教育費は、住宅費、老後費とならんで「人生の3大費用」の1つです。
大学卒業までにどのくらいの教育費が必要なのでしょうか。
また、現在、注目されている高校の授業料無償化とはどのようなものなのでしょうか。
それによって何がどう変わるのでしょうか。
この記事では、教育費の目安を押さえたうえで、高校の授業料無償化についてさまざまな側面からみていきます。
まず、3歳の幼稚園入園から大学卒業までにかかる費用の総計をみていきましょう。
文部科学省が行った「令和5年度子供の学習費調査」によると、幼稚園から高等学校第3学年までの15年間にかかった教育費の総額は、次の表1のとおりです。*1
表1 2023年度学校種別教育費総額合計
出典)文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します」p.2を基に筆者作成
この表をみて、公立と私立とではかなりの差があるという印象を持つ人も多いかもしれません。
なお、この金額には、入学金、授業料の他に、通学費や修学旅行費、学習塾や習い事にかかる費用なども含まれています。
次に、学習費の総額を公立・私立のコース別にみてみましょう(図1)。
図1 2023年度学校種別教育費総額合計・コース別
出典)文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します」p.2
幼稚園から高校卒業までの15年間の間にかかった教育費の総額は、すべて公立の場合には596万円、すべて私立の場合は1,976万円となっています。
次に大学の4年間ではどのくらいの教育費がかかるのでしょうか。
日本政策金融公庫が行った「令和3年度教育費負担の実態調査」によると、大学4年間にかかった教育費の総額は以下のとおりです。
表2 大学4年間の教育費用
出典)日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査結果」p.7を基に筆者作成
なお、この額にも、入学金や授業料の他に、通学費や教科書代、学習塾や習いごとなどにかかる費用が含まれます。
これに図1の数値を加えると、幼稚園3歳から大学卒業までにかかった教育費の総額は、以下のようになります。
表3 幼稚園3歳から大学卒業までにかかる教育費の総額
*以下を基に筆者作成
出典)文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します」p.2
出典)日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査結果」p.7
このように、最低でも1,077.2万円、最高では2,797.6万円かかっており、公立か私立かによって教育費の総額に大きな開きがある ことがわかります。
では、高校と大学の教育費はどのようにして捻出しているのでしょうか。
教育費の捻出方法は、図2のようになっています。
図2 教育費の捻出方法(3つまで複数回答)
出典)日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査結果」p.12
上位4項目(2021年)は、「教育費以外の支出を削っている(節約)」(28.6%)、「子供(在学者本人)がアルバイトをしている」(21.5%)、「奨学金を受けている」(19.2%)、「預貯金や保険などを取り崩している」(18.8%) でした(図2)。
次に、教育費の捻出法としてもっとも割合が高かった「教育費以外の支出を削っている」という回答をした人に、節約している支出を尋ねると、図3のような結果になりました。
図3 節約している支出(3つまで複数回答)
出典)日本政策金融公庫「令和3年度教育費負担の実態調査結果」p.12
節約している支出の上位4項目は、「旅行・レジャー費」(62.2%)、「外食費」(59.8%)、「衣類の購入費」(38.9%)、「食費(外食費を除く)」(32.8%) でした。
このように、教育費を捻出するために、支出を抑えている家庭が多いことがわかります。
こうした状況の下、高校の授業料が無償化されるという動きがあります。
その内容と、無償化によって何が変わるのか、また課題はないのかについてみていきます。
日本では私費負担が高く、公財政教育支出(国や地方などが教育のために支払う支出)が小さいという指摘があります。*3
それは事実でしょうか。
下の図4は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の公財政教育支出の対GDP比を表しています。
図4 OECD諸国における公財政教育支出の対GDP比
出典)文部科学省「文教・科学技術(参考資料)」(2023年10月11日)p.3
