりますが、あくまで既定の賃金テーブルに沿った昇給であり、賃金体系全体の水準を変えるものではありません。
そのため、たとえば物価が上昇している局面では、従来の定昇だけでは生活水準を維持しにくくなります。こうした場合には賃金体系そのものを引き上げるベアが重視されます。

実際、近年の歴史的な物価高を受けて連合(労組側)は「物価に負けない賃上げ」を掲げ、2024年春闘ではベア分で「3%以上」、定昇分と合わせて「5%以上」の賃上げ要求目標を打ち出しました。*2


春闘の意義に対して様々な声が挙がる理由

ここまで春闘の歴史や目的を紹介してきましたが、一方で「春闘には本当に意義があるのか?」といった声も聞かれます。

そのような声が挙がる背景について解説します。


実質賃金の減少

春闘による賃上げが実感を伴わない最大の要因として、物価上昇に賃金が追いつかず実質賃金(物価を考慮した購買力ベースの賃金)が下がっていることが挙げられます。
近年、日本ではエネルギー価格や輸入物価の上昇により消費者物価指数(CPI)が上がり続けています。それにも関わらず、賃金の上昇率が物価上昇率に追いつかなければ、実質賃金は目減りしてしまいます。

厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、2023年度の名目賃金(現金給与総額)は前年度比+1.3%増と一見上昇しましたが、物価変動を考慮した実質賃金は▲2.2%減となり、2年連続でマイナスを記録しました。
これは消費税増税の影響があった2014年度以来の大幅な実質賃金の落ち込み幅であり、物価高に賃上げが追いついていないことを示しています。*5

賃金交渉で数%の昇給が勝ち取られても、その間に物価がそれ以上に上昇してしまえば労働者の生活はむしろ苦しくなるため、春闘の意義や効果に対して疑問を感じる人が出てくるのです。

現実に、2022年頃からの物価高局面では「春闘で○%賃上げ」といったニュースが報じられても、その年のインフレ率が同程度かそれ以上であれば実質的な生活向上につながりません。

このように「賃金が上がっても生活は楽にならない」状況が続けば、春闘による賃上げの意義に疑問を呈する声が出るのも無理はありません。


中小企業での賃上げの難しさ

春闘は主に大企業の労働組合が中心となって展開されます。
では、日本の大多数を占める中小企業ではどうでしょうか。実情として、中小企業では大企業ほど十分な賃上げが行えないケースが多く、「春闘は自分には関係がない」と言われる一因となっています。

大企業と中小企業の賃上げ格差を示すデータがあります。連合の2024年春闘集計によれば、従業員300人未満の中小企業2,480社における平均賃上げ率(定昇込み)は4.66%と、全体平均の5.17%を下回っています。
賃上げ額にして約2,000円程度、大企業より中小企業の方が低い水準でした。
*6

賃上げ余力の大きい大手製造業などでは30年ぶりの高水準となる5%超の昇給が相次ぎましたが、その波が中小企業には十分に及んでいないことがわかります。

背景には、中小企業の多くが原材料高やエネルギーコストの上昇など厳しい経営環境に直面し、人件費を大幅に増やす余裕がないことがあります。
一方で、人材確保のために賃上げを行う大企業に対し、中小企業は賃金面で競争力が劣ると人材流出のリスクも高まります。
このようにジレンマを抱え、「中小企業には春闘で賃上げする余力がない」という指摘が現実味を帯びているのです。


労働者の大半が労使交渉の枠外にいる現実

さらに構造的な問題として、日本全体で労働組合の組織率が低下傾向にあることも挙げられます。
厚生労働省の調査によれば、労働組合に加入している労働者の割合である推定組織率は2024年時点でわずか16.1%と過去最低水準となっています。*7

労働組合のない企業まで含めると、労組がある企業は全体の2%程度に過ぎないとも言われています。つまり、日本の被雇用者の大多数は春闘の当事者となる労使交渉の枠外にいるのが現状です。*8
労働組合がない職場では春闘のような団体交渉が行われず、経営側が一方的に決めた賃金改定や市場相場に任せた昇給しか期待できないケースも多くなります。
そのため「春闘でいくら賃上げが決まっても、ウチの会社(非組合・中小)には関係がない」と感じる労働者も少なくありません。