まず、上のグラフで公財政教育支出対GDP比をみると、日本は3.0%で、OECD平均4.3%の約7割にすぎない ことがわかります。
また、下のグラフをみると、在学者1人当たりの公財政教育支出対国民1人当たりGDP比も、OECD平均の22.7%を下回る22.2%であることがわかります。
ただし、OECD諸国を見ると、公財政教育支出が大きい国は、税金の負担も大きい傾向がみられます。
現在、話題になっている高校の授業料無償化の制度は、正式には修学支援制度といいます。2025年3月末日までこの制度は、以下の図5のような仕組みでした。*4
図5 2025年3月末日までの修学支援制度
出典)文部科学省「高校生等への修学支援」p.2
2010年以降、家庭の年収が910万円未満の場合、公立・私立を問わず、高校生1人あたり年間11万8,800円が支給されてきました 。
これは、公立高校の年間授業料に相当する額です。*5
また、私立の場合には、年収590万円未満の家庭に限って、高校生1人あたり年間39万6,000円を上限に加算されていました 。
これは私立高校の授業料の全国平均額をふまえた金額です。
高校の授業料無償化は、衆議院での修正で1,064億円が追加され、2025年3月31日に成立しました。*6
これによって、910万円未満という年収要件が撤廃され、2025年4月から年収にかかわらず公立・私立ともに年間11万8800円の就学支援金が支給 されることになりました。
この措置によって、新たに約87万人の高校生がこの制度の対象となる見通しです。
さらに来年4月からは、私立高校に通う高校生への加算支給も所得制限をなくし、さらに上限額を現在の39万6,000円から、45万7,000円に引き上げる予定です。*5
これは、私立高校の授業料の推移を考慮した措置です。
このように、公立・私立を問わず、また家庭の所得に関係なく、高校の授業料が無償化されるという大きな方向転換が行われようとしているのです。
国がこうした方向性を打ち出した背景には、いくつかの事情があります 。
その1つは、上述のように日本は公財政教育支出が小さく、家庭の負担が重いことです。
また、急速な少子化に歯止めをかける対策が必要だという状況もあります。
さらに、高校の授業料無償化は地方自治体によって取り組みが異なることから、全国一律に実施して「教育機会の均等」を実現すべきだという声も高まっていました。
制度改正のメリットは、なんといっても、こうした経済面の支えが生徒たちの選択肢を広げる ことにつながる点です。
ただし、留意点もあります。
修学支援制度でカバーできるのは、あくまで授業料のみ だということです。
上述のように、教育には授業料以外にも諸々の費用が必要だということを認識する必要があります。
また、私立高校の支援金が45万7,000円になったとしても、それはあくまで平均値をもとにした金額で、それを上回る授業料の学校もあります。
したがって、すべての高校の授業料が無償化されるというわけではないことも、心にとめておく必要があるでしょう。
高校の授業料無償化については、多くの課題も指摘 されています。
まず、公立離れが生じたり、私立高校の授業料が値上げされるのではないかという危惧を抱く人がいます。
また、所得制限が撤廃されることで、経済力のある家庭は無償化で余裕がでた分を塾代や習い事にあてることができる一方で、それができない家庭もあるため、結局また別の格差を生じさせるだけではないかという厳しい意見もあります。
さらに、1,000億円を超える財源をどうするのかといった深刻な課題もあります。
教育は子どもの将来に関わる大切なものです。
授業料の無償化と同時に、皆が等しく質の高い教育が受けられるような環境整備も必要でしょう。
高校の授業料無償化についてはさまざまな側面に目を向け、その動向を注視する必要がありそう です。
本コラム執筆時点における情報に基づいて作成しておりますので、最新情報との乖離にご注意ください。
出典
*1 文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します」(2024年12月25日)p.2, 4
*2 日本政策金融公庫「子供1人当たりにかける教育費用(高校入学から大学卒業まで)は減少~令和3年度「教育費負担の実態調査結果」~」(2021年12月20日)p.4, 7, 12
*3 文部科学省「文教・科学技術(参考資料)」(2023年10月11日)p.3, 4
*4 文部科学省「高校生等への修学支援」p.2
*5 NHK「1からわかる 高校授業料無償化で高校は?」(2025年3月11日)
*6 教育新聞「25年予算が成立 衆院修正で公立高校は実質無償化に」(2025年3月31日)