春闘の流れ

春闘は毎年決まった流れで準備・交渉が進みます。実際の賃金交渉は2〜3月に行われますが、前年の夏頃から水面下で動き始めています。
以下に春闘の一般的な進行プロセスをまとめます。


前年8月〜9月頃:方針の検討開始

労働組合は経済情勢や物価動向を踏まえ、翌春闘での要求水準や重点課題の検討を始めます。政府も経済団体に賃上げの要請を行います。


前年12月:闘争方針の策定

連合は12月上旬に中央委員会を開き、翌年春闘の全体方針を決定・発表します。産業別労組もこれに基づき、具体的な要求目標を定めます。


1月中旬〜2月:各社で要求書提出

年明けに各企業の労働組合は賃上げ要求額や労働条件の要求事項を取りまとめ、2月中旬頃に経営側に要求書を提出します。


2月下旬〜3月:労使交渉・回答

2月後半から3月にかけて団体交渉が行われ、3月中旬の「集中回答日」に大手企業が一斉に回答を出します。

近年ではトヨタ自動車が業界をリードして早期に満額回答を表明するケースもあり、春闘相場の牽引役とされるトヨタ自動車が早期に高い賃上げを示すことで、他企業への波及効果が期待されると報じられています。


3月下旬〜4月:妥結・賃金改定の実施

大半の企業では3月末までに妥結し、4月から賃金改定が実施されます。回答に不満が残る場合、追加交渉やストライキ通告が行われることもありますが、最近ではストライキに発展する例は少なくなっています。

たとえば厚生労働省集計(主要企業約350社の平均)では2024年の賃上げ率が5.33%と33年ぶりの高水準となったことが公表されています。*9

以上が春闘の基本的な流れです。
このように春闘は一年がかりで準備される国家的な労使イベントであり、労働者の生活に直結する重要な交渉の場となっています。


春闘は賃金水準を見直す貴重な機会としての側面がある

「春闘には本当に意義があるのか?」という声について、その背景には実質賃金の伸び悩みや中小企業への波及不足といった現実問題が存在することを紹介しました。

しかし、データや動向をくわしく見てきたように、春闘は決して無意味なものではありません。
むしろ、毎年春闘という場があることで日本全体として賃金水準を見直す機会が定期的に確保されているともいえます。

特に物価高や人手不足が課題となる中、経済の好循環をめざすうえで、春闘は重要なプラットフォームとなっています。実際、2024年の春闘では主要企業の賃上げ率が平均5%を超え、30年以上ぶりの高い水準となりました。
この歴史的な賃上げは長年停滞してきた日本の賃金を押し上げ、労働者の購買力回復に向けた第一歩と評価されています。

さらに春闘は賃金以外の労働条件改善にも寄与してきました。

長時間労働の是正や育児・介護と仕事の両立支援、非正規社員の待遇改善など、春闘で提起された課題が社会的な議論を喚起し、その後の労働法制や企業の人事制度改革につながった例も多くあります。

もちろん課題が解消されたわけではなく、今後も物価動向に見合った賃上げや、中小企業・非正規労働者への波及をいかに実現するかが問われています。

しかし、春闘は労働者の声を集約し、経営側と対話する場として機能し続けており、働く人々の生活と日本経済の行方を左右しうる重要な役割を今なお担っているのです。



本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。

出典
*1 厚生労働省「春闘」
*2 ニッポンドットコム「「春闘」とは何? 日本独特の賃上げ交渉、スタートは1955年」
*3 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「春闘」 の意味と役割, 今後の課題」
*4 日本労働組合総連合会「「春闘」ってなに?」
*5 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「実質賃金が2年連続で前年度比マイナス――厚生労働省「毎月勤労統計調査」2023年度分結果確報」
*6 エデンレッド「2024年春闘|大企業と中小企業の賃上げ率格差、その解消への道」
*7 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「推定組織率は16.1%で3年続けて過去最低水準に――厚生労働省の2024年「労働組合基礎調査」結果」
*8 PICTET 「春闘はポジティブなサインなのか?」
*9 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「賃上げ率は5.33%で33年ぶりの5%台――厚生労働省「2024年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」」

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